絶望の魔王

たじ

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あれから、ラボスは、デル・バンバの遺跡から、飛んできて、聖都ラーヌから少し離れた上空にいた。

「…………なるほど。ラーヌの周囲には、結界が起動している、か……。…………でも、僕は一応、魔導騎士団副団長だったから、あれを部分的に解除する方法を知っているんだよ。」

そう言うと、ラボスは、自分の体に結界を通り抜けるための呪文をかけた。

     ◆  ◆  ◆  ◆


その頃、厳戒体制を敷いている魔術研究所ではーー。

入り口近くに陣取った、魔術研究所研究員達と応援の魔導騎士団とが、その研究施設を守るべく、研究所自体にも、魔法で結界を張っていた。

絶対防御アルテマ・シールド!!」

何人かの研究員達と魔導騎士達とが、一斉に魔法をかける。すると、魔術研究所の周りに、白く輝く厚みのある魔法の壁が出現した。

「……ホウ。よし!これで、いくら強力なモンスター達が来ようとも、なんとかなるだろう」

先程まで、ラーヌ近くの神殿跡地にて、地面に魔方陣を作成していた一団のリーダー格である、年嵩の男ーーゼットンーーが、これで一安心といった感じでため息をついてから言った。

「ゼットン主任!こちらに向かって、何者かが、凄いスピードで近づいてきます!!」

それまで、魔力探知機をじっと見つめていた、若い研究員がゼットンに報告する。

「…………そうか。こちらにも、やはり、来るか…………。全員、来襲に備えろっ!!」

そう言うと、ゼットンは、その場にいた数十人を指揮して、攻撃役と補助回復役とに分け、魔術研究所の入り口付近の守りをしっかりと固めた。

「………………来ましたっ!!」

魔力探知機を持った研究員が、叫ぶ。

………………ビューーーーオオオオオォォォ!!

何者かが、上空から魔術研究所入り口に飛んでくる。続いて物凄い風圧に、魔術研究所の周囲を砂埃が巻き上がった。ブワアアアアッッッッッ!!

「…………クッッ!!」

激しい砂埃に、一団の先頭にいたゼットンが、堪らず目を閉じて呻く。

…………………サアアアアアアーーーー。


…………やがて、舞い上がった砂埃により隠された何者かの姿が、少しずつ見え始めた。

「………………まさかっ!!…………お前はっ!!」

驚いて言った、ゼットンのその言葉に釣られて、それまで袖で顔を覆っていた、その場の全員が、正面を向き侵入者の姿を認めた。

「…………ラボス副団長…………」

「バカっっ!!元だろ!元っ!!」

ゼットンの後ろで控えていた魔導騎士達が、にわかにざわめき出した。


「………………しばらく見ない内に、貴様っ、魔王軍に下ったかっっ!!」

ゼットンは、そう吐き捨てて、両目に力を込めて、魔導騎士団元副団長であった、ラボス・ドゥール・クリスティを睨み付けた。

今や、遺跡のオーブの力で異形の姿となった、ラボスは、苦笑しながら尚も睨みを利かせる、ゼットンに返した。

「…………ふう。相変わらず、あなたは、サーシャとオゥル殿の謀略の手先なんですね。ゼットン」

ゼットンの後ろで、騎士達と研究員達とが、再びざわめき出した。

「……一体、どういうことだ?」

「……ゼットン主任が、謀略の手先………………?」

「どうせ、口から出任せだっ!!こいつは、虚栄心のために、俺たちの仲間が死んでゆくのを分かっていて、ホワイトラグーンの運転を強行しやがった糞野郎だっ!!」

「そうだ!そうだ!」

「それに、その姿!!きっと、こいつは、魔王軍に寝返りやがったんだっ!!」

ラボスは、フフフ、とどこか悲しそうに笑うと、言った。

「あなた達の仲間に拐われ、ここに幽閉されている僕の友人を返してもらいますよっ!!」

次の瞬間、ラボスの鋭い爪の生えた両手が閃き、目には見えない風の刃が、入り口を固めている一団へと襲いかかった。



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