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第6章 転生前の事件とこれからの未来

66「ズルい」

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 シャウルがマーサとリカによって私刑リンチに遭い、悦びの声を上げている間――
 
 ――アンは――

「ティーパ!」

 ――最愛の少年に駆け寄り、抱き着いた。
 優しく抱き留めるティーパ。

「生きてる……! 良かった……!! 本当に良かった……!!!」

 頬を伝う涙もそのままに、アンは――
 ――強く、強く抱き締める。
 ――永遠に失われたかと思われたその温もりを――
 ――もう二度と離すまいとするかのように――

 暫くそのまま、抱き合った後――

 ――アンは、少し身体を離すと――

「……さっきの言葉って……本当……?」

 ティーパの腕に触れるアンの手が――震えている。

 それは、ただ『〝他の女の方が好きで、大切だ〟と言われたから、一度愛を告げられたくらいでは、信じられない』という単純なものではなくて――

 悲劇の死を遂げた実の妹のためとはいえ、一度は〝お前の命は要らない〟と言われたも同然の扱いを受けたのだ。無理も無いだろう。

 ティーパが――

(どうすれば、信じて貰えるだろうか?)
(どうすれば、想いが伝わるだろうか?)
(どうすれば、傷を、癒せるだろうか?)
(どうすれば)
(どうすれば)
(どうすれば)

 深く思考すると、その――

「!」

 ――に、思わずアンは目を見張り――

「本当にすまなかった」

 ――謝罪したティーパは――

 ――真剣な表情で――

 ――真っ直ぐに、アンの瞳を見詰めて――

「アン。俺は、お前が好きだ」
「!!」

 ――再び告げたその言葉で――

 ――決して偽りでは無いと――
 
 ――ただ、自分の気持ちを伝えようとして――
 
「お前が好きなんだ」

 ――胸の奥から込み上げる想いが、溢れ出して――

「……あたしも……好き……! ……ティーパが大好き……!」

 ――自然と、ティーパとアンの顔が近付き――

 ――目を閉じた二人の――

 ――唇が、そっと触れて――

 ――アンの震えが止まり――

 ――ゆっくりと、唇を離して――

 ――目を開くと――

「!!!」

 ――ティーパが、――

「あー! ティーにぃが笑ってる! 初めて見た!」

 シャウルを散々殴り続けて返り血を浴びたマーサが、小休止とばかりに振り向いて、ティーパを指差しつつ声を上げて――

「え? 俺、今、笑ってるのか?」

 その指摘を受けて、初めて気付いたティーパは、自分の顔を触って、戸惑いながら――

「アン。違うんだ、お前を深く傷付けた事に対して、本当に悪いと思っている。だから、笑うつもりなんか無かった。無かったんだ」

 ――そう弁解するティーパは――

「多分――」

 ――言葉を紡ぎ――

「お前と両想いになれたんだって思ったら……嬉しくて、つい、笑顔になってしまったんだと思う」
「!!!」

 ――そう告げると――

 ――申し訳なさそうに、もう一度笑って――

「何よ、それ……」

 アンは、目を逸らし――
 
 ――小さな声で――

「そんなの、ズルい……ズル過ぎるわ……!」

 ――誰にも聞こえないように――

 ――そう呟くと――

「何謝罪中にへらへら笑ってんのよ!」
「ぶべはっ」

 ――顔を真っ赤にしながら、ティーパを全力で殴り、吹っ飛ばした。
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