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7.「決着」

 僕の剣も、マイカさんの攻撃も効かない……!?

「ケケッ! 良い反応するじゃないか、御褒美にコイツは返してやるぜ。もう用済みだからな」
「わっ!」

 ダークフォギーが族長さんをぶん投げて来たので、慌てて受け止めた。

「さっきの斬撃、なかなか良かったぞ、ガキ。どれどれ、どのくらいの力を持って……へ? LV200!? 冗談だろ!? 200なんて、将軍レベルじゃ――いや、いくら強かろうが、無駄だ! このダークフォギーには、物理攻撃は一切効かないしな! うん!」

 敵がよく分からない独り言をつぶやいている間に、族長さんを地面に寝かす。

「あなたが大聖樹をモンスター化したの?」
「そうだ。だが、それが分かったところでどうする? お前らには打つ手がないだろう。ケケッ!」

 目を細めるダークフォギーに、僕らは何も言い返せない。

「あたいの村に何してくれてんだ!」
「好き放題やってんじゃないわよ!」

 駆け付けたエルアさんとレンベスさんが、それぞれ大斧と矢で怒りをぶつけるが。

「意味ないって言ってんだろうが」
「「!」」

 通り抜けるだけで、全くダメージを与えられない。

「あっ!」
「くっ!」

 大聖樹から伸びる蔦の数が一気に増加、僕らは全員捕らえられ、持ち上げられてしまう。

「そんな……こんなの、どうすれば!?」

 項垂れるレンベスさんに、ダークフォギーが愉悦の声を上げる。

「そうだ! 絶望しろ! 人間だろうがエルフだろうがドワーフだろうが関係ない! お前らには、このダークフォギーに傷一つつけられない! そして、お前らは、大事にしている大聖樹によって死ぬんだ!」

 両手を広げた彼は、楽しくて仕方ないと言った様子で喋り続ける。

「あんたはあたいがぶっ殺してやる!」

 啖呵を切るエルアさんだが、いくら力を込めても自身を縛る蔦から抜けることが出来ず、歯軋りする。

「ぐっ!」
「がぁ!」

 蔦がギリギリと食い込み、身体を締め付けて、仲間たちが悲鳴を上げる。

 打つ手がない。
 一体どうすれば……!?

「なんたって、このダークフォギーは、魔王さま直々に能力を授けて頂いているからなぁ! 〝S級モンスターが吐く炎以外では、決してダメージを食らわない〟という能力を!」

 ん?

「どうだ! 己の無力さに打ちひしがれろ! この場に居合わせた己の不運を呪え! お前らに出来ることなど何もない! 守り神とか言って崇めてる大聖樹によって、このまま全員殺されるんだよ!」

 もしかして今、〝S級モンスターが吐く炎〟って言った?

「さぁ、命乞いしろ! そうすれば、楽に殺してやギャアアアア! アチイイイイ!」

 ダークフォギーの身体が、炎に包まれる。

 そう。
 僕が召喚した、ファイアドラゴンの炎によって。

 レベルアップした際にディテドラと一緒に召喚出来るようになったドラゴンだ。

 もしSS級だったらどうしようと少し心配だったけど、どうやらS級モンスターだったらしい。

「ファアガアアア!」

 ファイドラが上から吐き続ける炎のドラゴンブレスによって、ダークフォギーは着実に燃やされていく。

「こんな……よく分からない生物によって……このダークフォギーがあああああ!」
「彼は、ファイアドラゴン。君が言うS級モンスターだ」
「世迷言を! そんな訳がな――ギャアアアア!」

