追放された貴族は《再構築》の力で世界を直す

自ら

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第6章「新世界の創造」

第52話「再構築の限界」

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北へ向かう旅は、日を追うごとに厳しくなった。気温が下がり、風が冷たくなる。やがて、雪が降り始めた。

「寒いな」

カイルが、防寒服を引き締めた。

「これから、もっと寒くなります」

セリアが、地図を確認しながら言った。

「氷原まで、あと三日です」

レオンたち七人は、雪の中を進んでいた。馬も、寒さに耐えている。町の人々が用意してくれた防寒装備が、命を救っていた。



二日後、風景が一変した。

地平線の果てまで、白い雪と氷。それが、北の氷原だった。

「すごい」

ルリアが、息を呑んだ。

氷原は、想像以上に壮大だった。氷の山々が連なり、凍った大地が広がっている。太陽の光が氷に反射し、眩しいほどだ。

「ここに、断片があるのか」

ルークが、周囲を見回した。

「記録によれば、氷原の中央に古代の祠があるそうです」

セリアが説明した。

「そこに、守護者がいるはずです」
「行こう」

レオンが先頭に立った。

氷原の中を進むのは、困難だった。足元が滑り、吹雪が視界を遮る。気温は、零下三十度を下回っている。

「こんな場所に、よく祠を作ったものだ」

マルコが、歯を食いしばりながら言った。

「古代人は、わざと厳しい場所を選んだのかもしれません」

エリーゼが答えた。

「断片を、簡単に見つけられないように」

数時間後、吹雪が激しくなった。前が見えない。

「このままでは、危険です」

セリアが叫んだ。

「どこかで、休もう」

レオンが周囲を探した。そして、氷の洞窟を見つけた。

「あそこだ」

七人は、洞窟に避難した。中は風が防げる。だが、寒さは変わらない。

「火を起こそう」

カイルが、持ってきた薪を取り出した。ルークが火打ち石で火をつける。小さな炎が、洞窟を照らした。

「少し、温かくなった」

ルリアが、火に手を翳した。七人は、火を囲んで座った。保存食を食べ、温かいスープを飲む。

「吹雪が収まるまで、ここで待とう」

レオンが言った。

その夜、レオンは眠れなかった。寒さもあるが、それだけではない。心に、不安があった。

「大丈夫ですか」

ルリアが、レオンの隣に座った。

「ああ。少し、考え事を」
「何を考えているんですか」
「この旅の、先のことだ」

レオンは、火を見つめた。

「断片を集めれば集めるほど、重荷が増える気がする」
「重荷?」
「ああ。この力を、本当に僕たちが持つべきなのか」

ルリアは、レオンの手を握った。

「あなたなら、正しく使えます」
「そう信じたい」

レオンは、ルリアを見た。

「でも、不安なんだ」
「大丈夫です。一人じゃありません」

ルリアは、微笑んだ。

「みんなで、支え合いましょう」

レオンは、頷いた。

翌朝、吹雪は収まっていた。空は晴れ、太陽が輝いている。

「行こう」

七人は、再び氷原を進んだ。



正午頃、氷原の中央に巨大な氷の柱が見えてきた。その根元に、古代の祠があった。

「あれだ」

レオンが指差した。

祠は、氷で作られていた。透明な氷が、太陽の光を反射して輝いている。美しく、神秘的だ。

七人が祠に近づくと、突然、氷の柱が動き始めた。

いや、動いたのではない。氷の中から、何かが出現したのだ。

巨大な人型の存在。全身が氷でできている。高さは、三メートルを超える。目は青白く光り、口はない。

「守護者か」

カイルが、剣を抜いた。

氷の守護者は、ゆっくりとレオンたちを見下ろした。そして、声が響いた。氷の守護者の口は動かないが、声は直接頭の中に聞こえてくる。

「断片を求める者よ」

声は、女性のようだった。穏やかで、優しい。

「汝らは、代償を知っているか」
「代償?」

レオンが聞き返した。

守護者は、祠の前に立った。

「七つの断片を集めれば、世界を再構築できる」
「だが、その力には、代償がある」
「それを、知っているか」

レオンは、首を振った。

「知らない。教えてください」

守護者は、しばらく沈黙した。そして、語り始めた。

「七つの断片を一つに統合し、真の再構築を行えば」
「世界のあらゆる構造を、書き換えられる」
「だが、その代償は」

守護者の声が、重くなった。

「使用者の存在そのもの」
「何だと」

カイルが、驚いた。

「使用者は、消滅する」

守護者は、続けた。

「魂も、肉体も、記憶も。すべてが、世界に還元される」
「それが、真の再構築の代償だ」

レオンは、立ち尽くした。

「消滅、する?」
「そうだ」

ルリアが、レオンの前に出た。

「そんな、代償」
「それが、古代文明が滅んだ理由だ」

守護者は、氷原を見渡した。

「古代の再構築者たちは、七つの断片を集めた」
「だが、誰が犠牲になるかで争った」
「誰も、自分が消えたくなかった」
「だから、戦争になった」
「そして、争いの中で、断片の力が暴走した」
「結果、全員が消滅し、文明も滅んだ」

セリアが、震える声で言った。

「つまり、七つ集めたら、誰かが死ぬということですか」
「死ぬのではない。消滅だ」

守護者は、厳しく言った。

「魂すらも残らない。完全に、この世から消える」

レオンは、拳を握りしめた。

「それでも、集めなければならないのか」
「それは、汝が決めることだ」

守護者は、レオンを見た。

「だが、知っておけ」
「断片を放置すれば、いずれ誰かが集める」
「そして、その者がどう使うかは、わからない」
「善き者なら、良い世界を作るだろう」
「だが、悪しき者なら、地獄を作る」

