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第3部 第14話「スチームとシャッター音と、すれ違う鼓動」
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「では、シャッター切ります! 3、2、1……はい、ナチュラルに微笑んでくださーい!」
カシャッ。カシャッカシャッ。
スチームの湯気が幻想的に立ちのぼるスタジオ。
その中央、湯上がりを思わせるゆるジャケットに、柔らかなコットンパンツ。
“整い直後の夫婦”というコンセプトのもと、義春と紬は並んで立っていた。
「……しかし、なんか照れるな」
「もう何回目の撮影? 今さら何照れてんのよ」
「いや、今日のテーマ“夫婦の距離感と無言の信頼”って……地味にハードル高くない?」
「無言の信頼ね……実際は“無言のじらし”だけどね?」
「ぐっ……」
撮影チームのカメラマンとディレクターはご機嫌そのものだった。
「いいですねー! 紬さんの視線、義春さんに向けて少しだけ外してください!
はい、そこ! “これから始まる予感”って感じ、最高です!」
(始まってるようで始まってない、って言いたいだけだろ)
義春は心の中で突っ込みつつ、言われた通りに体を傾けた。
________________________________________
撮影の合間に
休憩時間、クールサウナのスタッフがコーヒーを配って回っていた。
「紬さん、今日も完璧な仕上がりでした! CM放映が楽しみです」
「ありがとうございます。……って、あれ? 新しい顔ぶれの方がいますね」
「ええ、新しくブランド戦略に加わった“バリキャリ女史”です。
元ファッション系商社の超エースで、“効率と論理でブランドを育てる女”って社内で有名です」
「ああ……あの人か」
義春がちらりと見た先、スーツ姿で周囲に指示を飛ばしているその女性は――
「おお……見覚えある……」
「え?」
「……いや、大学時代、同じゼミだったかも。確か、ものすごく真面目でストイックだった人」
「ふーん……(なにそれ、気になる)」
紬が軽く唇を尖らせたのを、義春は気づかないふりをした。
________________________________________
撮影終了後――控室にて
「……というわけで、次回の撮影は“サウナと育児”をテーマにしたシリーズになるそうです」
「え、育児? なんで急に?」
「“整う家庭”をブランドに落とし込むらしいよ。
つまり、我々に“未来の家族像”を演じてほしいというメッセージ」
「な、なんかハードル上がってない!?」
「今度のコンセプト、ちょっと聞いてみたけど――
“実際に子どもがいるかどうかは、演技力でカバーしてください”だって」
「……完全に“夫婦扱い”が固定されたな」
「うん……でも、私たちが否定しなかったのがいけないのかもね?」
義春は一瞬、言葉に詰まった。
(本当に、これでいいのか? いや、よくない。でも今はまだ……)
「……そろそろ家、帰るか。次の動画、“鍋でととのうシリーズ”の編集もしないと」
「お、鍋シリーズ楽しみ! 今夜は牡蠣と発酵白菜の白湯でいこう」
「異論なし」
________________________________________
帰宅後のニュース
帰宅し、玄関の靴を脱いだとき。
また、郵便受けに大きな封筒が届いていた。
「え……また何かきてる。今度は“文科省”?」
義春が開封すると、そこには――
『全国高等学校 “ととのい教育”モデル校指定制度』に関して、
本制度のアドバイザリーに義春氏を任命したく、お願い申し上げます――
「……国が、俺を“教育界の整い代表”にしようとしている……!」
「もう、ほんとにどうなってるのこの人……!」
カシャッ。カシャッカシャッ。
スチームの湯気が幻想的に立ちのぼるスタジオ。
その中央、湯上がりを思わせるゆるジャケットに、柔らかなコットンパンツ。
“整い直後の夫婦”というコンセプトのもと、義春と紬は並んで立っていた。
「……しかし、なんか照れるな」
「もう何回目の撮影? 今さら何照れてんのよ」
「いや、今日のテーマ“夫婦の距離感と無言の信頼”って……地味にハードル高くない?」
「無言の信頼ね……実際は“無言のじらし”だけどね?」
「ぐっ……」
撮影チームのカメラマンとディレクターはご機嫌そのものだった。
「いいですねー! 紬さんの視線、義春さんに向けて少しだけ外してください!
はい、そこ! “これから始まる予感”って感じ、最高です!」
(始まってるようで始まってない、って言いたいだけだろ)
義春は心の中で突っ込みつつ、言われた通りに体を傾けた。
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撮影の合間に
休憩時間、クールサウナのスタッフがコーヒーを配って回っていた。
「紬さん、今日も完璧な仕上がりでした! CM放映が楽しみです」
「ありがとうございます。……って、あれ? 新しい顔ぶれの方がいますね」
「ええ、新しくブランド戦略に加わった“バリキャリ女史”です。
元ファッション系商社の超エースで、“効率と論理でブランドを育てる女”って社内で有名です」
「ああ……あの人か」
義春がちらりと見た先、スーツ姿で周囲に指示を飛ばしているその女性は――
「おお……見覚えある……」
「え?」
「……いや、大学時代、同じゼミだったかも。確か、ものすごく真面目でストイックだった人」
「ふーん……(なにそれ、気になる)」
紬が軽く唇を尖らせたのを、義春は気づかないふりをした。
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撮影終了後――控室にて
「……というわけで、次回の撮影は“サウナと育児”をテーマにしたシリーズになるそうです」
「え、育児? なんで急に?」
「“整う家庭”をブランドに落とし込むらしいよ。
つまり、我々に“未来の家族像”を演じてほしいというメッセージ」
「な、なんかハードル上がってない!?」
「今度のコンセプト、ちょっと聞いてみたけど――
“実際に子どもがいるかどうかは、演技力でカバーしてください”だって」
「……完全に“夫婦扱い”が固定されたな」
「うん……でも、私たちが否定しなかったのがいけないのかもね?」
義春は一瞬、言葉に詰まった。
(本当に、これでいいのか? いや、よくない。でも今はまだ……)
「……そろそろ家、帰るか。次の動画、“鍋でととのうシリーズ”の編集もしないと」
「お、鍋シリーズ楽しみ! 今夜は牡蠣と発酵白菜の白湯でいこう」
「異論なし」
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帰宅後のニュース
帰宅し、玄関の靴を脱いだとき。
また、郵便受けに大きな封筒が届いていた。
「え……また何かきてる。今度は“文科省”?」
義春が開封すると、そこには――
『全国高等学校 “ととのい教育”モデル校指定制度』に関して、
本制度のアドバイザリーに義春氏を任命したく、お願い申し上げます――
「……国が、俺を“教育界の整い代表”にしようとしている……!」
「もう、ほんとにどうなってるのこの人……!」
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