魔王復活!

大好き丸

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第105話 輩

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カラオケ店にやって来た7人はカウンターでドリンクバー+フリータイムを設定し、案内された部屋に入っていく。

「加古、何してんの?」

席に座ってすぐに携帯をいじる加古に木島が尋ねる。加古は嬉しそうに携帯から目を離し、「内緒!」と言って携帯を仕舞った。

高橋はモニター付きリモコンをいじりながら曲を探す。「新曲追加されてる~?」と館川が覗き込んで二人できゃっきゃっしている。ドリンクバーで注いできたソーダを飲みながらポケーッと大きなモニターから流れる広告を眺める篠崎と竹内。木島がもう一台のリモコンをいじり、加古と虎田が一緒に見ている。

「誰が最初歌うっすかー?」

「……言い出しっぺのめぐが行きな」

「えー?最初はキツいっすよー……たてさんどうっすか?」

最初は嫌という高橋は館川に振る。

「私は竹内さんの意見に賛成~めぐちゃん歌って!」

「えぇ……」と困惑ぎみで乗り気ではない。

「はい!はい!私が歌うー!」

手を挙げたのは加古だ。恥をかきたくない高校生女子は中々最初に行けないが、恐れ知らずの小学生の無邪気さには誰も勝てない。

「流石加古ちゃん!どぞどぞ!歌って歌って!」

「わーい!」

加古はリモコンを操作し、パパッと入れる。そこに表示されたのは”ずっと☆ミラクル!”。キュートキュートのオープニング曲だ。

アニメMVも流れて意気揚々と歌う。舌足らずな歌い方で一生懸命歌う姿は可愛いの一言だ。

歌い出して間もない時に虎田はふと尿意を催した。木島にコソッと伝える。

「ごめんみーちゃん。ちょっとお手洗い行ってくるね」

「ん、了解」

出入り口側に最も近かった虎田はソソッと素早く、且つ音をなるべくたてないように部屋から出ていった。

篠崎は木島にジェスチャーと口パクで虎田が何処に行ったのか聞くと、それをジェスチャーで返す。「ああ……」とすぐに納得すると歌に集中した。

虎田はトイレの洗面所で手を洗ってる最中、鏡が目に入った。自分の顔をまじまじと見るとそんなに悪くないと思えた。化粧をしているからかもしれないが顔はマシな方だ。

今の面子と比べれば劣るかもしれないが、春田と並んでも特におかしくはない。むしろ滝澤などの隣に春田がいるのが間違っていると言える。

コーヒーカップに口をつけたせいか、気持ち口紅が薄くなっている。どうせ春田もいないから直す意味もないが、みんなの前で格好が悪いのも考えものだ。ちょちょっと整えると、トイレから出た。

「ねぇ、君駅で会ったよね?」

突然どこかの誰かに声をかけられた。その声は聞き覚えがある。唐突に声をかけられるのも相まって、あの時のチャラ男が頭をよぎる。

恐る恐る声の聞こえた方を見るとニヤニヤ笑って立っている男たちの姿があった。その中には思った通りのチャラ男が中心に立ってリーダー面をしていた。

「やっぱそうじゃん奇遇ー!」

馴れ馴れしい。駅でナンパしてきた一方的な出会いの癖に距離の詰め方が急すぎる。いや、ナンパとは、隙を狙って相手の懐に無理にでも飛び込まなければ成功しないのだろう。虎田には縁のない事だと思っていたが、そんな事は無かったようだ。

「ど、どうも……」と会釈してさっさと行こうとするが、「ちょちょちょっ!」と小走りに近付いて腕を掴まれる。

「ちょっと待ってよ!俺が何かした?」

声をかけられただけだ。しかし、その声のかけ方には下心しかなく、自分の意にそぐわなければ威圧するような、出来ればお近付になりたくないタイプの男だ。大体、駅で諦めたのではなかったか?男は虎田の回答を待たずそのまま話始める。

「さっき君を見かけてさぁ。でも彼氏くんいないし女の子ばっかりだから違うかなぁとも思ったけど、近寄ってみて正解だったわ」

(ひえぇ……来ないでよぉ……)

心の底から震え上がる。

「俺たち暇でさぁ、良ければ俺たちも混ぜてくんね?」

「い……いえ、すみませんが今は身内だけで遊んでいるので……」

手を放せと言わんばかりに手を振りほどく、その様子に激高したチャラ男は虎田を壁に突き飛ばす。「きゃっ!」という声とドンッという壁に背中を打ち付けた音が重なる。追い打ちをかける様に虎田の顔のすぐ真横に手を出し、壁に貼り付けた。

