魔王復活!

大好き丸

文字の大きさ
42 / 151

第四十一話 高橋

しおりを挟む
菊池から解放された春田は、カバンを下げて校門に向かう。

しかし、ここでも邪魔が入る。

「あ、せんぱーい。春田せんぱーい」

春田は部活に入っていない。地元から離れて慕う後輩もいない。後輩から声をかけられる状況があるとしたらあいつしかいない。

「……よう、高橋。今帰りか?」

嫌な顔を我慢して極めて普通に返答する。

「ちょっとぉ、なんすか?そんな嫌そうな顔してぇ。めぐに止められたのがそんなに気に触ったっすか?」

鋭い。隠せなかったようだ。

「そうじゃねぇけど……何か用か?」

「竹さんと一緒に帰ろうと思ってたんすけど、何か全然来なくってー。何か知ってません?」

「あぁ、竹内か……」

唐突に呼ばれた理由もそれなら納得する。

「竹内なら黒峰……先生に連れていかれたぞ」

呼び捨てしそうになり、慌てたが何とか取り持った。高橋は「あぁ……」という声と顔を表に出して、「御愁傷様」という風に合掌した。

「ところで、先輩は?」

「今から帰るんだよ」

カバンを肩に下げ、帰宅の意思を示す。「じゃな」と通り過ぎようとすると、ガシッと腕を捕まれた。

「冷たいっすね~!竹さんが来るまで待ってくださいよ!」

「いや、俺今日は用事あるから。悪いんだけど手を離して……」

そう言うと、高橋は一層腕を絡めてきた。DかEカッブくらいありそうな豊満な胸に包まれ、春田の精神を絆す。鼻の下が延び、その気持ちよさに身を預けそうになるが、ヤシャの事を思えばなんのこれしきと理性を保つ。

「離せ!」「やーだー!」という攻防が繰り広げられ、春田が引き離そうと頭を掴む。高橋は負けじと春田の太ももに足を絡める。

「ちょっとくらい付き合ってもいいじゃないですかー!友達も帰っちゃって寂しいんですよー!」

「知るか!用事があるっつってんだろ!」

高橋はわがままいっぱい春田に訴える。思ったより力が強く、離れようとしない。だんだん疲れてきた春田は校門に行くのを諦め、購買に向かう。高橋を引こずる形で一緒につれていく。

購買の傍にある、自動販売機に寄ると、ジュースを買った。それを目の前で見ていた高橋は目を輝かせながら、春田を見ていた。が、その気持ちは届かず、一人紙パックのジュースを飲み始めた。

「ちょちょちょ……え?嘘っすよね?めぐを差し置いて?一人で飲んじゃうんすか?」

ストローから口を離して、高橋をチラリと見る。

「欲しけりゃ買えよ。疲れたから一服だ」

「えーっ?!買って買って買ってー!」

高橋は駄々をこね始めた。

「買ったらどうなる?俺を解放するか?どうなんだ?」

春田はズズイと迫る。「うぅ……」と涙目になる高橋。買って欲しいが、暇潰しも欲しい。

二者択一となったこの状況は、彼女にとって大きなストレスだ。春田は高橋の涙を尻目に容赦なくジュースを飲んだ。

「旨い旨い」といって神経を逆撫でする。今日あったばかりで性格もろくに知らないが、とにかく面倒くさい女である。使えるものはとにかく使い、涙すら武器に変える所から、男への媚び方を分かってやっている。言い方を変えればこなれている。

つまりはやってほしい事の全く逆の事をして遠ざける。高橋には悪いが俺を嫌って、とっとと離れてほしい。竹内にアフターケアを頼んでおけばもうそれでいいだろう。

ストローから口を離し、「どうだ参ったか」とふんぞり返ると、高橋はそのストローにかみついた。「え?」予想外の行動に固まっているとちゅーっと音を立てて中の液体が吸い出される。

「おわ!?お前何考えてんだ!!」

ポンッと勢いよくストローを引っ張り出すと、高橋は口にたまったジュースを飲み下した。

唖然として紙パックと高橋を交互に見る春田。しっしっしと笑って不敵な笑顔を見せる高橋。

「めぐに買ってくんないからっすよ。先輩ったら超イジ悪なんすから~」

高橋は春田に指をさして挑発する。

「お前なぁ……女なんだからもっと恥じらいを持って生きろよ……」

「?」凄い不思議そうな顔で見てくるが、春田にはそれが不思議でならない。

「今俺が飲んでただろ……このストローは誰の口に使われていた?」

春田が言いたいことが分かり、「ああっ」と理解を示す。

「なんだ間接キスって事っすか?別に気にしないっすよ?」

ガクッと肩を落とす。高橋には他人との距離感が希薄なのか、それとも春田を男と見ていないのか、単純に生きてきたのが垣間見える。「あっそ」とそっけなく返し、少し残ったジュースを飲む気になれず、あと残り全部を高橋に上げる。

「いいんすか?いただきます!」

えへへと笑顔で受け取る。その無防備な笑顔に危機感を感じる。

「高橋、こんなこと言いたくないが、男は選べよ?誰彼構わず引っ付いてたら悪い方にしか転ばないぞ?」

高橋は春田を逃がさない様に左腕に右腕を絡ませて、貰ったジュースを飲む。言っている事を精査しているのか横目で春田を見ながら黙って啜る。やがてジュースがなくなったのか、ズゾゾゾッという音が鳴り、口を離す。

「それってつまり……”俺以外の男に引っ付くな”って事っすか?」

「違う。お前が誰とくっ付こうがどうなろうが知らんけど、相手は選べって事。大体、俺らは今日あったばかりだぞ?距離近すぎだろ……」

高橋は頭をひねる。同時に首も傾く。

「竹さんが認めるならめぐもダチっすよ、先輩。昨日の今日で恋人みたいになるのはわけわからんっすけど。」

「お前とは昼と今のわずかな時間で同じジュースを共有する仲だがな……」

ため息交じりに今の状況を憂う。マンションでおとなしくしているであろう二人を思い、帰りたくなってくる。

「貴様ら……何をしている?」

そこに先ほど道場で別れた菊池と再会する。「ふ、不埒な……」顔を赤くして二人を睨む。いや、春田を睨む。何で睨まれているのか、それはそうだろう。さっきまでの会話を知れば、
「いじめられていたから」と弱者を偽り、菊池の心を弄んだように見えなくもない。現に菊池の表情が物語っている。「勘違い」と言いたいが、下手に言い訳すれば、
友達という先程の関係が崩れる。春田は沈黙を選んだ。

だが、そんなことを知らない高橋はいたって普通に話す。

「何って、一緒にジュース飲んでるんすよ?つーか誰っすか?」

一緒にジュースを飲むというが高橋の手元には1パックしかない。シェアしていたとしてもコップがない事から、飲みまわしたと考えるのが妥当だ。

菊池の眉間にしわが寄るごとに悪寒が走る。本当に昨日今日の関わりだろうか……長らく付き合ってきた彼女に浮気現場を見られたような変な緊張感と修羅場を目の当たりにしている。

自分の身に何か起こっている。そう感じずにはいられない。しかし、逃げられない空気をひしひし感じる。

「嘘だろ……家に帰りたいだけなのに……」

春田は少しの間、現実逃避に走った。だが、何をしようと、現実が変わらずそこにあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ? ――――それ、オレなんだわ……。 昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。 そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。 妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。

処理中です...