レオンは、苦悩した。集めなければ、悪用される。集めれば、誰かが消える。

「どちらを選んでも、地獄だ」

カイルが、呟いた。その時、ルリアが叫んだ。

「そんな代償、認められません」
「誰かが消えるなんて」

ルリアの目には、涙があった。

「他に、方法はないのですか」

守護者は、しばらく沈黙した。

「ないわけではない」
「何だと」
「負担を分散すれば、消滅は避けられるかもしれない」

守護者は、続けた。

「だが、それには多くの者の協力が必要だ」
「そして、全員が相当な痛みを負う」
「それでも、消滅よりはましだ」

レオンは、仲間たちを見た。全員が、頷いた。

「わかった」

レオンは、守護者を見た。

「僕たちは、集める」
「そして、全員で負担を分ける」
「誰も消えさせない」



「その覚悟、確かに見た」

守護者は、祠に手を翳した。

「だが、断片を渡す前に、試練がある」

氷原全体が、震え始めた。氷が隆起し、壁が出現する。七人は、氷の迷路に閉じ込められた。

「これは」
「汝らの覚悟を、試す」

守護者の声が、響いた。

「この迷路を抜けろ」
「ただし、自己犠牲の覚悟があるか、試される」

迷路の中、七人はバラバラに分かれてしまった。

レオンは、一人で氷の通路を進んでいた。壁には、氷で作られた自分の姿が映っている。

「幻影か」

氷の中のレオンが、語りかけてきた。

「お前は、本当に死ねるのか」
「死ぬ?」
「七つ集めれば、お前は消える」

氷の中のレオンは、冷たく言った。

「それでも、集めるのか」

レオンは、自分の姿を見つめた。

「必要なら」
「本当か?」
「ルリアと生きたくないのか」

氷のレオンが、挑発した。

「仲間たちと、笑いたくないのか」
「町の人々と、平和に暮らしたくないのか」

レオンの胸が、痛んだ。

「生きたい」

レオンは、正直に答えた。

「ルリアと、仲間たちと、生きたい」
「なら、諦めろ。断片を集めるな」
「でも」

レオンは、拳を握りしめた。

「誰かが悪用すれば、すべてが失われる」
「ルリアも、仲間も、町も」
「それを、防がなければならない」
「だから、俺は集める」
「たとえ、消えることになっても」

氷のレオンが、微笑んだ。

「その覚悟、確かだ」

氷の壁が、溶けた。道が開ける。

レオンは、進んだ。そして、中央の広場に到着した。

仲間たちも、次々と到着していた。全員、それぞれの試練を乗り越えたのだ。

守護者が、中央に現れた。

「よくぞ、来た」
「全員が、自己犠牲の覚悟を示した」

守護者は、祠から四つ目の断片を取り出した。

「これを、授けよう」

レオンは、断片を受け取った。冷たいが、力強い。

「ありがとうございます」

守護者は、レオンを見た。

「だが、覚悟だけでは足りない」
「真の再構築を行う時、方法を見つけねばならない」
「消滅せずに、力を使う方法を」
「それは、汝らの課題だ」

守護者は、氷に戻っていった。そして、静かに言った。

「幸運を祈る」



氷原を出る時、七人は疲れ果てていた。肉体的にも、精神的にも。

「代償が、消滅か」

カイルが、呟いた。

「重すぎる」
「ですが、方法はあるかもしれません」

セリアが言った。

「負担を分散すれば」
「でも、それでも痛みはある」