「なに?今の?だから俺何かした?」

イライラしながら虎田に詰め寄る。虎田は「ひっ……」と小さな悲鳴を出しながら縮こまる。後ろに控える男たちがヘラヘラしながら男に話しかける。

「たっちゃーん。それやりすぎくね?でも君も悪いよー今のはー。たっちゃんが怒るのも無理ないって言うかぁ」

「そそ。俺ら遊びたいだけなんで……てかもういいから案内してもらおうぜ?」

たっちゃんと言われたチャラ男を含めて5人。皆それなりにガッシリしている。トレーニングジムに通って筋肉を作っているような、屈強というよりは程よい筋肉のつけ方をしている。たっちゃんなどは元がひょろい感じなので、細マッチョを目指した体系をしている。このメンバーの中では一番顔が良い。

「……それもそうだな。案内してくれるよな?」

こんな危ない連中を連れて行くわけにはいかない。せめてもの抵抗に虎田は首を振る。

「……チッ、うっざ」

たっちゃんが壁から離れる。一瞬ホッとするが手を掴まれてグイッと引っ張られた。

「もう演技ダリィから乗り込もうぜ。お前は話合わせてくれれば良いから」

案内は建前のようだ。既に場所を把握しながら虎田公認で乗り込むつもりで話しかけたらしい。虎田はリードを引っ張られる柴犬の様に足で踏ん張る。

「やめてください!」

手に重さを感じたたっちゃんは手を引くが虎田が重しになって中々前に進めない。

「あーめんどくせ……じゃこうしよう。俺らは君に関わらない。他の子紹介してくれりゃ帰っても良いから」

「マジ?今日のたっちゃんやさしー」

「うっせ」という特有のノリを見せた後、声を落として囁くように虎田に告げる。

「彼氏に心配かけたくないっしょ?俺らもさぁ、出来る限り暴力は避けたいって言うか……」

虎田の目の前で拳を作ると固く握りしめる。皮膚と爪が擦れてギチッと小さく音を立てた。その手は少し擦り傷の跡や切り傷の跡が見える。いわゆる暴力に慣れた手だ。

(怖い)自分よりもずっと大きな手で脅されるのがこんなに怖いとは知らなかった。ルール無用のチンピラどもは少し好きになった自分の顔を崩壊させる事など余裕でしてくる。一発食らっただけでも二度と元の顔に戻れないかもしれない。でも……。

「……言ったでしょ。やめてくださいって……私たちに関わらないで」

キッと睨みつける様にたっちゃんを見据える。その強情な様子に一瞬たじろぐたっちゃん。周りはそんな彼の挙動にプッと噴き出す。

「どーしたのー?たっちゃん押されちゃってんじゃんダッサー……」

いつもの調子で煽るが、ギロッと睨みつけられた時、煽った男がビクッとなって口ごもる。

「じょ……冗談じゃんか。そんな怒る事も無いべ?」

イライラするたっちゃん。スッと無表情になると、虎田を冷徹な目で一瞥する。

「……もうこいつだけでいいや。さらっちまおう」

言われた意味が分からず虎田はポカンとする。

「は?マジで?こんなメガネよりもっとイイ女いたぜ?それも簡単に股開きそうな……」

「あの金髪とギャルっぽいの?お前好きだよなぁああいうの」

「俺はスポーツ女子が……」

と勝手に妄想を膨らませたトークを展開している。聞こえない所で勝手にやってるなら「どうでもいい」と切り捨てられるのに、目の前でされるとキモいの一言だ。そして気付いたが、虎田は彼等には眼中にないらしい。自分の魅力の無さには辟易するばかりだ。

