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第九十四話 自己分析
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虎田の朝は早い。
まず日が射す前に一回起きる。トイレに行った後、しばらくベッドの端に座ってボーッとする。徐々に意識が覚醒してくると読みかけの本を読んだり、携帯をいじったりして時間を潰すのだ。
そして、親が起き出して朝食の用意をする頃、今しがた起きたようにやって来て朝食を食べる。
物心ついた時からやっていることなので全く苦ではなく、むしろ休日に二度寝を初めてした時、体も頭もちゃんと起きることができずに寝覚めの悪い思いをした。
なので、極端に眠いとき以外は起きるよう心がけている。
今日も休日だというのに早く起きてベッドの上でゴロゴロ考え込んでいた。
(まだ起きてないよね…)
こみゅを起動して、春田の名前を見つめる。タップすると文字会話欄が開かれるが、まっさらな状態で「会話」の「か」の字すら入っていない。一言挨拶でもいれて敷居を低くしておけばよかったと心から思う。
春田を思い出すだけでドキドキしてきた。虎田は木島のグループの中で最も純粋であるといえる。男性と付き合ったことがないのだ。正直、意識したことすらない。
同世代の子達との会話の齟齬から、異性に対してあまりにも興味がないので、もしかしたら同姓愛者なのかもしれないと一時期悩んだことすらある。
しかし、最近では特にその事で糾弾されることなんてあまりない風潮になってきた。カミングアウトする芸能人がいたりするから、そう珍しいものでもなければ、市民権がないわけでもない。そんな状況を知れば正直気は楽になった。
そんなマセた幼小期。小学時代にいつものように調子を会わせて会話をしていたあの日。
自己主張の激しい女の子に出会った。男性を嫌悪し、「男なんて」と蔑む。自ら嫌われようとしているような厄介な子だった。でもその時(あ、この子私と同じかも…)と近付き、何となく一緒にいる内に仲良くなった。
木島 未来(きじま みらい)。
今では考えられないが、小学校高学年の頃はかなり拗らせた女の子だった。
木島の登場は虎田自身の見識を広げ、異性に興味がないわけではないことに気付かされた。拗らせ女子だった木島も中学生になれば遊び人のように見た目が派手になっていき、まるで実験のように男を取っ替え引っ替えして付き合っていたのを覚えている。その度に「男なんて獣」とか「同世代はガキ臭い」とか虎田に言いふらしていた。
勘違いして寄ってくる男どもを蹴散らし、中学卒業から男とのつきあい方を完全に変えていった。今では英語教師のマイケルの話や隣町のイケメンアイドルの話などに花を咲かせている。自分には出来ないその経験が羨ましい。
こんな時、木島ならどんな”こみゅ”を送るのだろう。遊びに誘うならどんな風に誘ったら自然に見えるだろう。多分木島なら「今日暇?」くらい軽く送るのだろうが、それがすでに敷居が高く感じる。
「…いや…それくらいフランクな感じじゃないと逆に何を言いたいか分からないかもしれない…」
ボソッと自分に言い聞かせるように呟き、こみゅに文字を入れる。携帯に慣れた手つきで入力していく。
『おはようございます。今日は休日ですね。1日晴天だそうなので外出日和だと思うのですが、いかが過ごされる…』
「違う…」
長すぎた。全消去して、気持ちを落ち着ける。大体敬語は春田と自分の関係を考えれば他人行儀すぎるというもの。
(!!…関係って…)
自分で考えながら身悶える。顔が熱くなる感覚を覚えながら、また携帯に向かって文章を考える。何度か打っては全消去の繰り返し。
「みゆき、朝ごはん食べる?」
ドア越しに母の声が聞こえる。ハッとして時計を見るとそこそこ時間が経っていた。
「…はーい、食べるー」
ここまで悩むならもう送らなくてもいいのかもしれない。そんなことを考えつつリビングに行く。そこにはご飯と味噌汁と漬物が置かれたザ・和食という感じの朝食が用意されていた。席に座ると携帯を置いて味噌汁を先に啜る。ご飯を黙々と食べていると、段々元気を取り戻していく。
食べ終わる頃には携帯を手にしていた。
(…そもそも春田くんが今日遊べるかどうかが本題なのに、うじゃうじゃ考えすぎたんだ)