エリーゼが続けた。レオンは、黙って歩いていた。心が、重い。ルリアが、レオンの手を握った。

「レオン、約束してください」
「何を」
「一人で、背負わないでください」

ルリアの目には、涙があった。

「あなたが消えるなんて、絶対に嫌です」
「ルリア」
「約束してください」

レオンは、ルリアを見た。そして、頷いた。

「約束する」
「一人では、背負わない」
「みんなで、解決する」

ルリアは、レオンに抱きついた。

「ありがとう」



一週間後、七人はリコンストラクト自由国に戻っていた。

町の人々が、歓迎してくれた。だが、七人の表情は暗い。

村長が、気づいた。

「何かあったのですか」
「ああ」

レオンは、正直に話した。代償のこと。消滅のこと。すべてを。

村長は、顔色を変えた。

「そんな」
「だが、方法を探す」

レオンは、力強く言った。

「誰も消えずに、断片の力を使う方法を」
「必ず、見つける」

その夜、レオンは執務室で一人考え込んでいた。

「どうすればいい」

四つの断片が、机の上に並んでいる。青白く光っている。

「残り、三つ」
「集めれば、誰かが消える」
「だが、集めなければ、世界が危ない」

レオンは、頭を抱えた。

ノックの音がして、セリアが入ってきた。

「レオンさん、まだ起きていたんですか」
「ああ。眠れない」

セリアは、分厚い本を持っていた。

「これを、見つけました」
「何だ」
「古代の研究書です」

セリアは、本を開いた。

「再構築の限界について、書かれています」

レオンは、本を読んだ。そこには、恐るべき事実が書かれていた。

「真の再構築は、世界の構造そのものを書き換える」
「だが、それは世界の法則に反する」
「だから、代償として等価の存在が必要」
「使用者の存在が、代価となる」

レオンは、本を閉じた。

「やはり、消滅は避けられないのか」
「いえ」

セリアは、別のページを開いた。

「ここに、別の記述があります」
「『複数の存在が負担を分ければ、消滅は避けられる可能性がある』」
「『ただし、その痛みは想像を絶する』」

レオンは、その文章を読んだ。

「痛み、か」
「はい。死ぬよりはましですが」

セリアは、眼鏡を直した。

「覚悟が必要です」

レオンは、窓の外を見た。

「みんなを、また苦しめることになる」
「でも、それしか方法がないなら」

レオンは、決意した。

「やるしかない」

翌朝、レオンは仲間たちを集めた。

「最後の三つの断片を、集めに行く」

レオンが宣言した。

「そして、全員で負担を分ける」
「痛みは、想像を絶するかもしれない」
「それでも、やるか」

カイルが、最初に答えた。

「当然だ」

ルリアも頷いた。

「あなたを、一人にはしません」

ルーク、マルコ、エリーゼ、セリア。全員が、賛成した。

「では、行こう」

レオンは、地図を広げた。

「次は、東の砂漠だ」

新たな旅が、始まる。代償の重さを知りながら、それでも進む。

それが、彼らの選んだ道だった。

空には、雲が流れていた。だが、七人の心には、決意の光があった。

まだ、終わりじゃない。
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