10 / 44

10.「死罪を回避するために」

「し、死罪!? どうか、それだけは勘弁して下さ――うわぁ!」

 思わず手をどけた僕は、狼獣人女性の裸体が目に入り、慌てて再び顔を両手で隠す。

「伯爵家に不法侵入、浴場に押し入り、剰え裸の令嬢に迫っておきながら、許しを請うと? しかも平民が? それはどうかと思いますわ」
「うっ」

 そうやって並べ立てられると、犯罪のオンパレードだ。
 言葉を無くした僕は、せめてこれ以上話がややこしくならないように、手で顔を覆ったまま、「ラクドラ、戻って」と呟き、消えてもらった。

「勝手に上がり込んで、プライベート空間まで侵して、本当にごめんなさい……でも……」

 チラリと横を一瞥すると、頭を下げたマイカさんは、唇を噛み意を決し、顔を上げる。

「……でも、私たちは平民じゃないわ! ゆ、勇者パーティーの一員なんだから!」

 声を震わせるマイカさん。

 分かっているんだ。「一員なんだ」と、「一員だったんだ」には、大きな違いがあることを。

 真面目で誠実な彼女にとって、嘘をつくことがどれだけ辛いことか。

 それは全て、僕たち全員が生き延びるため。

 そこまでして……!
 マイカさん……!

 胸が締め付けられる。

「そうでしたの。確かに、よく見ると貴方方御二人は、御披露目会で見た顔ですわね。確か、リュウさまとマイカさま」

 異世界召喚されてすぐに、僕たちは王城のバルコニーで勇者パーティーの顔見せを行った。

 と言っても、女王さまが一人一人をざっと紹介してお仕舞い、というものだったけど。

 市民の人たちからは遠くてあんまり見えなかったかもしれないけど、貴族の人たちは僕らの近くにいたから、顔を覚えていたんだろう。

 あ、ということは、ここはロドリアス王国で、恐らく王都内だ。

「勇者パーティーの一員……。世界を救うために召喚されし者たちならば、確かに特別な地位にありますわね。頭も下げて頂きましたし、ここは特別に恩赦を」

 よ、良かった!
 何とか助かった!

 僕は安堵の溜息を漏らす。

「ありがとうございま――」
「と言いたいところですが」
「!?」
「残念ながら、そういう訳にはいきませんわね」
「な、なんでですか!? 謝罪が足りないなら、いくらでも謝ります! だから――」
「だって、貴方方、もう勇者パーティーじゃないですわよね?」
「! な、なんでそれを!?」

 彼女は、艶のある声で、然も当然のように答える。

わたくしの情報網を侮って頂いては困りますわ」

 甘かった……

 女性が脚を組み替えたのか、湯に波紋が起こり、僕のズボンを優しく撫でる。

「ど、どうすれば許してもらえますか?」
「そうですわね……」

 少し思案した女性は、「良いことを思い付きましたわ」と声を弾ませた。

「リュウさま。今晩、貴方には、私の寝屋に来て頂き、そこで一晩、〝罰〟を受けて頂きます。そうすれば、全員無事に解放して差し上げますわ」
「え!?」

 驚きに目を丸くする中、マイカさんが声を上げる。

「そ、そんなの駄目よ!」
「では、死罪ですわね。無論、三人とも」
「くっ!」

 僕は思わず手を下ろしてしまったけど、狼獣人女性は、裸を見られても全く恥じらう様子がない。
 むしろ、この状況を楽しんでいるようにすら見える。

「分かりました。僕が〝罰〟を受けます。それで、みんなの命が救われるなら」
「リュウ君!? 駄目よ!」
「さっき、マイカさんが嘘をついてまで僕らを助けようとしてくれた時、胸が熱くなったんです。だから、僕も! ただ僕が一晩〝罰〟を受けるだけで許されるなら、儲け物です」
「で、でも!」
「大丈夫です。どれだけ殴られても蹴られても、絶対に耐えてみせます!」
「そうじゃなくて……多分、彼女が狙ってるのは――」

 え? そうじゃない?