お皿を洗うと「ごちそうさまー」と自分の部屋に戻っていく。とりあえず会話することから始めることにした。
『おはよう春田くん。起きてる?』
ドキドキしながらもさらっと送れた自分が少し誇らしくなった。返事を待つ時間がもどかしい。一分一秒が長く感じる。しかし考えてみたら、今日は休日。いくら何でも早かったかと思うと少し落ち込む。自分は起きているが、春田が起きているとは限らない。そう思った瞬間、携帯がブルッた。ハッとして携帯を起動する。
『おはよう。起きてるよ。何か用?』
すぐに返ってきたのが意外だった。自分が思っていた以上にタイミングが良かったようだ。
『あのさ、今日暇かなぁ?』
この返答が嬉しかった虎田はすぐさま返信する。ドキドキしながら春田からの返信を待つが、さっきと比べると全然返ってこない。
(おかしい…見てるアイコンが出ているのに…)
文字の隣にある封筒マークが開いている。このマークはこみゅの返信を確認したことを意味している。読んでいるはずなのに返信しない。つまり忙しいか、面倒臭いと思っているかの二択。距離の詰め方を見誤ったと思った虎田はすぐさま携帯を操作する。
『急だったよね?ごめんなさい。暇じゃ無ければいいから』
恥ずかしさと悲しさで泣く泣くこの文章を送る。勇気を出した分このこみゅは寂しさがこみ上げ、今すぐ突っ伏して枕を濡らしたい一心だ。こんな突き放した文章を送ったのも送った後で後悔したが、即封筒マークが開いたので、多分返答を悩んでいたのだろうと推測できる。削除することも出来ず半泣きになりそうになっていた。
『今日はちょっとやることがあるから、それが終わってからならいいけど。すぐじゃないとダメかな?』
それを見た時、少しフリーズした。正直ダメだと思っていたからだ。だからこそ不思議に思い、何度か見返す。「会えない」ということの隠喩かとも思ったからだ。ボソボソと呟いて春田の文を口の中で転がす。頭に浸透するまでほんの少し時間がかかった。小躍りしたい気持ちになって立ち上がるが、まだ返事を返していないことに気づき、急いで返信する。
『用事が終わったらまた連絡をお願いします』
『了解』
虎田は勢い余ってアプリ内で課金して手に入れたイラストスタンプを用いて感情を表す。送ったのと、ちゃんと見てくれたかまで確認した後、ベッドにダイブした。自分が抑えられず羽毛の掛け布団をギュ~っと抱きしめて声にならない声を喉の奥からひり出し、喜びを全身で表現する。
ひとしきり悶えた後、おもむろに立ち上がってクローゼットを覗く。最近服を新調していなかったが、魅せる服があるか確かめるためだ。
ワンピース、スカート、ジーパン。ブラウスと合わせるか、カーディガンを羽織るか、デニムシャツにするか…。ベッドにクローゼットの中の良さげな衣装を片端から出して並べる。悩んで唸っていると。携帯が反応した。
その瞬間、ビーチフラッグのように飛び込んで携帯をその手に収める。速攻で携帯を確認すると”みらい”のアイコンが反応していた。
「なぁんだ、みーちゃんかぁ…」
急いで取って損した気分になるが、(いやいや、友達友達…)と思い直して確認する。
『今日暇?』
「いや、暇じゃないよ」
虎田はこれ以上ないほど冷たい気持ちでこの文字を眺めていた。だからと言ってスルーはしない。キチンと断りを入れる。その後も立て続けに質問が入るが毅然とした態度で断りを入れ続ける。だが続いてやってきた返信には目を見張った。
『そうなんだー。まぁしょうがないよねー。今日ひなが補習だから、ひなの帰りに合わせてカラオケでも行こうかと思ってたけど…仕方ないから3人でボストでも行くかー』
これは棚からぼたもちと言える。春田と一緒に行動するなら、出来たら町で好きな場所に行ってもらおうと思っていた。興味のあるものとか分からないからだ。となれば3人の内の誰かに出会う可能性もあったわけだが、町と反対方向のボストに行ってくれるのであれば出会うことはない。願っても無い幸運だった。
プライベートを覗かれるのは友達の有無関係なく恥ずかしいものだ。
ひなの件を返信した後、
(そういえば竹内さんも補習だったっけ?どうせなら2人の勉強を一緒に見てあげるのもいいのかもしれない…)
竹内に関しては春田が手伝うと言っていたが、それに便乗できればより多くの時間を春田と過ごせる。そこまで考えてふと思う。
(私はなんで春田くんのことがこんなに気になるんだろう?)
