トゥーマウス

大好き丸

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第二十四話 奥の手

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 毒蛇の信徒。

 七大罪の一つ”憤怒”の悪魔に迎合する奉仕悪魔。人間の体から頭と脊柱を取り除きアナコンダの様な大蛇を取り付けた奇妙な姿をしていて、一見すれば蜥蜴に見えるが実は別々の生き物。共生している二者はそれぞれの意思を持ちそれぞれの特異能力を持っている。
 サタン信奉者の悪魔崇拝者たちが召喚した試しがあったが召喚者が食い散らかされ、指導者のいなくなった悪魔は退治されるまでの間、人を食い漁っていたというただの食い意地の張った下衆悪魔でもある。

「目を見るな!!」

 アルファチームは毒蛇の信徒の体を注視する。こうするのにはもちろん理由がある。”蛇眼じゃがん”という蛇側の能力。目が合ったものの体を麻痺させる効果を持つ。

「近づけさせるな!!」

 銃を取り出して構える。人間の体の方には捕まえた獲物を逃げない様にさせる為の能力”融接ゆうせつ”があり、その名の通り捕まえた相手の体に細胞レベルで融合し接続する。必要な情報を取り出したり、蛇を支えるべき体が損傷した場合に相手と体を交換する時に使用される。または、蛇に捕まえた獲物を食べさせる時にも使用され、捕まえられたものは成す術なく丸飲みにされる。

「プルソンナイス!何の悪魔を召喚しようか決めかねてたの!折角だからあの女共には丸のみにされる恐怖を味わってもらいましょう」

 リナは「きゃはっ」と年相応ともいえる可愛らしい声で喜び、自分の周りにも毒蛇の信徒を同じ数の30体くらい追加召喚した。プルソンに召喚された悪魔たちは全員敵に向いているが、リナが召喚した悪魔たちは少々反抗的だ。
 というのもリナを捕まえようとしたのが4匹ほどいたのだ。しかし、魔方陣の中にいるリナに手を出す事は出来ない。不思議な力に阻まれてリナの体に触れる事も出来ず押し戻される。

「なにこの子たち?いらない」

 リナが右手でパチンと指を鳴らすと、逆らった4匹の悪魔が目の前で弾けた。肉片となって落ちた仲間だったものを見て、リナの周りの悪魔は一斉にアルファチームの方向を見る。強者に逆らえない。

「はい。じゃ殺して」

 命令すると即座に動き出した。手を前に突き出し、ドドドッと走ってくる。常人より少し早い程度な事を思えば隊員たちでも対処可能だ。超常の悪魔たちを目の当たりにして間隔が麻痺しているのか止まって見える。アルファチームが引き金に指をかけた時、リョウの体を乗っ取ったベルゼブブが前に出た。

「あんたたちの相手は、わ・た・し」

 ニヤァッと嫌な笑いをしながら来るのを待つ。プルソンが召喚した悪魔たちも共に動き出し、黒い波が押し寄せる。アルファチームが下がっているので必然最初に接敵するのはベルゼブブ。目の前を覆い隠す様に攻撃を仕掛けてくるが、その手が届く事は無かった。

 ドンッ

 プルソンは毒蛇の信徒ごとベルゼブブを衝撃波に巻き込んだのだ。グシャグシャグシャッと6匹くらいと一緒に小さくまとめられる。

「死ねぇ!!」

 ドンドンドンドンドンッ

 連続で同じ場所に何度も衝撃波を送られる。その衝撃波に巻き込まれない様に迂回して、悪魔たちはアルファチームを飲み込もうと突き進む。
 ベルゼブブを気にしている場合ではない隊員たちは即座に銃を撃つ。

 パァンッパァンッ

 弾が当たった悪魔たちは弾け飛び、本来の威力以上の形で体が吹き飛ぶ。無限光アインソフオウルによる聖なる力。その力を増幅させる銀弾。この二つが合わさり、まるで戦車の砲弾でも受けたかのように吹き飛ぶ。

「あっ……!!」

 それでも押し寄せる勢いに負けて捕まる隊員が出始めた。捕まってない隊員が援護して何とか事なきを得ているが、このままでは5人くらいは殺される危険性がある。

「ふーん頑張るじゃん。じゃ、追加ね」

 リナの魔方陣が光る。その瞬間後ろからまた追加で召喚される。目算で50体。

「っ!?あり得ない……!!」

 見たことがない。依り代を媒介とせずに湧き出てくる悪魔たち。プルソンの方は固有の能力で納得できても、リナの方は説明がつかない。今まで訓練を重ね、対処法を身に着けてきたが、無尽蔵に湧いてくる敵を想定した訓練など存在しなかった。

「驚いた?ふっふーん!私は特別なんだよ~」

 先程までの苛立った顔から一転、ニコニコと自慢げになった。感情の起伏が激しく、熱しやすく冷めやすい。正に子供だ。悪魔を召喚し、万能感に浸る子供。これ以上に危険な存在が他にいるだろうか?

