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第二十七話 蚊帳の外
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「アシュリー……あれ……なに?」
ジューンとアシュリーが避難船に乗り込みしばらく進んでいると白い柱が天を衝く。自分たちがさっきまで立っていた場所も全てを巻き込んで立ち上る。ドーム状に街を囲み、全てを飲み込んだ。飲み込んだという表現しか頭に浮かんでこない程見事に包み込む。甲板に出ていた住人達もそれを見て悲鳴を上げる。
「街が……消えた」
アシュリーも住人達と一緒に船が進むがままただただ呆然と見る事しかできない。
バタバタバタ……
その音に数人の目が上に向かう。向かってきたのはヘリコプター。そのヘリコプターの側面には「A」の文字をマークに作り替えたようなロゴが付いている。
「あれはアークの……!」
アルファチームの隊長が呼んでいた追加部隊がやって来たのだろう。
「お姉ちゃん……」
「こーら。お仕事中は上官だぞ?姉妹でも次官と呼びなさい」
いつの間に立っていたのか、アシュリーの後ろに立ってニコニコしている。ビクッと後ろを振り向いて口を横一文字に結んだ。
「ホワイト次官!!」
ジューンはエリーナ=ホワイトに駆け寄る。
「や、お疲れジューン。二人とも大変だったね」
手を上げて軽く労う。3チームも失った最悪の戦場。一応報告はあっただろうに対応が軽すぎる。ジューンは訝しい顔でエリーナを見る。その顔に気付いてかエリーナはニコッと笑って白いドーム状の壁に目が行く。
「ベルゼブブだよ。あれは」
「は?ベルゼブブ?なんでそんな有名な悪魔の名前が……」
首を傾げるように二人を見る。
「言ってなかった?トゥーマウスの正体」
「それって……」
「おいあんたら」
そこに避難民たちの視線が刺さる。
「何か知ってそうだな。こうなった理由を……!」
理由も分からず住居を追われ、故郷を失い、路頭に迷う事を強制された住民たちは、避難を強要したアークの面々に対し怒りの表情を見せた。もちろん知っているし、知りたいというなら説明も可能だ。それを理解できるかは別として。アシュリーもジューンもどう言ったらいいか分からず困り果てる。
「知りません。我々はあなた方を避難させるように命令を受けただけです。もし知りたいと願い出るならあなた方の国家元首に直接お問い合わせください」
エリーナはこの怒りの視線に対し一方的に突っぱねた。説明が難しいならしない。誰かに丸投げしてヘイトを逸らす。一応秘密組織なのでこの対応で間違いないのだろうがあまりに人の心がない。
「ふざけんな!!こんな理不尽が許されてたまるか!!何か知ってるなら今すぐ答えろ!!」
「そうだそうだ!」と口々に騒ぎ出す。
「人の話を聞きなさい。知らないと言っているでしょう?どれだけ騒ごうとも今の状態が改善されるわけでもありません。我々に従えないというのであればそれは結構。しかし今ある命は誰がもたらしたのかよくよく考えてから発言をしなさい」
最初に声を上げた男が頭に来たのか「このっ!」とエリーナに掴みかかる。だが掴めるはずはない。手を捻り上げて、男が痛みから崩れ落ちる。
「申し訳ないのですが暴力を生業とする身ですのであなた方に勝ち目はありません。焚きつける様でアレなんですけど、我々に従い無抵抗でいて下さい。この船を怪我人で埋め尽くすのは本意ではありませんので」
手を離すと男が四つん這いで蹲った。その様子を見て手に力が入るものがいたが、エリーナが前に出ると途端に敵意を失くし後ろに下がった。暴力による支配。悪魔とやっていることは変わらないが、先に暴力に出たのはここに這っている男である事を思えば正当性も生まれる。
「心配せずともこの船に乗っている方々はもう安心です。生きてここを出られたのですから今後ともその生を謳歌してください。大陸に着いたらあなた方は自由です。それまでは我慢してくださいね」
