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3.【一方勇者たちは(ダンジョンにて)】

「ぐぁっ! また罠かよ! 何とかしろよ、トモユキ!」
「ワタシは弓使いです。そんな能力はありません。自分でどうにかしたらどうですか?」
「チッ! 出来そうなのは見た目だけかよ! クソッ!」

 アルビノであるために白髪かつ灰色の瞳をしているトモユキに、アキラが毒突く。

 リュウをパーティーから追放した後、勇者ことアキラたちは、ダンジョンの復路で苦戦していた。

 B級ダンジョンは他の場所で既に攻略したことがあり、何も問題ないはずだった。
 そろそろA級ダンジョンに挑戦しようという話もしていたくらいなのだ。

 にもかかわらず、アキラたちは全ての罠に嵌まって手傷を受け、モンスターとの戦闘でも簡単には勝ちを掴めず、藻掻いていた。

 ここまで悪戦苦闘するなど、初めてのことだ。

「タイガ! てめぇがモンスターのヘイト管理しねぇからだろ! タンクなんだから攻撃は全部てめぇが受けろ!」
「無茶言うな! 全部なんて出来るわけないだろ! お前こそ、全然攻撃当たってないだろうが! 何のために聖剣なんて大層な物を装備してるんだ!」
「あ? ケンカ売ってんのかコラ?」
「二人とも、やめて下さい。ほら、また新手が来ましたよ」
「てめぇこそ、全然矢が当たらねぇじゃねぇか、トモユキ! 俺様よりヤバいだろうが!」
「なっ!? ちょっと調子が悪いだけです! それよりも! 来ますよ!」
「チッ!」

 クソッ! マイカがいれば、もっと楽に戦えたんだがな。

 内心で呟いて、アキラは再度舌打ちする。

 まさかマイカがパーティーを抜けるだなんて、想像もしていなかった。
 しかも、リュウを助けようとして、最下層へと戻っていってしまった。

 マイカは、アキラが密かに想いを寄せていた相手だ。
 人は自分には無いものを持つ人間に惹かれると、聞いたことがある。

 信じていなかったが、自分とは正反対の、生真面目な性格の黒髪ロング美少女であるマイカに一目惚れしたという事実からすると、もしかしたらそうなのかもしれない。

 すぐにでも言い寄ろうと思っていたアキラだったが、彼女を好きだからこそ、気付いてしまった。

「可愛い……!」

 小さな声で呟いた彼女が、うっとりと見つめる先にいるのが、別の少年であるということに。

 だから、マイカへの想いを態度に表すことが出来なかった。

「全部あのガキのせいだ……!」

 忌ま忌ましげに、そう吐き捨てる。

 小動物を思わせる茶髪の癖っ毛の小柄な少年。

「何が『生まれつき髪が茶色い』だ、クソッ! こっちは、何度も染め直してるってのに」

 金髪のアキラと赤髪のタイガは、異世界に来てから染料入りの薬を探して、定期的に染め直していたにもかかわらず、リュウは何もせずとも茶髪を手に入れていた。

 そんな小動物のような見た目の彼に対して、「可愛い」と褒めたたえる女性は、マイカだけではなかった。

 冒険者ギルドの美人受付嬢や酒場の看板娘、果ては女王までもが、リュウのことを可愛いと言って、色目を使うのだ。

 しかも、当の本人は、「可愛いじゃなくて、格好良いが良い! ドラゴンみたいに!」とか言って、好意を向けられていることに無頓着だった。

「あのクソガキめ! この俺様を差し置いて!」

 完璧超人であり高身長イケメンである自分ではなく、何故あんなクソガキを持て囃すのか。

 千年振りに魔王が復活したために、自分たちは別の現代日本パラレルワールドから異世界召喚された。

 村や街がモンスターに襲われ、人々が殺傷されるのみならず、最近は何人も連れ去られ帰って来ないという。
 
 そんな巨悪を倒すために召喚された五人の中で、勇者に選ばれたのは自分だ! あんな出来損ないのガキじゃなくて、自分だというのに。

「だから、追放してやったってのに!」

 目障りだったのだ。
 
 レベルも低くトカゲしか召喚出来ない癖に、女どもから褒められて、自分の想い人すら惹き付けてしまうリュウが、憎かった。

 そこで、ずっと機会を窺っていた。
 リュウを追放するチャンスを。

 そして、本日。
 ようやく、実行出来た。

 邪魔者は消えた。

 これで、マイカを振り向かせることが出来る。
 そう思っていたのに。

「リュウ君がいないなら、私も辞めるから。じゃあね」

 マイカはあっさりとパーティーから抜けた。

「え? あ、ちょ――」

 突然の出来事に、呼び止めることも出来ず、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

 その結果、賢者である彼女が担っていた攻撃魔法・防御魔法・回復魔法の全てがパーティーから失われた。

 問題はそれだけに止まらない。

 リュウが召喚していた大型トカゲがいなくなったことで、自分で荷物を運ばなければならず、索敵も出来ないため、突然現れるモンスターに対して、後手に回ってしまう。

 往路でトカゲが発見した罠の場所をアキラたちは誰も覚えていなかったため、シーフと違い解除まではしていなかったそれら一つ一つに、見事に嵌まってしまった。

「がぁっ! ハーピーごときが、俺様に攻撃を当ててんじゃねぇ!」

 心なしか、いつもよりもモンスターたちの動きが良く、積極的に攻撃してくる気がする。

「ミノタウロスごときが、一丁前に攻撃を避けるんじぇねぇよ!」

 更には、こちらの攻撃は当たらず、どういう訳か敵の攻撃はよく当たる。

「チッ! もうねぇじゃねぇか!」

 今までは傷を負うことなどほぼ無く、たまにあってもマイカが回復魔法で治してくれていた。
 そのため、ポーションはろくに準備しておらず、既に使い切ってしまった。

「とにかく進むしかねぇ!」

 アキラが力強く踏み出すと。

 カチッ

「あ」

 不自然に地面が凹み、何かスイッチのような音がして。

「ぐぁっ! ッぁぁぁああああ! あのクソガキがああああああああ!」

 壁から心臓目掛け飛んで来た矢を左腕で受けたアキラが、激痛に顔を歪め、右手で引き抜きつつ上げた叫び声が、ダンジョンに響いた。

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