追放された貴族は《再構築》の力で世界を直す

第3章 開拓と仲間たち

第23話「村の拡張」

村での一夜が明けた。レオンは、早朝から森の調査に向かった。村長の話にあった「青白い光」の正体を確かめるためだ。だが、森の奥まで進んでも、遺跡らしきものは見つからなかった。

「魔力の痕跡は、確かにあるんですが」

セリアが、魔導書を見ながら言った。

「遺跡がないとなると、別の原因かもしれません」
「わかった。一旦、戻ろう」

レオンは、調査を打ち切った。



村に戻ると、若い冒険者が待っていた。

「レオンさん、ファルマから伝言です」
「伝言？」
「はい。アイリスさんから。『急ぎではないが、一度戻ってきてほしい』と」
「わかった」

レオンは、仲間たちを見た。

「ファルマに戻ろう。そして、その後は……」
「リコンストラクト領ですね」

ルリアが言った。

「ああ。もう、十分だ」

レオンは、村長に別れを告げて、ファルマへ向かった。



ファルマに戻ると、すぐにギルドへ向かった。アイリスが、作戦室で待っていた。

「お疲れ様です。村の救出、見事でした」
「ありがとうございます」
「それで、お話というのは」

アイリスは、地図を広げた。

「あなたに、長期の依頼を提案したいのです」
「長期の依頼？」
「ええ。辺境各地で、魔獣の出現が増えています」

アイリスは、地図上のいくつかの場所に印をつけた。

「これらの地域を巡回し、魔獣を討伐する。期間は、半年」
「半年……」

レオンは、考え込んだ。

「すみませんが、それはできません」
「できない？」

アイリスは、意外そうな表情を見せた。

「理由を聞いてもいいですか？」
「俺には、守るべき町があります」

レオンは、はっきりと答えた。

「リコンストラクト領です。あそこを留守にするわけにはいかない」
「そうですか」

アイリスは、少し残念そうに頷いた。

「わかりました。無理は言いません」
「申し訳ありません」
「いえ」

アイリスは、微笑んだ。

「あなたには、あなたの責任がある。それを優先するのは、正しいことです」
「ありがとうございます」
「ただ、もし今後、協力できることがあれば」
「もちろんです」

レオンは頷いた。

「リコンストラクト領は、ギルドと友好的な関係でありたい」
「では、そういうことで」

アイリスは、手を差し出した。レオンは、その手を握った。



宿に戻ると、リナが既に荷造りを終えていた。

「準備は完了しています」
「ありがとう」

レオンは、部屋を見回した。

「ルークとセリアは？」
「二人とも、既に馬車に荷物を積んでいます」
「そうか」

レオンは、窓の外を見た。ファルマの街。ここで、多くのことを経験した。新しい仲間を得た。

「では、出発しよう」

リコンストラクト領までは、馬車で三日の道のりだ。だが、今回は四人での旅だ。馬車の中で、セリアが本を読んでいる。ルークは、腕を組んで眠っている。ルリアは、窓の外を見ている。リナは、帳簿を整理している。