やはりこの女には人の心がない。焚きつけるだけに飽き足らず、不幸をあざ笑うような口ぶり。ここから叩き出されないだけましだとでも言いたげだ。それだけ言うと踵を返して二人の元に行く。
「これぐらい言わないと鎮まらないの。面倒よね」
ウインクでもしそうなほどフランクだ。アシュリーはこのやり口に不満を言いたげだが押し黙る。姉には口で勝てないからだと察する。ジューンはこの敵意剥き出しともとれる行動に自らヘイトを買って出た事を知る。どこにもやれないストレスを自分たちに向ける事は目に見えている。
ならばそれを封殺し、且つ上官である自分が受ける事で部下に行くヘイトを極力下げる。なんせ命を張って助けたのは先行部隊のアシュリーとジューンなのだ。後からやってきた横暴な上官にヘイトが向くのも頷ける。
良いように捉えすぎかもしれないが、そう思って見ないとやっていられない。エリーナはもはや後ろの避難民を見ていない。糸目を薄っすら開けて先程の笑顔を消し睨みつけるように白い壁を見る。
「それじゃここは任せるわ。私は島に上陸して成り行きを見守るから後は宜しく」
その言葉を残してエリーナの体が輝きだす。バシュッと飛ぶとまるで飛行機のように飛んでいった。よく見るとヘリコプターと並走しているようにも見える。それをポカンと夢でも見ているような顔で住民たちは見送った。アシュリーもジューンも自分達では未だ届くことの無い歴然とした力の差に頭が下がる。
「皆さん。島の到着まではいましばらくかかります。この船内にはくつろげるスペースは少ないですが、今しばらく辛抱して下さい」
ジューンは大きな声で避難民に声をかける。もう何も言う事が出来ず、避難民は今起こった事も含めて呆然と状況を見守る。
ヘリコプターと並走し、いの一番に陸地に降り立ったエリーナは顔を上げて心の底からため息を吐いた。
「……たく……やりすぎよ、リョウ……」
手出しは不可能。こうなれば終わるのを待つ以外他にない。意味深にポツリと呟き、こちらも成り行きを見守る。すべてが消化されるその時まで……。
ジューンとアシュリーが避難船に乗り込みしばらく進んでいると白い柱が天を衝く。自分たちがさっきまで立っていた場所も全てを巻き込んで立ち上る。ドーム状に街を囲み、全てを飲み込んだ。飲み込んだという表現しか頭に浮かんでこない程見事に包み込む。甲板に出ていた住人達もそれを見て悲鳴を上げる。
「街が……消えた」
アシュリーも住人達と一緒に船が進むがままただただ呆然と見る事しかできない。
バタバタバタ……
その音に数人の目が上に向かう。向かってきたのはヘリコプター。そのヘリコプターの側面には「A」の文字をマークに作り替えたようなロゴが付いている。
「あれはアークの……!」
アルファチームの隊長が呼んでいた追加部隊がやって来たのだろう。
「お姉ちゃん……」
「こーら。お仕事中は上官だぞ?姉妹でも次官と呼びなさい」
いつの間に立っていたのか、アシュリーの後ろに立ってニコニコしている。ビクッと後ろを振り向いて口を横一文字に結んだ。
「ホワイト次官!!」
ジューンはエリーナ=ホワイトに駆け寄る。
「や、お疲れジューン。二人とも大変だったね」
手を上げて軽く労う。3チームも失った最悪の戦場。一応報告はあっただろうに対応が軽すぎる。ジューンは訝しい顔でエリーナを見る。その顔に気付いてかエリーナはニコッと笑って白いドーム状の壁に目が行く。
「ベルゼブブだよ。あれは」
「は?ベルゼブブ?なんでそんな有名な悪魔の名前が……」
首を傾げるように二人を見る。
「言ってなかった?トゥーマウスの正体」
「それって……」
「おいあんたら」
そこに避難民たちの視線が刺さる。
「何か知ってそうだな。こうなった理由を……!」
