追放された貴族は《再構築》の力で世界を直す

自ら

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第2章 荒野の再生者

第11話「土壌の再構築」

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試験栽培を始めてから三日が経った。ミーナは毎日、その小さな区画を観察していた。赤根草と苦麦が、本当に汚染された土壌で育つのか。その答えが、町の未来を左右する。

農業管理棟の窓から外を見ると、レオンが南区の畑にいるのが見えた。彼は毎日、浄化作業を続けている。朝から日が暮れるまで、地面に手を当て、青白い光を放ち続けている。

ミーナは胸が痛んだ。レオンの顔色は日に日に悪くなっている。

「これ以上、坊ちゃんに負担をかけるわけにはいかない」

ミーナは帳簿を閉じて、試験区画へ向かった。

小さな区画は、農業管理棟の裏手にある。汚染された南区の土を使い、赤根草と苦麦を植えた場所だ。

ミーナがそこに着くと、息を呑んだ。

「芽が出ている……」

小さな、緑色の芽。赤根草が、確かに発芽していた。

ミーナは膝をついて、その芽を見つめた。汚染された土の中から、新しい命が生まれている。

「本当に、育つんだ」

隣の苦麦の区画も確認すると、そちらも発芽していた。細く、頼りない芽だが、確実に育っている。

ミーナは立ち上がって、すぐにレオンに報告しようと走り出した。




南区の畑では、レオンが地面に両手を置いて、目を閉じていた。青白い光が、彼の手から地面へと染み込んでいく。ミーナが近づくと、レオンは目を開けた。

「ミーナか」
「坊ちゃん、いい知らせです」

ミーナは息を切らしながら言った。

「試験区画の植物が、発芽しました。汚染された土でも、育っています」

レオンの表情が、わずかに明るくなった。

「そうか。それは良かった」

彼は立ち上がったが、少しふらついた。ミーナがすぐに支えた。

「坊ちゃん、休んでください」
「大丈夫だ。まだこの区画の浄化が終わっていない」
「坊ちゃん、もう十分です。植物が育つなら、浄化を急ぐ必要はありません」

レオンは、ミーナを見つめた。

「だが、浄化しなければ、収穫量は戻らない」
「それでも、坊ちゃんが倒れたら、元も子もありません」

ミーナは、強く言った。

「今日は、ここまでにしてください。明日また、続ければいいんです」
レオンは、しばらく黙っていた。

やがて、小さく頷いた。

「わかった。今日は、これで終わりにする」

二人は、畑を後にした。


執務室に戻ると、リナが待っていた。

「坊ちゃん、お疲れ様です。お茶を淹れました」
「ありがとう、リナ」

レオンは椅子に座り込んだ。その様子は、明らかに疲労困憊していた。ミーナは、リナと目を合わせた。リナも、同じ心配をしている表情だった。

「坊ちゃん」

とリナが言った。

「このペースでは、身体が持ちません。何か、別の方法を考える必要があります」
「別の方法……」

レオンは、窓の外を見つめた。

「ミーナの耐性植物が成功すれば、浄化の優先順位を下げることができるだが、それだけでは不十分だ」
「では、どうすれば?」
「俺一人では、限界がある。だから、他の力を借りる必要がある」

レオンは、立ち上がって、本棚から一冊の本を取り出した。

「古代文明では、魔力の浄化は複数の方法で行われていた。再構築だけではなく、魔法による焼却、薬剤による中和、植物による吸収。それらを組み合わせていた」
「魔法による焼却?」

ミーナが聞いた。

「ああ。火の魔法で、負の魔力を焼き払う方法だ。ルリアに相談してみる」

レオンは、本を机に置いた。

「そして、薬剤による中和。これは、セリアの専門分野だ。彼女にも協力を依頼しよう」
「わかりました」

ミーナは頷いた。

「では、私は植物による吸収を担当します。耐性植物の栽培を拡大して、できるだけ多くの土壌を浄化します」
「頼む」

レオンは、ミーナとリナを見つめた。

「この町を守るために、みんなの力が必要だ」

その日の夕方、ミーナは農業係たちを集めた。

「これから、新しい作物の栽培を始めます」

ミーナは、赤根草と苦麦の苗を見せた。

「この植物は、汚染された土でも育ちます。そして、土の中の負の魔力を吸収して、無害化します」

農業係たちは、驚いた表情で苗を見つめた。

「本当に、そんなことができるのですか?」
「はい。既に試験栽培で確認しました。この植物を、南区全体に植えます」
「しかし、種が足りません」

と、一人の農夫が言った。

「まだ、野生から採取した分しかありません」
「では、まず種を増やします」

ミーナは、地図を広げた。

「町の周辺で、この植物が自生している場所を探します。できるだけ多くの種を集めて、栽培を拡大します」

農業係たちは、すぐに準備を始めた。ミーナは、地図を見つめながら、計画を練った。

まず、種の確保。次に、試験栽培の拡大。そして、本格的な栽培。

時間はかかるが、これが町を救う道だ。



翌日、ミーナは数人の農業係と共に、町の周辺を探索した。前回、赤根草と苦麦を見つけた場所から、さらに遠くへ。

荒野を歩き、野生植物を調べる。

最初の場所では、赤根草がいくつか見つかった。慎重に掘り起こして、種を採取する。

次の場所では、苦麦の群生地を見つけた。ここには、かなりの量がある。

「これだけあれば、十分です」

ミーナは、嬉しそうに言った。

農業係たちは、種を袋に集めた。さらに探索を続けると、別の植物も見つけた。

「これは……耐魔芋?」

ミーナは、古代文献で見た図解を思い出した。

大きな葉と、地中に芋を作る植物。負の魔力を無害化する性質を持つ。

「こんなところに生えているなんて」

ミーナは、その芋を掘り起こした。

確かに、書物の記述と一致している。

「これも持ち帰りましょう」


町に戻ったのは、日が傾き始めた頃だった。ミーナたちは、大量の種と芋を持ち帰った。農業管理棟に戻ると、すぐに種の選別と保存作業を始めた。

「これだけあれば、南区全体をカバーできます」

と、一人の農夫が言った。

「いや、南区だけではない」

ミーナは、地図を広げた。

「他の区画も、いずれ汚染が進む。だから、すべての区画に、予防的に植える必要がある」

農業係たちは、その計画に賛同した。

「では、明日から、栽培を拡大します」

ミーナは、窓の外を見た。夕日が、町を照らしている。レオンは、まだ南区で浄化作業を続けているのだろうか。

「坊ちゃん、もう少し待ってください。私たちも、町を守るために戦います」

ミーナは、そう心の中で呟いた。




数日後、町のあちこちで、耐性植物の栽培が始まった。南区では、汚染が最も深刻な場所に、赤根草を植えた。東区と北区では、予防的に苦麦を植えた。西区では、耐魔芋の試験栽培を始めた。

レオンの浄化作業も続いていたが、以前よりペースを落としていた。ルリアとセリアも加わり、火の魔法と薬剤による浄化が始まっていた。町全体が、土壌の再生のために動いていた。

ミーナは、畑を見回りながら、小さな希望を感じていた。芽が出ている。少しずつだが、確実に育っている。


「きっと、この町は守られる」

ミーナは、空を見上げた。

青い空。

白い雲。

半年前、ここは何もない荒野だった。だが、今は違う。

人々が集まり、作物が育ち、希望が芽吹いている。

「私たちは、ここで生きていく」

ミーナは、そう確信した。
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