 そのまま、ダークフォギーは小さくなっていって。

「ま、魔王さまああああああああああああああ!」

 燃え尽きた。

「見て! 大聖樹が!」

 暴走していた黒き大聖樹が、ピタリと動きを止めたかと思うと、幹と枝が茶色に、枝が緑色に戻った。

 こうして、僕らは何とか元凶を倒すことが出来た。

※―※―※

「村と皆の無事を祝って! 乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」

 夕食にはまだ少し早い時間帯に、族長さんの家にみんなが集まった。
 いくら族長さんの家が大きいとはいえ、村人百人全員がリビングに入るというのは不可能だ。

 そこで、窓を全部開けて、大きな庭や玄関にもテーブルや椅子を並べている。
 まるでお祭りみたいだ。

「さぁ、存分に食べて下され!」
「えっと、その……殴っちゃって、すいません……」
「何を言いますのじゃ! お主らがいなければ、儂らエルフは全滅しておったかもしれんのじゃ! 感謝こそすれ、非難するわけがなかろう!」

 意識を取り戻した族長さんの家で、僕らは夕べ以上の歓待を受けた。

 何人か怪我人はいたけど、死者はゼロ。
 怪我した人たちも、回復魔法を使えるエルフの人たちとマイカさんが一緒に治療したから、もう大丈夫。

 半壊してしまった家や、中には全壊してしまった家もあったけど、それすらも、エルフの人たちは魔法で直してしまった。

 物体修復魔法を使える人たちが何人かいたのだ。
 雷・氷・炎など、いくつもの属性の魔法を扱えるマイカさんだけど、物体修復魔法は使えないらしくて、悔しがっていた。

 複数の属性の魔法を使える時点で、十分すごいと思うんだけどなぁ。

 ちなみに、大聖樹の上空を飛んでいたのは、偶然居合わせたただのハーピーだったようだ。
 あの直後に、飛行魔法を使えるエルフの人たち数名が、近寄って風魔法で倒した。

 あと、族長さんが言うには、ある日、日課の月一散歩を行っていた時、森の中で不思議な装置を見つけたところ、スイッチがあり〝絶対に押しちゃダメ♪〟と書いてあったのだが、ついつい押してしまったら、黒い霧が噴出して身体を包み込み意識を失ったとのことで、「頑固ジジイからボケジジイにクラスチェンジしてるんじゃないよ!」と、エルアさんに突っ込まれていた。

 その話を聞いた後、マイカさんは真剣な表情でポツリと呟いた。

「乗っ取られて精神操作されたってことよね。精神操作されないためにはどうすれば良いか、または、されてしまった場合にどう対処するか。その策が要るわね……」

 そこに、怪しげな笑い声が響く。

「ヒッヒッヒ~」

 どうやらヴェルグさんは元からああいう感じで、怪しい笑い方をするのが癖になっていて、自分でも止められないみたいだ。

「リュウ、あんたはやっぱりすごい男だよ! 魔王直属の部下を倒しちまうんだからさ!」
「いえ、すごいのは僕じゃなくてドラゴンです!」
「ああ、あの炎吐いてた奴かい? そうだね、ドラゴンもすごかったよ!」
「ふっふっふ~。そうです、強くて格好良くてすごいんですよ、ドラゴンは!」

 胸を張る僕に、長テーブルを囲む大勢のエルフの人たちが話し掛けてくる。

「貴方、本当に格好良かったわ!」
「君、すごかったよ!」
「あんたのおかげだ!」
「助かったよ!」
「村を救ってくれてありがとう!」

 その度に僕は、「すごいのは、敵を倒したドラゴンです!」と訂正し、彼ら彼女らも、「そうか、あの生物はドラゴンと言うのか」「ドラゴンって、すごいんだな!」「強かったな、ドラゴン!」と、褒めてくれた。

 ああ! 嬉しい! 満たされる!
 この一年間、乾きっ放しだった心が、潤っていく!