よく考えれば、いや、よく考えなくても関わり合って一週間と経ってない。存在だけは随分前から知っていたが、それだけだった。真面目だけど友達というか周りに寄り付く人すら見ていない。授業で当てられた時だけ声を出すくらい、誰かと喋っているところを見たことがない。存在感すら皆無なはずだった。
あの日もそうだ。思えば前を歩いていた春田が校門からその顔をヒョコッと出した時、希薄だった存在感が突然鮮明になった。透明人間がその謎だった輪郭を現したようなハッキリした違いだった。クラスメイトなので挨拶せずにはいられなかった。全てはあそこからだと豪語できる。
現国の三國の仕打ちについても、春田を意識した時に自分と同じ境遇にあることに気づいた。他人なんてどうでもいいと思っていたはずなのに、春田がどうしても気になって仕方なかったから「一緒に抗議しないか」と持ちかけた。あの時の大胆な行動は今でもその感触を思い出す。あれほど強引に両肩を鷲掴みにされたのは初めてだった。普通掴まない。
その日以降、なぜか頭の片隅に春田がいる。身近な男性に興味があったからかも知れないが、なら何故クラスメイトの他の男子には興味がないのか?
同じ境遇であることが、ある種の共感を無意識に感じているのだろうと結論付けた。真面目で無遅刻無欠席。成績も総合で上位陣。影が薄いのはご愛嬌。異性であることを除けば、鏡を見ているようにそっくりだと言わざるを得ない
一目惚れ云々に考えを持っていけないのは恋したことがないから、というのと単純に恥ずかしいからである。彼女は自分が思う以上に初心なのだ。
木島たちの誘いを断ったのは、今回は友達の一般的な交流として二人っきりで遊びたかった。それだけである。異性同士の交流を知らないから興味本位で…。それに、今後彼氏ができた時に喋り方や遊び方を学ぶためのいわば訓練にもなる。
そう思えばなんとなく自分のやっていることに正当性を見出した気になった。
普段、布を掛けて仕舞っている姿見を引っ張り出して衣装合わせをする。春田の連絡を心待ちにして…。
まず日が射す前に一回起きる。トイレに行った後、しばらくベッドの端に座ってボーッとする。徐々に意識が覚醒してくると読みかけの本を読んだり、携帯をいじったりして時間を潰すのだ。
そして、親が起き出して朝食の用意をする頃、今しがた起きたようにやって来て朝食を食べる。
物心ついた時からやっていることなので全く苦ではなく、むしろ休日に二度寝を初めてした時、体も頭もちゃんと起きることができずに寝覚めの悪い思いをした。
なので、極端に眠いとき以外は起きるよう心がけている。
今日も休日だというのに早く起きてベッドの上でゴロゴロ考え込んでいた。
(まだ起きてないよね…)
こみゅを起動して、春田の名前を見つめる。タップすると文字会話欄が開かれるが、まっさらな状態で「会話」の「か」の字すら入っていない。一言挨拶でもいれて敷居を低くしておけばよかったと心から思う。
春田を思い出すだけでドキドキしてきた。虎田は木島のグループの中で最も純粋であるといえる。男性と付き合ったことがないのだ。正直、意識したことすらない。
同世代の子達との会話の齟齬から、異性に対してあまりにも興味がないので、もしかしたら同姓愛者なのかもしれないと一時期悩んだことすらある。
しかし、最近では特にその事で糾弾されることなんてあまりない風潮になってきた。カミングアウトする芸能人がいたりするから、そう珍しいものでもなければ、市民権がないわけでもない。そんな状況を知れば正直気は楽になった。
そんなマセた幼小期。小学時代にいつものように調子を会わせて会話をしていたあの日。
自己主張の激しい女の子に出会った。男性を嫌悪し、「男なんて」と蔑む。自ら嫌われようとしているような厄介な子だった。でもその時(あ、この子私と同じかも…)と近付き、何となく一緒にいる内に仲良くなった。
木島 未来(きじま みらい)。
今では考えられないが、小学校高学年の頃はかなり拗らせた女の子だった。