「……お前らの趣味云々はこの際どうでもいいんだよ。こいつはに恥をかかせたんだぜ?分からせなきゃダメだろ」

正直に「お前だけだろ?」と言えればどれ程楽か。そこは空気を読む面々。

「まぁ……部屋連れてくのか?」

「はぁ?ここで輪姦まわしたらバレちまうだろ?ひろき。お前車回せ」

ひろきと呼ばれたヒップホッパー風の男は「えぇ……」と乗り気ではないものの、渋々店の出入り口に走った。

「ほら、行くぞ」

今度は逆方向に手を引く。

「ちょっ……!手を放して!!」

大声で抵抗するが、虎田の華奢な体では成す術はない。

「お前のせいだろうが。素直に案内すればこうならなかったんだよ」

たっちゃんは平坦な声色でまともに相手をする気もない。暴れるが、先ほどよりずっと強い力で連れて行かれそうになる。

「みゆき!!」

その声は廊下に響く。

「……みーちゃん」

手を掴まれて連れて行かれそうになるのを見て眉が吊り上がる。ズンズン近寄りながら湯気が出そうな程、顔を真っ赤にキレている。

「ちょっとあんたら何してんの!!」

「あーあ、出てきちゃったよ」それに対し茶化す様に言葉を発するあごひげ。

「手を放しなさい!」

木島は臆することなく男たちに対し強気に出る。

「どーする?」

「どーするもこーするもねーよ。一緒に攫うんだよ」

その言葉に待ってましたと、あごひげが回り込み、木島を羽交い絞めにする。「あっ!」という間に慣れた手つきで簡単にホールドされてしまった。(!……こいつら!)手を外そうとするがビクともしない。それもそのはず、トレーニングで蓄えた筋肉はこういう時の為の物だからだ。こういう状況は何度も経験しているのだろう。体に傷をつけることなく制圧された。

「すっげぇ遊んでそうな見た目してんなぁ……スゥ―……いい匂いだぜ」

(キモい!)素直な感想が心を支配する。

「みーちゃん!!」

虎田も木島を巻き込んでしまった状況に凄い焦りを感じ、大声で叫んでしまう。

「黙れ」

パァンッ

たっちゃんもとうとう我慢の限界が来た。頬をはたくとメガネが飛び、地面に転がる。

「うぜぇんだよバカ女」

頬を赤く腫らし、涙目で俯く虎田。それに業を煮やした木島があごひげの足をかかとで踏んづける。

「あだっ!!!」

あごひげはあまりの痛さに手を離すと、木島はその勢いのままたっちゃんを突き飛ばした。突然の事に驚いたたっちゃんは虎田の腕を離し、よろける様に後方に下がる。

そんな折、「なんだなんだ」と各部屋から客が顔をのぞかせる。流石にまずいと思ったチャラ男たちは逃げる様に足早に店から出て行った。

しくしく泣く虎田とそれを抱きしめる木島。

「みらい!」

そこに篠崎が駆けつける。何があったのかは分からなかったが、このざわつく店内で聞ける状況ではない。とりあえず床に転がったメガネを拾って、部屋に戻るよう促す。店員もようやく駆けつけるが、虎田は男性であることに委縮し、怖がって顔をあげない。

「すいません。落ち着いたらお話ししますので、今は放っておいてください……」

篠崎は店員に事情説明をやんわり断ると、3人で部屋に戻った。

「大丈夫。大丈夫だからみゆき……」

木島からある程度の事情を説明されると竹内が立ち上がる。

「……どこのどいつ?ちょっと絞めてくる……」

顔はいつもの様に無表情で変わりないが、その目の奥には怒りの炎が宿っている。決して許しはしないと拳が戦慄わななく。

「ダメ!危ないから行かないで竹内さん……!」

縋るような目で見つめる。せっかく楽しい気分でカラオケに歌いに来たというのに完全に台無しである。加古も自分の歌っている裏でそんな事が起きていたのかと落ち込む。誰もが重苦しい気持ちを抱える中、あることに気付く。

「……ん?これって……」

それは虫の知らせ程度の気配。ここにいる誰もが気づいた。

「春田?」「春ちん?」「先輩?」「春田……?」「お兄ちゃん?」

それぞれの呼び方で春田を感じたことを表現する。どんどん近付く気配。廊下を歩いているだけでもう目の前にいるのと変わらないくらい春田を感じる。扉の前に来た時、虎田の体が動いた。木島の手を離れ、扉を開けると、そこには春田が神妙な顔で立っていた。