理由も分からず住居を追われ、故郷を失い、路頭に迷う事を強制された住民たちは、避難を強要したアークの面々に対し怒りの表情を見せた。もちろん知っているし、知りたいというなら説明も可能だ。それを理解できるかは別として。アシュリーもジューンもどう言ったらいいか分からず困り果てる。
「知りません。我々はあなた方を避難させるように命令を受けただけです。もし知りたいと願い出るならあなた方の国家元首に直接お問い合わせください」
エリーナはこの怒りの視線に対し一方的に突っぱねた。説明が難しいならしない。誰かに丸投げしてヘイトを逸らす。一応秘密組織なのでこの対応で間違いないのだろうがあまりに人の心がない。
「ふざけんな!!こんな理不尽が許されてたまるか!!何か知ってるなら今すぐ答えろ!!」
「そうだそうだ!」と口々に騒ぎ出す。
「人の話を聞きなさい。知らないと言っているでしょう?どれだけ騒ごうとも今の状態が改善されるわけでもありません。我々に従えないというのであればそれは結構。しかし今ある命は誰がもたらしたのかよくよく考えてから発言をしなさい」
最初に声を上げた男が頭に来たのか「このっ!」とエリーナに掴みかかる。だが掴めるはずはない。手を捻り上げて、男が痛みから崩れ落ちる。
「申し訳ないのですが暴力を生業とする身ですのであなた方に勝ち目はありません。焚きつける様でアレなんですけど、我々に従い無抵抗でいて下さい。この船を怪我人で埋め尽くすのは本意ではありませんので」
手を離すと男が四つん這いで蹲った。その様子を見て手に力が入るものがいたが、エリーナが前に出ると途端に敵意を失くし後ろに下がった。暴力による支配。悪魔とやっていることは変わらないが、先に暴力に出たのはここに這っている男である事を思えば正当性も生まれる。
「心配せずともこの船に乗っている方々はもう安心です。生きてここを出られたのですから今後ともその生を謳歌してください。大陸に着いたらあなた方は自由です。それまでは我慢してくださいね」
やはりこの女には人の心がない。焚きつけるだけに飽き足らず、不幸をあざ笑うような口ぶり。ここから叩き出されないだけましだとでも言いたげだ。それだけ言うと踵を返して二人の元に行く。
「これぐらい言わないと鎮まらないの。面倒よね」
ウインクでもしそうなほどフランクだ。アシュリーはこのやり口に不満を言いたげだが押し黙る。姉には口で勝てないからだと察する。ジューンはこの敵意剥き出しともとれる行動に自らヘイトを買って出た事を知る。どこにもやれないストレスを自分たちに向ける事は目に見えている。
ならばそれを封殺し、且つ上官である自分が受ける事で部下に行くヘイトを極力下げる。なんせ命を張って助けたのは先行部隊のアシュリーとジューンなのだ。後からやってきた横暴な上官にヘイトが向くのも頷ける。
良いように捉えすぎかもしれないが、そう思って見ないとやっていられない。エリーナはもはや後ろの避難民を見ていない。糸目を薄っすら開けて先程の笑顔を消し睨みつけるように白い壁を見る。
「それじゃここは任せるわ。私は島に上陸して成り行きを見守るから後は宜しく」
その言葉を残してエリーナの体が輝きだす。バシュッと飛ぶとまるで飛行機のように飛んでいった。よく見るとヘリコプターと並走しているようにも見える。それをポカンと夢でも見ているような顔で住民たちは見送った。アシュリーもジューンも自分達では未だ届くことの無い歴然とした力の差に頭が下がる。
「皆さん。島の到着まではいましばらくかかります。この船内にはくつろげるスペースは少ないですが、今しばらく辛抱して下さい」
ジューンは大きな声で避難民に声をかける。もう何も言う事が出来ず、避難民は今起こった事も含めて呆然と状況を見守る。
ヘリコプターと並走し、いの一番に陸地に降り立ったエリーナは顔を上げて心の底からため息を吐いた。
「……たく……やりすぎよ、リョウ……」
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