 上を向き目を閉じた僕は、多幸感に身を震わせた。

「マイカもありがとよ。あんたのおかげで、大勢のエルフが守られたし、怪我人の治療までしてくれたもんな」
「良いのよ。私はただ自分が出来ることをしただけよ。あなたの斧捌きも見事だったわ。家族や仲間の人たちへの想いが溢れていたもの。絶対に守ってみせるって。救いたいって」
「想い……か」

 そうつぶやくと、エルアさんはコップの水に視線を落とし、穏やかな笑みを浮かべた。

「あたいはずっと、保守的な村と仲間たちが嫌だった。伝統なんかぶち壊したいって思ってた。それで、弓矢じゃなくて大斧を使うことを決意した。でも、気付けば毎日村のために魔法陣の監視をしてた。今回の事件が起きて、改めて気付いたよ」

 エルアさんは、マイカさんの顔を見て満面の笑みを浮かべる。

「あたいは、村も両親も仲間も大好きなんだって」
「エルア……」
「エルアさん……」

 胸が温かくなっていると、横からレンベスさんが口を出す。

「大好きだなんて、あんたにしてはやけに素直じゃない」
「いや、あんただけは例外だ」
「ちょっと! どういうことよそれ!?」

 ツインテールを振り乱して噛み付く彼女に、エルアさんが「そのままの意味さ」と、火に油を注ぐ。

 良いなぁ。
 仲良しだなぁ。
 幼馴染みって、素敵だなぁ。

「リュウ君も、お疲れさま! えっと、その……すごく格好良かったよ! リュウ君も、ドラゴンも!」
「ありがとうございます、マイカさん!」

 わいわいがやがやと盛り上がる人々の中で、僕らは密かにコップを合わせた。

※―※―※

 再び族長さんの家に泊めてもらって、翌日の朝。

「「お世話になりました!」」
「こちらこそ、我が村を救って頂き感謝しておるのじゃ。ありがとう」

 礼を言う僕たちに、杖を突いた族長さんが頭を下げる。

「モンスターに身体を乗っ取られたのは痛恨の極みじゃが、一つだけ良いことがあった。それは、柔軟な思考というものを手に入れられたことじゃ。まさか、モンスターに教えられるとは思わなかったがのう」

 以前の族長さんなら、部外者かつ人間である僕らを歓迎するなどということは、絶対になかったそうだ。

 二日目に関しては、僕らは村を救った恩人という事情もあったようだが、長年いがみ合っていたドワーフであるヴェルグさんのことも追い出そうとはせず、むしろ、これからは積極的にドワーフとも交流を持つ予定だそうだ。

「まぁ、何事も急激な変化は良くないからのう。まずは同じ森の民であるドワーフとの交流からかのう。申し訳ないが、人間はその後じゃ。基本的にエルフの森の位置は、秘密じゃしのう。無論、もし迷い人がおれば、それが人間だろうがドワーフだろうが獣人であろうが、助けるがのう」

 族長さんの言うことも一理ある。
 急に変えちゃうと、色々問題が起こったりもするからね。

 ちなみに、この世界には、猫獣人キャットヒューマン兎獣人ラビットヒューマン狼獣人ウルフヒューマンなどの獣人もいる。人間に比べると、人数は多くないけど。

「あのさ、リュウ」
「どうしましたか?」
「あ、えっと……そのだな……」

 いつもサバサバしているエルアさんにしては珍しく、何か言い辛そうに、もじもじとしている。

 そこに、レンベスさんがやって来て、これ見よがしに声を張り上げた。

「あたし、将来は世界中を旅したいと思ってるの! 色んな美味しいもの食べて、綺麗な景色を見て、刺激的な出会いを満喫するの! そのために今、お金を貯めてるのよ。コツコツとね」

 レンベスさんは得意顔で胸を張ると、エルアさんを見た。

「あたしは言ったわよ。自分の大切な想い。人生掛けてやりたいこと。あんたはどうすんの?」
「うるさい! 今言おうとしてたところだ!」
「ふ~ん。どうでも良いけど、あんまり格好悪いところ見せないでよね。昨日、あたしがあのモンスターを目の当たりにして絶望しちゃった時、あんたは全然諦めてなかったでしょ? あん時のあんたは、格好良かったわよ? 今と違って」
「だから、今言うって言ってんだろ! 黙って見てろ!」

