ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃

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三章

三十二話 優勝者

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「おめでとうございます、『赤獅子王』様!!」
 
 試合が終わった舞台上では、そのまま優勝表彰式へと移行する。司会役がハイラルの優勝を讃えると、ハイラルは仮面を脱いで姿を晒した。その下から現れた、アストラ帝国第一皇子の顔に会場はどよめく。
 
「ハイラル様、優勝トロフィー授与の前に一言お願いします」
「ああ」
 
 ハイラルは司会役の差し出した魔道具のマイクを受け取ると、集まった観衆に向かって話し出す。
 
「俺は今日、この大会で優勝する事が出来た。これも皆の応援あっての事だ。本当にありがとう。感謝している。優勝したとはいえ、今回の大会で俺はまだ未熟だと思い知らされた。来年も再来年も、この大会には出場するつもりだ。だからどうか、これからも応援してほしい」
 
 ハイラルの言葉に、闘技場に集まった人々は歓声と拍手を送る。
 
「そして此度の勝利を、聖女アリーシャに捧げる」
「!?」
 
 アリーシャは突然の指名に驚く。
 
「彼女がいなければ、我々は魔物の大群によって滅びの運命を辿るところだっただろう。だがアリーシャの改良したポーションのおかげで先の遠征で死傷率が著しく低下した。俺が無事に武闘大会に参加できたのもアリーシャのおかげだ」
 
 ハイラルはVIP席にいるアリーシャの方を向いて微笑むと、恭しく礼をした。会場がまた大きな歓声に包まれた。皆の視線は舞台上だけではなく、VIP席にいるアリーシャにも向けられた。一呼吸置いて、波のような拍手が響き渡る。
 
「良かったですね、アリーシャ様。ハイラル様からの直々のご指名を受けて」
「う、うん……」
「アリーシャ様は素晴らしい功績を上げているのですよ。胸を張ってください」
「そ、そんな……! 私はただ、自分がやりたいと思った事をしただけで……!」
「それがすごい事なんですよ」
 
 リリアナに言われて、アリーシャは恐縮してしまう。
 
「さあ、それでは早速ですが、優勝者である『赤獅子王』ことハイラル様に優勝トロフィーを贈呈したいと思います!」
 
 司会役はハイラルの前まで行くと、台座に乗った優勝トロフィーを手渡す。ハイラルはトロフィーを受け取ると、天に向けて力強く翳した。
 

***

 
 そして、その夜。アリーシャはハイラルに呼び出されて、宮殿のバルコニーにやって来た。
 ハイラルはバルコニーの手すりから夜景を眺めながら、静かに佇んでいた。月明かりに照らし出されたその姿は、一枚の絵のように美しかった。
 
「ハイラル様……?」
 
 声を掛けるか少し迷ったが、意を決して名前を呼ぶと、ハイラルがこちらを振り返った。
 
「来てくれたか、アリーシャ。どうだ、今日は楽しめたか?」
「はい、とっても! ハイラル様、改めまして優勝おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。本当はもっと早く会いたかったんだが、大会の準備で忙しかった。許してくれ」
「いえ、とんでもないです! お時間を取ってくれただけでありがたいです!」
「そうか、そう言ってくれると俺も嬉しい。……見てくれ、アリーシャ。花火が打ちあがったぞ」
「あっ、本当ですね!」
 
 宮殿のバルコニーから眺める帝都の空には、色とりどりの花火が打ち上げられている。建国祭の最終日を飾るのに相応しい、夜空に咲いた大輪の花だ。
 
「きれいですね」
「そうだな。……こんな風に二人でゆっくりと話すのは久しぶりだな」
 
 ハイラルは少しだけ緊張した様子で言う。
 
「仕方ないですよ。ハイラル様は魔物退治の遠征から戻ってすぐ、武闘大会の準備に入られましたから」
「ああ。だが、こうして話せて良かった。ずっとお前に会いたかった。……会って話がしたかった。どうしても伝えたい事があったんだ」
「私にですか? 一体何でしょう……」
「ああ……。あのな、アリーシャ。実は――」
「殿下、こちらにいらっしゃいましたか」
 
 ハイラルが何かを言いかけた時、後ろから声がかかった。振り返ると皇帝直属の執事セバスチャンがいた。
 
「ん、どうした」
「皇帝陛下がお呼びです。此度の武闘大会優勝を讃える祝辞かと思われますが……お邪魔してしまいましたか?」
「いや、大丈夫だ。行こう」
 
 ハイラルは立ち上がると、アリーシャに向き直った。
 
「すまない、アリーシャ。父上のところに行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ」
「また後で話をしよう」
 
 そう言うとハイラルは足早にその場を去った。残されたアリーシャはぼんやりと夜空を眺める。次々と花火が打ちあがり、夜だというのに不思議な明るさを放っていた。
 花火は帝国では元々兵器として開発されていた技術を、娯楽として転用させ発展させた歴史がある。これだけ多くの火薬を一度に使える国力があると、諸国に対するアピールでもある。
 
(やっぱり帝国は凄いなあ……)
 
 この三日間の建国祭を通して、改めてアストラ帝国の国力の高さを思い知った。同時に、自分の存在がいかにちっぽけなものであるかも思い知る。
 
(ハイラル様もロラン様もエクレール様もリリアナも、みんな私を褒めてくれるけど、私なんてまだまだだわ……もっと頑張らないと!)
 
 アリーシャはハイラルが去った後も、しばらく一人きりで夜空を眺めていた。そして心の中で、決意を新たにするのだった。
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