木島の登場は虎田自身の見識を広げ、異性に興味がないわけではないことに気付かされた。拗らせ女子だった木島も中学生になれば遊び人のように見た目が派手になっていき、まるで実験のように男を取っ替え引っ替えして付き合っていたのを覚えている。その度に「男なんて獣」とか「同世代はガキ臭い」とか虎田に言いふらしていた。
勘違いして寄ってくる男どもを蹴散らし、中学卒業から男とのつきあい方を完全に変えていった。今では英語教師のマイケルの話や隣町のイケメンアイドルの話などに花を咲かせている。自分には出来ないその経験が羨ましい。
こんな時、木島ならどんな”こみゅ”を送るのだろう。遊びに誘うならどんな風に誘ったら自然に見えるだろう。多分木島なら「今日暇?」くらい軽く送るのだろうが、それがすでに敷居が高く感じる。
「…いや…それくらいフランクな感じじゃないと逆に何を言いたいか分からないかもしれない…」
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『おはようございます。今日は休日ですね。1日晴天だそうなので外出日和だと思うのですが、いかが過ごされる…』
「違う…」
長すぎた。全消去して、気持ちを落ち着ける。大体敬語は春田と自分の関係を考えれば他人行儀すぎるというもの。
(!!…関係って…)
自分で考えながら身悶える。顔が熱くなる感覚を覚えながら、また携帯に向かって文章を考える。何度か打っては全消去の繰り返し。
「みゆき、朝ごはん食べる?」
ドア越しに母の声が聞こえる。ハッとして時計を見るとそこそこ時間が経っていた。
「…はーい、食べるー」
ここまで悩むならもう送らなくてもいいのかもしれない。そんなことを考えつつリビングに行く。そこにはご飯と味噌汁と漬物が置かれたザ・和食という感じの朝食が用意されていた。席に座ると携帯を置いて味噌汁を先に啜る。ご飯を黙々と食べていると、段々元気を取り戻していく。
食べ終わる頃には携帯を手にしていた。
(…そもそも春田くんが今日遊べるかどうかが本題なのに、うじゃうじゃ考えすぎたんだ)
お皿を洗うと「ごちそうさまー」と自分の部屋に戻っていく。とりあえず会話することから始めることにした。
『おはよう春田くん。起きてる?』
ドキドキしながらもさらっと送れた自分が少し誇らしくなった。返事を待つ時間がもどかしい。一分一秒が長く感じる。しかし考えてみたら、今日は休日。いくら何でも早かったかと思うと少し落ち込む。自分は起きているが、春田が起きているとは限らない。そう思った瞬間、携帯がブルッた。ハッとして携帯を起動する。
『おはよう。起きてるよ。何か用?』
すぐに返ってきたのが意外だった。自分が思っていた以上にタイミングが良かったようだ。
『あのさ、今日暇かなぁ?』
この返答が嬉しかった虎田はすぐさま返信する。ドキドキしながら春田からの返信を待つが、さっきと比べると全然返ってこない。
(おかしい…見てるアイコンが出ているのに…)
文字の隣にある封筒マークが開いている。このマークはこみゅの返信を確認したことを意味している。読んでいるはずなのに返信しない。つまり忙しいか、面倒臭いと思っているかの二択。距離の詰め方を見誤ったと思った虎田はすぐさま携帯を操作する。
『急だったよね?ごめんなさい。暇じゃ無ければいいから』
恥ずかしさと悲しさで泣く泣くこの文章を送る。勇気を出した分このこみゅは寂しさがこみ上げ、今すぐ突っ伏して枕を濡らしたい一心だ。こんな突き放した文章を送ったのも送った後で後悔したが、即封筒マークが開いたので、多分返答を悩んでいたのだろうと推測できる。削除することも出来ず半泣きになりそうになっていた。
『今日はちょっとやることがあるから、それが終わってからならいいけど。すぐじゃないとダメかな?』
それを見た時、少しフリーズした。正直ダメだと思っていたからだ。だからこそ不思議に思い、何度か見返す。「会えない」ということの隠喩かとも思ったからだ。ボソボソと呟いて春田の文を口の中で転がす。頭に浸透するまでほんの少し時間がかかった。小躍りしたい気持ちになって立ち上がるが、まだ返事を返していないことに気づき、急いで返信する。
『用事が終わったらまた連絡をお願いします』
『了解』