「春田くん!!」

ガバッと春田に抱き着く。「うおっと!」よろける春田だったが、虎田を受け止めると背中を擦る。

「くそ……遅かったか……」

「春田?あんたどうして……」

「加古ちゃんがこみゅでここの場所を教えてくれたんだ。なんか変なのが映ってたからもしかしてって思ったんだけどな……」

木島はカラオケに入った時の加古の挙動を思い出す。携帯をいじっていたのは春田に教えていたからだった。

体を震わせながら春田に縋る虎田。

「怖かった……怖かったよぉ……」

泣きながら訴え続ける。一度駅前で救ったというのに、結局虎田を傷つけてしまった。たとえ自分のせいでなかったとしても許せない。

「私たちは何も知らなくて……みらいちゃんが助けてくれたからどうにかなったけど……」

いつものふわふわした口調も身を潜め、館川もその様子に暗く沈んでいる。そこにポキリと景気のいい音が鳴る。竹内が右手を左手で覆って骨を鳴らした音だ。

「……あんたもやるでしょ?春田……」

その様子に篠崎も同調して立ち上がる。

「ウチも混ぜてよ。絶対許さないから……」

すっかり逆襲の雰囲気だが、春田が右手を挙げてそれを制する。それを不思議な顔で眺める二人。春田はゆっくりと虎田の顔を見る。左頬が痛々しく腫れ上がっている。涙を流し、恐怖で顔も固まっている。それを見ると、虎田を抱き寄せて頭を数度撫でる。

その光景にガタッと身じろぐのが数名いたが構わず撫でる。

「し、し、し……怖くない怖くない……」

徐々に虎田の肩から強張りが抜けると、ゆっくりと離れた。虎田の目から涙が引いているのを見ていつもの病的な顔が優しい笑顔に変わった。同い年の男の子に父性を感じる。充分見つめ合った後、木島に目を移す。その様子にドキッとして一瞬顔が赤くなった。

「ここは何時間を設定している?」

「え?フ、フリータイム……」

入って間もない事を考えても3時間以上の余裕がある。

「まだ時間はあるな……お前らはここにいろ。俺がカタを付ける」

「待って!ダメ!警察に言って終わりにすれば済む話だから……春田くんが傷ついたら私……」

その通りだ。警察に言って被害届を出せば良い。暴行、誘拐未遂と木島が感じた慣れた手つきを思えば、同様の犯行が何件か芋づる式に出てきてお縄で終了だろう。法治国家の日本で悪い事をすればどうなるのか身に染みてわかるはずだ。虎田の肩をそっと触る。

「虎田さん、それは後で良い」

ミキッと顔に青筋を立てる。今までで見た事も無い顔だ。眉も吊り上げず目が座っていて、口許は笑ったまま変わらないのに、青筋が立つほどに顔が強張っている。

「まずは……俺の気が済む形で分からせてやる……」

その顔に本気の怒りを見た虎田は押し黙る。これ以上は逆に春田の怒りを買いそうだ。

「……でも、例の連中がどこ行ったか分かるっての?とりあえず警察に届けとくべきじゃない?」

竹内はこの怒りに水を差すと感じていながら質問をする。仮に春田が男たちをやっつけられるとして、場所が分からなければ手を出す事は出来ない。冷静になって考えて見たら、これから半日走り回って「やっぱり警察に行こう」じゃ遅すぎる。

「うん。店員から聞いたが、警察は呼んでるそうだ。一応そっちで対応してくれ」

虎田を座らせると、出て行こうとする姿勢で肩越しに答える。

「俺には優秀な仲間がいるんでな。チンピラの居場所は一瞬で見つかる……」

ドアノブに手をかけると「後で画像でも送るわ」と言って部屋から出て行った。部屋の前で控えていたポイ子と合流すると、そのまま歩いて店外へ出る。

「……話は聞いていたなポイ子」

「それはもうバッチリと」

ポイ子は即答する。

「しかし、よろしかったのですか?それでは”目立って”しまいますよ?」

「……その通りだ」

「では、よろしいんですね?」

「ああ、そうだ」

「……後戻りはできませよ?」

春田はポイ子に振り返る。その顔は鬼のような形相で怒りをあらわにしていた。

「これはな、ポイ子よ……」

一拍置いて力を込める。

「……俺の主義の問題だ」

その目の奥に魔王時代に見た闇が渦巻いていた。ポイ子は人で言う鳥肌が立つような感覚を覚える。そして心の底からの忠誠心を爆発させその場で平伏した。いつもならここで慌てるはずの春田も何も言わない。

「四天王を終結させろ」

その上そのまま命令まで……。ポイ子は身震いするほどの喜びを感じながらそれを感じさせない平坦な口調で答える。

「仰せのままに……聖也様」
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