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第3章 最弱脳筋美幼女?と皇都防衛戦

29「三種類のガーゴイル」

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 ――と同時に――

 ――今まで幾度となく、マーサの挑戦を撥ね返して来た岩が――

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

 ――マーサの頭上に持ち上がった。

「今だ。助けるぞ」
「分かってるわ! ワードフさん! 手を!」
「!」

 ――絶好の機会を逃さず、屈んだティーパが〝パンツロープ〟を投げ込むと、ワードフがそれを掴み、流れるような動作でティーパから〝パンツロープ〟を渡されたアンが全力で引っ張って、一気に岩下から引っ張り出した。

 ――直後、マーサが纏っていた光が消えて――

 ドーン。

 ――轟音と共に、巨岩が地面に落ちた。

 アンが抱き留めたワードフに対して――

「『セイクリッドヒール』!」

 ――最上級回復魔法の連続使用で無理が祟り、口許から血が伝うリカが、気合いで魔法を発動すると――

 ――地面に寝かされたワードフは――

「……儂は……生きとるのか……?」

 ――ゆっくりと、目を開いて――

「父ちゃん!! 父ちゃん父ちゃん父ちゃあああああああああああん!!!」

 ――マーサが、涙でぐちゃぐちゃになった顔で抱き着いた。

※―※―※

 マーサの両親を救う事は出来たが、上級モンスターであるガーゴイルが、まだ五匹、街中で暴れており、気を抜く事は出来ない(聞こえて来た叫び声によると、三種類のガーゴイルがおり、それぞれ、巨岩、猛炎、そして氷柱を飛ばして来るらしい)。

 無論、皇都リギトミにも他の冒険者たちはいるのだが、比較的低い位置を飛んでいた個体を、ティーパが〝パンツロープ〟で引き摺り降ろして、アンが殺した事で、他のガーゴイルたちが警戒して、高空へと上昇して、そこから攻撃を仕掛けるようになってしまったのだ。

 皇都には、飛行魔法を使えるような高位の魔法使いがおらず、冒険者たちの攻撃は敵に届かず、逆に、向こうの攻撃は百パーセント街に損害を与える、という、一方的な構図が続いていた。

 あちこちから火の手が上がり、巨岩と巨氷が建物を粉砕していく中――
 遥か上空、ティーパたちのいる場所から、辛うじて視認出来る位置にて静止するガーゴイルたちに――

「あんなの、反則よ!」
「ズルなの!」
 
 決して本人には届かない抗議の声をアンとリカが上げていると――

「どれ。先刻は情けない所を見せてしまったからのう。と、儂も良いところを見せるとするかのう」

 ――抱き着いていた愛娘の頭を撫で、優しく身体を引き離したワードフは、立ち上がり、握れば手で隠れてしまう程度の大きさの石を拾うと――

「では、いくぞい!」

 ――先程消えた光――闘気が、再びワードフの身体を包み込み――

「ぬんっ!」

 ――全身の筋肉の躍動に呼応して投げられた石は――

 ――余りの勢いに、流れ星のような輝きを放ち、夜闇を切り裂き――

 ――何事かと、顔をこちらに向けた、氷属性のガーゴイルの――

「ギャアアアアアア!」

 ――胸を貫通――巨大な風穴を開けて――
 
 ――ガーゴイルは、力無く落ちていく。

「父ちゃん、すごい!」
「これなら、行けそうね!」
「おじさん、バンバンやっちゃってなの!」

 残りのガーゴイル討伐にも、期待が掛かるが――

「むう……」

 ――〝長距離射程〟の狙撃手がいる事が分かった彼らは、空中を素早く飛び回るようになり、ワードフの投石攻撃は、全く当たらなくなってしまった。

「本来、儂が最も得意とするのは、近接戦闘じゃからのう。精密狙撃は、専門外じゃわい」

 その間にも、ガーゴイルは、土魔法――巨岩、炎魔法、氷魔法で、街中を破壊していく。

「どうしたら……!?」

 ――と、その時――

「ヒッ!」

 ――遠くから、何時ぞやの〝あの声〟が聞こえて来て、アンの背中を悪寒が走り――

「どこですのおおおおおおおおおお!? おパンツ男おおおおおおおおおお!」

 ――縦ロールの赤髪ロングヘア、赤ドレス姿の巨乳美少女――ディクセアが、両手に炎槍と氷槍を持った状態で、南西の方角から、
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