 首を傾げる僕に、狼獣人女性は、「交渉成立ですわね」と手を叩いた。

「そうそう、自己紹介が遅くなりましたわね。私、ウルムル・フォン・ウォーレローズと申しますわ。ウォーレローズ家の一人娘ですの。どうぞ、ウルムルとお呼びくださいまし」

 立ち上がったウルムルさんは、髪の毛と尻尾で辛うじて大事な部分を隠したまま、まるで透明なドレスがあるかのように、カーテシーの仕草で挨拶をした。

「今晩が楽しみですわ、リュウさま。一晩。そう、一晩あれば……〝十分〟ですもの」

 舌舐めずりするウルムルさんに、「くっ!」と、何故かマイカさんが顔を顰め、「こりゃ大変なことになっちまったねぇ……」と、エルアさんが、それまで戦う意思は無いと下ろしていた大斧を持ち上げて肩に担ぎ直し、苦笑いする。

「お嬢さま! どうかなさいましたか!? 話し声が聞こえた気がしましたが……」
「あら、いけない」

 廊下から、侍女らしき人の声が聞こえてきた。

 ウルムルさんは、浴槽から出ると、籠の中に入っていたバスタオルで身体をサッと拭い、バスローブを身にまといながら、扉へと近付いて行く。

「実は、のぼせて鼻血が出てしまいまして」
「まぁ! それは大変です! 今すぐ治療を――」
「いえ、中には入らないで下さいまし」
「何故ですか、お嬢さま!?」
「鼻血を垂らしたあられもない姿を他者に見せるなど、私には耐えられませんわ。万が一そんなことをしたら、恥辱のあまり、舌を噛み切ってこの命を絶ってしまうかもしれませんわ……」
「い、いけません、お嬢さま! どうかそれだけは!」
「では、着替えも自分で出来ますし、部屋へも一人で向かいますので、貴方は下がって下さい。今の私の姿を、決して見ることのないように」
「……わ、分かりました……」

 一糸纏わぬ姿を見られても眉一つ動かさなかった彼女がそんなことで動じる訳はなく、そもそも鼻血なんて出ていない。

 いけしゃあしゃあと嘘をついて……すごいな……同じ女性でも、こうも違うのか……

 足音が遠ざかった後、扉をそっと開けて廊下の様子を見たウルムルさんは、廊下へと出て、彼女の後を追って来た僕らを振り返る。

「まだお昼前ですし、夜までは大分時間がありますが……そうですわね、では、少し早いですが、リュウさまは、このまま私の寝室へとおいで下さいまし」
「分かりました!」
「ふふっ。……そうそう、その前に。忘れておりましたわ。まずは他の皆さまを出口へとご案内いたしますわね。家の者に見付からないようにいたしますので、御安心下さいまし」

 マイカさんが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、エルアさんは再度苦笑する。

 ちなみに、僕たちは、ウルムルさんと侍女の人が話している間に、マイカさんが発動した『ウォームエア』によって身に付けているものを全て乾かしてもらった。

 深紅の絨毯が敷き詰められた、正に豪華絢爛と形容すべき廊下の突き当たりまで行き、扉を開けると、そこは屋外で、小さな螺旋階段があった。

「このルートなら、誰にも見られずに敷地外に出られますわ」

 そう言って先導するウルムルさんだったが、ふと思い出したかのように呟く。

「もしこの脱出経路に一つだけ懸念があるとすれば……あの方に感知されないだろうか、ということですわ。何せ、恐ろしく鼻が利く方ですので……無事出口まで到着出来ますように、祈っておいて下さいまし」
「あの方……?」

 嫌な予感しかしないんだけど……

 螺旋階段を下り、地上へと辿り着いた僕たちを待っていたのは。

「賊どもめが。侍従の目は誤魔化せても、我の鼻は誤魔化せんぞ」
「御父様!」

 武装した護衛二人を引き連れ、巨大な金属製棍棒を持った、筋骨隆々の狼獣人男性だった。

※―※―※

 その後。
 紆余曲折を経て、僕は。

「では、行くぞ」

 ウルムルさんの父親であるゼラグドさんと、一騎討ちを行うことになった。

あなたにおすすめの小説

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった

海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。 ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。 そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。 主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。 ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。 それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。 ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。