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一章
1:勇者になったらしい
しおりを挟む現代社会の闇に飲まれて自暴自棄になり、ならいっそのこと死んでやる! と息巻いたが、人の決死の覚悟も上司や同僚には鼻で笑われ「どうせお前もこき使われて一生を終えるんだよ」と明るい未来設計もくそもない一言を云われビルの屋上から飛び降りた。死ぬってこんなにも気分が軽くなるんだな、と思っていたのがついひと月前のことである。
俺は今、異世界に転生して第二の人生を強制的にスタートさせられていた。
いや、なんでやねん。生粋の関東生まれ関東育ちの俺ですら関西弁で突っ込むレベルで奇想天外な展開に、何もかもがついていけない。唯一俺に寄り添ってくれるのは疲労のみである。お前だけは俺を裏切らない。お前のことは嫌いだが、お前の存在を感じられるというだけで得られる安息もあったのだ。嬉しくない。
異世界に転生した俺は勇者であるらしい。宿屋で目が覚めていつもと違う雰囲気に地獄の沙汰を垣間見ようと外に飛び出たのが運の尽きだった。いかにも冒険していますという風貌の四人組に「貴方が勇者ですね」と変な言い掛かりを付けられ、有無をいわさず武器屋に担ぎ込まれてあれよあれよと装備を身に付けさせられると一見して城下町を徘徊する近衛兵のモブが爆誕した。勇者という肩書きがあまりにも重すぎる。
「え、もしかしてこれ魔王とか倒しに行く流れ?」
また自ら死を選べと? 異世界転生してもブラック企業に勤めていた頃と変わらないハードモードな選択肢に、俺の思考はパンクした。無理だわ。死のう。
「落ち着け」
首もとに剣の切っ先を運んだ俺を制したのは筋骨粒々の大男だった。職業は僧侶である。人は見かけで判断してはいけない見本そのものだ。
「そうですよ、死ぬのは魔王と会ってからでも遅くないですって」
「死ぬ前提なら今死にたい」
「死ぬならせめて役立ってから死ぬ方が人としての尊厳が格上げされますよ」
「辛辣すぎない?」
仮にも勇者なんだよね、俺。気さくに清流のごとく酷いことを天使のような笑顔で宣ってくる少年の職業は武道家である。可愛い顔をしてえげつない筋肉の鎧を服の下に纏っている。分かるんだよ、立ち方がなんか普通の人じゃない。
「大丈夫、魔王といえど殴れば死にます」
脳ミソまで筋肉で出来ているらしい発言に、俺は「ソーデスネ」とただ頷くしかない。反論でもしようものならあばら骨を持って逝かれる。そんな気配を察した。その武道家の後ろに居た穏和そうな青年が「まあまあ」と物腰柔らかな言動で武道家を宥めているが、彼の背中には大剣が背負われており、最終的には物理的に黙らせてきそうだな、と俺はいささか現実から逃避をし始めた。
「殴るよりも首を切り落としてしまえば、相手も自分も痛くないよ」
いや、相手は痛いだろ。それとも痛みも与えずに首を落とすほどの手練れだっていうのだろうか。
「まあ、これでも一応は剣士だから」
そう、彼は剣士である。敵と遭遇しようものなら「困ったなあ、どうしようかなあ」と全く思ってもいないことを口にしながら容赦なく大剣を振り下ろすような男である。知らんけど。
そしてその隣で冷淡な雰囲気を醸し出す青年が、魔法使いらしい。口数が少ないのか、個性が強すぎる面子に出来うる限り関わり合いたくないのか、少し離れた位置で鎧をガシャガシャと鳴らす俺に冷ややかな眼差しを向けている。頼むからそんな目で見ないでくれ。
大柄屈強僧侶に、毒舌ショタ武道家、穏やかの皮を被った蛮族剣士に、唯一それっぽい魔法使い。改めて整理して見ると、もはやバグだろ。人は見かけで判断してはいけないの見本市を勇者のパーティーで開催するんじゃあない。
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