虎田は勢い余ってアプリ内で課金して手に入れたイラストスタンプを用いて感情を表す。送ったのと、ちゃんと見てくれたかまで確認した後、ベッドにダイブした。自分が抑えられず羽毛の掛け布団をギュ~っと抱きしめて声にならない声を喉の奥からひり出し、喜びを全身で表現する。
ひとしきり悶えた後、おもむろに立ち上がってクローゼットを覗く。最近服を新調していなかったが、魅せる服があるか確かめるためだ。
ワンピース、スカート、ジーパン。ブラウスと合わせるか、カーディガンを羽織るか、デニムシャツにするか…。ベッドにクローゼットの中の良さげな衣装を片端から出して並べる。悩んで唸っていると。携帯が反応した。
その瞬間、ビーチフラッグのように飛び込んで携帯をその手に収める。速攻で携帯を確認すると”みらい”のアイコンが反応していた。
「なぁんだ、みーちゃんかぁ…」
急いで取って損した気分になるが、(いやいや、友達友達…)と思い直して確認する。
『今日暇?』
「いや、暇じゃないよ」
虎田はこれ以上ないほど冷たい気持ちでこの文字を眺めていた。だからと言ってスルーはしない。キチンと断りを入れる。その後も立て続けに質問が入るが毅然とした態度で断りを入れ続ける。だが続いてやってきた返信には目を見張った。
『そうなんだー。まぁしょうがないよねー。今日ひなが補習だから、ひなの帰りに合わせてカラオケでも行こうかと思ってたけど…仕方ないから3人でボストでも行くかー』
これは棚からぼたもちと言える。春田と一緒に行動するなら、出来たら町で好きな場所に行ってもらおうと思っていた。興味のあるものとか分からないからだ。となれば3人の内の誰かに出会う可能性もあったわけだが、町と反対方向のボストに行ってくれるのであれば出会うことはない。願っても無い幸運だった。
プライベートを覗かれるのは友達の有無関係なく恥ずかしいものだ。
ひなの件を返信した後、
(そういえば竹内さんも補習だったっけ?どうせなら2人の勉強を一緒に見てあげるのもいいのかもしれない…)
竹内に関しては春田が手伝うと言っていたが、それに便乗できればより多くの時間を春田と過ごせる。そこまで考えてふと思う。
(私はなんで春田くんのことがこんなに気になるんだろう?)
よく考えれば、いや、よく考えなくても関わり合って一週間と経ってない。存在だけは随分前から知っていたが、それだけだった。真面目だけど友達というか周りに寄り付く人すら見ていない。授業で当てられた時だけ声を出すくらい、誰かと喋っているところを見たことがない。存在感すら皆無なはずだった。
あの日もそうだ。思えば前を歩いていた春田が校門からその顔をヒョコッと出した時、希薄だった存在感が突然鮮明になった。透明人間がその謎だった輪郭を現したようなハッキリした違いだった。クラスメイトなので挨拶せずにはいられなかった。全てはあそこからだと豪語できる。
現国の三國の仕打ちについても、春田を意識した時に自分と同じ境遇にあることに気づいた。他人なんてどうでもいいと思っていたはずなのに、春田がどうしても気になって仕方なかったから「一緒に抗議しないか」と持ちかけた。あの時の大胆な行動は今でもその感触を思い出す。あれほど強引に両肩を鷲掴みにされたのは初めてだった。普通掴まない。
その日以降、なぜか頭の片隅に春田がいる。身近な男性に興味があったからかも知れないが、なら何故クラスメイトの他の男子には興味がないのか?
同じ境遇であることが、ある種の共感を無意識に感じているのだろうと結論付けた。真面目で無遅刻無欠席。成績も総合で上位陣。影が薄いのはご愛嬌。異性であることを除けば、鏡を見ているようにそっくりだと言わざるを得ない
一目惚れ云々に考えを持っていけないのは恋したことがないから、というのと単純に恥ずかしいからである。彼女は自分が思う以上に初心なのだ。
木島たちの誘いを断ったのは、今回は友達の一般的な交流として二人っきりで遊びたかった。それだけである。異性同士の交流を知らないから興味本位で…。それに、今後彼氏ができた時に喋り方や遊び方を学ぶためのいわば訓練にもなる。
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