「……悪夢ね……」

 その絶望に加え、プルソンが躍起になってベルゼブブを叩く。プルソンの下僕と一緒に巻き込まれて動けなくなっている。もし自由ならここまで考える事も無かったのかもしれないが……。
 “撤退"の二文字が頭に浮かぶ。一旦体勢を立て直してエリーナ=ホワイトと共に再度攻撃できれば勝てる見込みがある。いや、この力を鑑みれば聖釘を持ち出す事も視野に入れる必要があるだろう。

『あー……目が覚めたぜ……』

 隊長がそうこう考えているその後ろで首をゴキッと鳴らしながら立っているリョウの姿があった。驚いて振り返る。

「……え?あ、あれ?」

 未だプルソンは衝撃波を出しながら肉塊を潰している。おおよそ6体の体はビー玉サイズにまで圧縮されていた。

『……地下からスルッとな……』

 調子こいていたベルゼブブが鳴りを潜め、リョウが出てきている。一瞬希望が湧いたが、プルソン良いようにされていたのはリョウの方だったことを思い出し、複雑な気持ちになる。その顔を見て、何かに気付いた様に笑った。

『……俺がこいつより弱いのは確かだが、そんな顔をされるいわれはないな……』

 リョウが前に出てポツリと呟いた。

『……撤退しろ。俺がこいつらをまとめて殺す……』

「は?そんな事出来るわけが……」

 人差し指を口許に当てて「しーっ」と静かにするようにジェスチャーを見せた。

『……あいつに特異能力があるように、こいつにも特異能力がある。俺を信じろ……それから……』

 肩越しに隊長の顔を見て口が耳元まで裂けるようにニヤリと不敵に笑う。

『……酒はお前の奢りな?』

「へ?」ときょとんとしてしまったが、その言葉でリョウの言葉を丸ごと信じた。

「……撤退!!!」

 隊長はこの場にいるすべての生き物に届くほど大きな声で号令した。その言葉で全員の目が隊長の下に向かう。

「かっ……あの、蠅……!!」

 プルソンは自分のしていたことが無駄だったことを知り血管が切れそうな程怒りを湛える。

「お兄ちゃん、しぶとーい」

 立ち姿を見て瞬時にリョウの人格になったことを悟るリナ。隊員たちは号令と共に無限光アインソフオウルを発動。脅威的なスピードで後ろに下がり始めた。

「え?なんで逃げるの!!私が手を出してるんだから死ななきゃダメじゃない!!」

 バッと手を振るうと、それに呼応して悪魔が動き始める。しかし、それをリョウが許すはずがない。リナが命令した瞬間反応した悪魔を狙い撃ちして間合いを詰めた後、蛇の頭を噛み千切った。そして下の体も抉り取るように聖骸布のレプリカで肉を削いだ。
 毒蛇の信徒は混乱し始める。強き悪魔の板挟みで攻撃をするべきなのか判断しかねる様だ。本来召喚した者を一身に信じて戦えばいいのだが、強さに平伏する悪魔故に裏切りが発生しそうな勢いだった。

「なにしてんのよもー!!」

 リナも怒り出す。そうこうしている内にアルファチームは撤退に成功した。死者はゼロ。これだけの悪魔と連戦して生き残るなど初めての快挙であると言わざるを得ない。
 完全に撤退を確認したリョウは「はぁ……」とため息を吐く。

『……なるべく使いたくねぇんだけどな……おい、ベルゼブブ……あれやるぞ……』

「ん?もういいの?せっかく味わって食べようと思ってたのに残念ね……ま、いいわ。そうと決まれば街ごとさらってやりましょ」

 ベルゼブブの方もスッと切り替える。

『……ああ、全部な……』
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