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30.「この異世界にドラゴンが存在しない理由」

「どういうことですか!?」

 ドラゴンの〝存在〟と〝概念〟が消されたと言われても、正直訳が分からない。

 教皇さんは、「そ、そもそも」と、説明を始める。

「ド、ドラゴンは、貴方が〝召喚〟している訳で、先程見させて頂いたように、戦闘能力も飛び抜けており、〝モンスター〟であると考えるのが普通です。で、ですが、私には、彼らを〝モンスター〟と考えることが出来ない。か、〝変わった生き物〟であるとしか思えないのです」
「!」
「わ、私にとってはそれが〝普通〟なのですが、よく考えたらおかしくありませんか?」

 思い返してみると、今まで出会った人たちは誰も、ドラゴンをモンスターだと言ってくれた人はいなかった。

 って、それに気付いたこの人本当にすごいな!

 だって、頑張って客観的に思考して、日常の中に溶け込み〝当たり前〟だったその〝普通〟を〝おかしいんじゃないか〟って疑問に思ったってことだよね? 
 僕だったら絶対に気付かない自信がある!

「みんなも、ドラゴンをモンスターだとは思えないですか?」
「……ええ、ごめんなさい。リュウ君がモンスターだって言っているから、そう思いたいのだけど、どうしても思えなくて……私の場合は、元々いた世界にドラゴンという存在が無かったことに加えて、この異世界の目に見えない影響もあるのかもしれないわ」
「ハッ! あたいもだ。でもまぁ、別にドラゴンはドラゴンだから、モンスターだと思えなくても問題があるとは思わないけどね」
「そういう問題ではありませんわ。誰かによって意図的にそう仕向けられている、ということが問題なのですわ。リュウさまの言葉を全て受け入れたいのにそこだけは受け入れられなくて、私は不思議でしたもの」

 マイカさん、エルアさん、そしてウルムルさんも、どうやらそうだったみたいだ。

 世界全体に影響を与える。
 そんなことが出来る人って……

「もしかして、魔王のせいなんですか?」
「い、いえ。その逆です。せ、千年前に、勇者がこのような事態を引き起こしたのです」
「!?」

 教皇さんは、〝読み取る君〟で読み取った歴史を話し始めた。

※―※―※

 千年前。

 魔王が、圧倒的な戦闘力を持つモンスター軍団を率いて、人類を滅ぼしかけた。
 それまでも、勇者は三十年ごとに現れては戦いを挑んではいたのだが、全く歯が立たなかったのだ。

 と、そこに、とある勇者が現れた。
 彼は、〝歴代最弱の勇者〟と呼ばれた。

 身体能力が低く剣技も習得出来ず、攻撃魔法も一切扱えなかった。
 
 だが、彼には、女神から授かった固有スキルがあった。
 それは〝封印〟の能力だった。

 ただ、魔王の力はあまりにも強大で、その全てを封印することは出来なかった。

 そこで、力の〝一部のみ〟を封印することにした。
 命を賭して彼が封じたのは、〝何か〟と、その〝何か〟の〝概念〟だった。

 己の命を犠牲にして成し遂げたその〝封印〟によって、モンスター軍団の勢いは目に見えて弱まった。

 後世になって〝最賢の勇者〟と称された彼が死んだ三十年後。
 今度は、〝歴代最強の勇者〟が登場した。

 彼は、その圧倒的な力で、弱体化したモンスター軍団を蹴散らし、魔王に勝利した。

 しかし、彼を以ってしても魔王を完全に倒すことは出来ず、その結果、千年後に復活することとなってしまった。

 ちなみに、〝最賢の勇者〟が封じたのは〝何か〟だけではなく、〝ダンジョン〟に対しても効力を発揮したらしい。

 〝ダンジョン〟から出没するモンスターの数を制限したことで、同時に万の大軍が襲い掛かるというような事態は回避出来るようになった。

 なお、強いモンスターであればあるほどダンジョンから出られる数は少なくなり、弱いモンスターならば、比較的多く出てこられるようだ。

※―※―※

「その〝何か〟がドラゴンだった、ということですか?」
「え、ええ。そ、そう考えれば、魔王軍にドラゴンがいないことと、わ、私たちがドラゴンをモンスターと認識出来ないことの説明がつきます」

 そっか、だからだったんだ。

 そう言えば、今まで二個破壊した漆黒魔石は、ドラゴンの形をしていたけど……

 あれって、どういうことなんだろう?

 もしかして、魔王がドラゴンのことを思い出し掛けている?
 そして、「昔はドラゴンがいたのに、今はいないから残念だ! 悔しい!」って思いながら、あの邪悪な感じがする魔石を生み出したとか?

「きょーこーさま、みてー! ふぁいあー!」
「お、おお! す、すごいですね! ビ、ビックリです!」
「えへへ~♪」

 と、そこに、パンを食べ終えたローザちゃんが近付いて来て、魔法の杖を一生懸命操り、小さな炎を生み出した。僕が攻撃しようとした際に、教皇さんを庇った女の子だ。

 見ると、子どもたちは皆、食事を終えている。
 休憩は終わりだな。

 まだよく分からないことはあるけど、今はこの子たちの方に集中しないと。

「じゃあ、トレーニング再開するわよ。まずは、おさらいから。武器や魔法を使う時に、注意すべきことは何だったかしら?」
「ひとにたいしてつかわないこと!」
「正解! 良く出来ました!」
「むふ~♪」

 初対面の時、教皇さんを守ろうと一番最初に僕をポカポカ叩き始めたマイク君が、ドヤ顔で答える。

「武器や魔法を使う時は、人に対して使わないこと! 約束出来る人?」
「「「「「はーい!」」」」」
「良い返事ね」

 子どもたちが元気良く手を上げて、マイカさんが笑みを浮かべる。

 とても素敵な光景だ。
 微笑ましいなぁ。

「マイカさん、なんか保育士さんとか似合いそうですよね」
「そ、そう?」
「はい! あと、子どもたちへの接し方とか見ていると、将来良いお母さんになりそうだなって」
「! ……そうね。もし、素敵な旦那さんと結婚して出来た子どもだったら、きっと可愛くて溺愛しちゃうかもしれないわね……」

 ん?
 なんか、マイカさんが頬を朱に染めながら、じっと見つめてくる気がする。
 暑いのかな? まぁ、ロドリアス王国と同じくらいの気温だけど、ここは湿度が少し高いしね。

「あら? それって、具体的に誰との子どもを想像したか、教えて下さる?」
「! べ、別に、だ、誰も想像してないわよ!」
「くすっ。本当かしら?」

 おかしそうに口許に手を当てるウルムルさんに、マイカさんが顔を真っ赤にする。

 本当、仲良しっていうのは良いよね。

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