「みんな、それぞれだな」

レオンが、笑いながら言った。

「レオンさん」

セリアが、本から顔を上げた。

「リコンストラクト領、どんな町なんですか？」
「小さな町だ」

レオンは答えた。そして、続けた。

「だが、希望に満ちている」
「どんな人がいるんですか？」
「農業管理者のミーナ。商人のリナ。そして、多くの村人たち」

レオンは、町のことを語り始めた。耐性植物の栽培。水路の建設。人々の笑顔。

「楽しみだな」

ルークが、目を開けて言った。

「早く、鍛冶工房を作りたい」
「私は、研究所が欲しいですね」

セリアが言った。

「古代文明の研究を、もっと深めたいんです」
「町には、そのための場所を用意する」

レオンは約束した。

「君たちが、存分に力を発揮できるように」



三日後、リコンストラクト領が見えてきた。緑の畑。水路。そして、建物が立ち並ぶ町。

「あれが……」

セリアが、息を呑んだ。

「信じられない。こんな場所が、辺境にあったなんて」
「すげえな」

ルークも、感嘆の声を上げた。

「本当に、町じゃないか」

馬車が、町の門に到着した。門番が、レオンに気づいた。

「レオン様！お帰りなさい！」

門が開き、馬車が町に入った。すぐに、人々が集まってきた。

「レオン様が戻った！」
「お帰りなさい！」

歓声が、町中に響いた。ミーナとエマが、走ってきた。

「坊ちゃん！」

ミーナが、嬉しそうに叫んだ。

「お帰りなさい！」
「ただいま、ミーナ」

レオンは、馬車から降りた。

「町は、無事だったか？」
「はい。問題ありません」

ミーナは、馬車の後ろを見た。

「新しい方々ですか？」
「ああ。紹介しよう」

レオンは、ルークとセリアを呼んだ。

「こちらは、鍛冶師のルーク」
「よろしく頼むぜ」

ルークが、豪快に手を振った。

「そして、魔導士のセリア」
「初めまして」

セリアが、丁寧に頭を下げた。

「二人とも、これからこの町の仲間だ」
「ようこそ、リコンストラクト領へ！」

ミーナが、満面の笑みで言った。町の人々も、拍手で二人を迎えた。



その日の午後、レオンは町の幹部を集めて、会議を開いた。ミーナ、リナ、そして村長。ルリア、ルーク、セリアも参加した。

「ファルマでの報告をする」

レオンは、地図を広げた。

「まず、冒険者ギルドとの関係を確立した」
「それは、素晴らしいですね」

村長が言った。

「次に、商取引の基盤を作った。リナから、詳しく」

リナが、商談の結果を報告した。グランデ商会との試験契約。複数の店との取引開始。

「順調ですね」

ミーナが言った。

「ええ。来月には、本格的な取引が始まります」

リナが答えた。

「そして、最も重要なこと」

レオンは、ルークとセリアを紹介した。

「ルークは、鍛冶師だ。この町で、武器や道具を作ってもらう」
「任せろ」

ルークが力強く言った。

「最高の武器を作ってやる」
「セリアは、魔導士で、古代文明の研究者だ」
「よろしくお願いします」

セリアが頭を下げた。

「私の知識が、この町の役に立てば嬉しいです」
「では、二人のための施設を作る必要があるな」

村長が言った。

「鍛冶工房と、研究所か」
「ああ」

レオンは頷いた。

「町の西側に、工業地区を作る。そこにルークの工房を」
「おお、専用の工房か！」

ルークが、目を輝かせた。

「そして、東側に研究地区を作る。セリアの研究所を」
「ありがとうございます」

セリアが言った。

「では、すぐに計画を立てましょう」

ミーナが提案した。

「新しい区画の設計、資材の調達、人員の配置」
「頼む」

レオンは、ミーナに任せた。

その後も会議は続き、気づけば火が落ちていた。その夜、レオンは町を見回る。夜の町は、静かだが、温かい灯りに包まれている。家々から、人々の話し声が聞こえる。

「坊ちゃん」

と、声がした。振り返ると、ミーナが立っていた。

「散歩ですか？」
「ああ。町を見ていた」
「変わりましたね、この町」

ミーナは、レオンの隣に立った。

「半年前は、何もなかったのに」
「ああ」

レオンは頷いた。

「みんなのおかげだ」
「坊ちゃんのおかげです」

ミーナは、微笑んだ。


「あなたが、この町を作ったんです」
「俺一人では、何もできなかった」

レオンは、町を見渡した。

「ミーナ、君がいたから。リナがいたから。ルリアがいたから。そして、みんながいたから」
「私たちは、家族ですから」

ミーナが言った。

「家族……」

レオンは、その言葉を反芻した。かつて、自分には家族がいた。だが、追放された。

今、新しい家族がいる。血は繋がっていないが、心は繋がっている。

「そうだな。家族だ」

レオンは、微笑んだ。

「この町は、俺たちの家なんだ」

二人は、しばらく黙って町を見つめていた。やがて、ミーナが言った。

「坊ちゃん、明日からまた忙しくなりますね」
「ああ。工業地区と研究地区の建設だ」
「頑張りましょう」
「ああ」



翌朝、町は活気に満ちていた。西側の空き地で、ルークが地面を見ながら構想を練っている。

「ここに炉を置いて、ここに作業台」

ルークは、興奮した様子で呟いている。

「最高の工房になるぞ」

東側では、セリアが本を広げて、研究所の設計を考えている。

「書庫が必要ね。それから、実験室も」

セリアは、メモを取っている。レオンは、二つの場所を行き来しながら、再構築の準備をしていた。地面の状態を確認し、建設に適した形に整える。

「レオン、ここはどうだ？」

ルークが聞いた。

「いいと思う。地盤も安定している」
「よし、ここに決めた」

ミーナと村人たちが、資材を運んでくる。木材、石材、金属。すべてが、町の倉庫から運び出される。

「みんな、建設を始めるぞ」

レオンの号令で、作業が始まった。



三日後、工房の基礎が完成した。ルークは、既に炉を設置し始めている。

「見ろよ、レオン」

ルークが、嬉しそうに言った。

「この炉、お前が再構築で強化してくれたおかげで、普通の倍の火力が出る」
「それはよかった」
「これで、最高の武器が作れる」

ルークは、ハンマーを握った。

「早速、始めるぞ」



東側では、セリアの研究所も形になってきた。書庫の棚が並び、実験台が設置されている。

「素晴らしい」

セリアが、感激した様子で言った。

「こんな立派な研究所、初めてです」
「存分に研究してくれ」

レオンは言った。

「君の知識が、この町を守る」
「はい。全力を尽くします」



一週間後、工業地区と研究地区が完成した。町の人々は、新しい施設を見学に来た。ルークの工房では、既に剣が作られている。

「おお、これが噂の鍛冶師か」
「すごい腕前だな」

村人たちが、感心している。セリアの研究所では、古代文明の資料が並べられている。

「こんなに古い本、初めて見た」
「魔導士様、すごいね」

子どもたちが、興味津々で見ている。レオンは、町の中心で、その光景を見守っていた。ルリアが、隣に立った。

「順調ですね」
「ああ」

レオンは頷いた。

「町は、また大きくなった」
「これから、もっと大きくなります」

ルリアは、微笑んだ。

「あなたが導く限り」
「俺だけじゃない」

レオンは、ルリアを見た。

「みんなで、導くんだ」

その夜、町では小さな祝宴が開かれた。新しい施設の完成を祝って。そして、新しい仲間を歓迎して。

ルークは、豪快に酒を飲んでいる。セリアは、村人たちと楽しそうに話している。ミーナとエマは、料理を配っている。リナは、商人たちと情報交換をしている。

レオンは、その光景を見て、満足していた。

「これが、俺たちの町だ」

レオンは、空を見上げた。

「一歩ずつ、進もう」

レオンは、そう心に誓った。