 エルアさんは、「ふ~」と、息を一つすると、改めて僕を見た。

「リュウ。あんたのパーティーに、あたいを入れてくれないか?」

 驚いて目を丸くする。

「大歓迎ですよ! 嬉しいです! 良いですよね、マイカさん?」
「ええ、丁度前衛が欲しかったところよ。歓迎するわ」

 エルアさんが、緊張が解けたかのように脱力して、「良かった」と、小さな声で呟く。

「良かったわね、振られなくて。ああ、でも、もし今後振られても、あたしたちが受け入れてあげるから、いつでもこの村に戻って来なさい」
「だ・か・ら! 大きなお世話だって言ってんだよ!」

 二人が仲良く掛け合いをしていると、エルアさんの御両親が現れた。

「エルア。行くんだな」
「! 何でそれを……?」
「くすっ。親ですもの。そりゃ分かるわよ」
 
 彼らは、エルアさんが大きな決断をしようとしていることに、気付いていたようだ。

「でも、良いんですか、エルアさん? 僕ら、魔王を倒しに行くんですよ?」

 僕が何気無く発した言葉に、「え!?」と、隣のマイカさんが驚く。

「あれ? 勝手にマイカさんも一緒に戦ってくれるって思っちゃっていましたが、もしかして……違っていましたか?」
「も、勿論よ! そうじゃなくて、その……色々あったから、しばらくはそんな気になれないんじゃないかって思ってたの……」
「あ、それなら大丈夫です! もう元気になりましたから! マイカさんのおかげで! 僕は、僕のパーティーで、独自に魔王を倒そうって、そう思えるようになったんです! そしたら、ドラゴンがすごいって、もっと大勢の人たちに知ってもらえると思いますし!」
「リュウ君……!」

 眩しそうに、マイカさんが目を細める。

「ということで、それでも良いでしょうか、エルアさん?」
「ハッ! 良いね、魔王討伐! 上等じゃないか! うちの頑固ジジイの敵討ちも出来るしね!」
「儂、死んどらんのじゃが……」

 エルアさんは、両親に向かって威勢の良い声を上げる。

「あたいはリュウのパーティーに入る! で、魔王をぶっ倒して世界を救ってくる! もしかしたら、しばらくは帰れないかもしれない。けど、絶対に帰って来るから!」

 「「魔王……!」」と、絶句する両親だったが。

「ハッ! 心配しなくても大丈夫さ。夕べ聞いたんだが、昨日の戦闘を経て、リュウはレベル270になったらしいから」
「「270!?」」
「それに、何故かあたいも30近く上がって、レベル91になったしな。マイカはいくつになったんだっけ?」
「私は110になったわ」
「……レベル270に、91、そして110か……」

 先程とは違う驚嘆の表情を浮かべた両親は、顔を見合わせる。
 ちなみに、最強と謳われるS級モンスターと戦う際に最低限必要とされる目安が、レベル71以上だ。

 ドラゴンがすごいだけで僕自身はまだまだ弱いけど、レベルの高さで信用してもらえるなら、レベルアップして良かったって思う。

 まぁでも、どんな敵だろうが、最後はドラゴンが全部倒してくれるし!

「……分かった。行ってらっしゃい」
「……気を付けてね。無理しちゃダメよ。ちゃんとご飯食べてね。あと、睡眠も取るのよ」

 両親は、娘の決断を尊重し、覚悟を決めたようだ。

「だから、もう子どもじゃないって言ってんだろ?」

 苦笑するエルアさんを、母親が抱き締める。

「ずっと子どもよ。私たちの大切な、ね。じゃあ、行ってらっしゃい」
「……ああ、行って来るよ……!」

 エルアさんは、遠慮がちに抱き締め返した。

「リュウさん。マイカさん。お世話になります」
「うちの子を、どうか宜しくお願いします」

 頭を下げる御両親に、僕とマイカさんは「「はい!」」と、緊張した面持ちで返事をする。

 こうして僕たちに、新たな仲間が出来た。

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