26 / 47
26 サビマナの帰還
しおりを挟む
メイドがお茶を淹れ、レンエールは執務机からソファへ移動した。その際、立っていたネイベット侯爵も誘う。
メイドは二人分のお茶とお茶菓子をセットすると部屋から下がった。主人のことをよく理解しているできたメイドである。
「明日にでも領地の屋敷にも人を向かわせてくれ」
「そちらは大丈夫です」
「そうなのか?」
「はい。新たに雇われた執事は私の手の者なので、家財の売買はさせません」
「…………よく採用されたな」
「何人かを介して執事の方に紹介させましたので」
「身分も確認せずに採用されたのか?」
「そのようです。一応、准男爵の次男という仮の身分を与えておきましたが、問い合わせはなかったと聞いております」
「人事までいい加減であるとは……。よく今まで領地の経営などできたものだな」
「前男爵はなかなかの手腕だったようです。その方も五年前に亡くなり、そこからは年々納税も減っているそうです」
「それも最近雇われた執事からの報告か?」
納税額がわかるのは政務局だ。王宮総務局が知るはずはない。
「はい。帳簿など隠すつもりもないようです」
「なるほどな。誤魔化さないだけましか」
「それはありますが、このままでは領民は守れません。それは貴族としていかがなものかと……」
「そうだな……。子息は?」
「男爵と血縁ではありますが、現夫人の子で、三年前まで平民です。領民経営など学んではおりません。文字の読み書きも覚束ないかと」
「「はぁ……」」
レンエールとネイベット侯爵は自分を落ち着かせるかのようにお茶菓子を頬張った。
「とりあえず、王都の屋敷売却で父上から恩情をいただければよいが……」
「そうですね。隠し通せるとは考えにくいですからね」
レンエールは決してボーラン男爵一家を憎くて軟禁の上、屋敷売却を考えたわけではない。少しでも咎を少なくしてやりたいとの想いからだ。ネイベット侯爵もレンエールの想いをわかっていて、ボーラン男爵への演技にもその後の処理にも付き合っている。
ボーラン男爵一家の行いは無知故にやってしまったことであるが、貴族としてはそれが理由でも許されるわけではない。そして、政治の中枢にいる者として、それを見逃すわけにもいかない。
〰️ 〰️ 〰️
ボーラン男爵一家が軟禁された翌日、離宮から早馬が来た。
レンエールがいないことにサビマナが癇癪を起こし、とうとう抑えきれなくなったので王都へ帰ってくるという連絡だった。
レンエールもネイベット侯爵もそろそろだろうと覚悟していたことだったので、すんなりと受け入れられた。
しかし、さらに翌日にもたらされた内容にはさすがのレンエールも青ざめた。
サビマナたちは王都までの道で、王都からほど近い町で昼休憩をしていた。その時、ある男がサビマナを攫おうとして護衛に捕縛された。
その男は、レンエールのクラスメートで、レンエールの側近候補と言われていた者であったのだ。
その男は王城へ来た時には後ろ手に縛られていたが、レンエールによって身柄の確認をされ客室に軟禁されることになった。
レンエールは随伴していた護衛騎士やメイドたちに話を聞いた後、その男を自身の執務室へ呼んだ。
その男がレンエールの執務室へ入ってくるとソファにいたサビマナが立ち上がりその男に駆け寄った。
「ゾフィ! 大丈夫?」
ゾフキロ・ムアコル。ムアコル侯爵家三男。ムアコル侯爵は騎士団の団長である。赤みの入った茶髪はレンエールが知るより短くなっていた。それにいつもなら凛々しい吊り目がちな赤み入った黒目は少し虚ろだ。
「ゾフィ。そこに座ってくれ」
レンエールはソファに座るよう指示した。サビマナとゾフキロはソファまで来ると二人掛けに並んで座った。レンエールは一人掛けのソファに座っている。
しかし、レンエールはそれを咎めたりしなかった。
「ゾフィ。久しぶりだな。元気だったか?」
今までと同じように話を始めたレンエールに対してゾフキロは驚きを隠せなかった。
メイドは二人分のお茶とお茶菓子をセットすると部屋から下がった。主人のことをよく理解しているできたメイドである。
「明日にでも領地の屋敷にも人を向かわせてくれ」
「そちらは大丈夫です」
「そうなのか?」
「はい。新たに雇われた執事は私の手の者なので、家財の売買はさせません」
「…………よく採用されたな」
「何人かを介して執事の方に紹介させましたので」
「身分も確認せずに採用されたのか?」
「そのようです。一応、准男爵の次男という仮の身分を与えておきましたが、問い合わせはなかったと聞いております」
「人事までいい加減であるとは……。よく今まで領地の経営などできたものだな」
「前男爵はなかなかの手腕だったようです。その方も五年前に亡くなり、そこからは年々納税も減っているそうです」
「それも最近雇われた執事からの報告か?」
納税額がわかるのは政務局だ。王宮総務局が知るはずはない。
「はい。帳簿など隠すつもりもないようです」
「なるほどな。誤魔化さないだけましか」
「それはありますが、このままでは領民は守れません。それは貴族としていかがなものかと……」
「そうだな……。子息は?」
「男爵と血縁ではありますが、現夫人の子で、三年前まで平民です。領民経営など学んではおりません。文字の読み書きも覚束ないかと」
「「はぁ……」」
レンエールとネイベット侯爵は自分を落ち着かせるかのようにお茶菓子を頬張った。
「とりあえず、王都の屋敷売却で父上から恩情をいただければよいが……」
「そうですね。隠し通せるとは考えにくいですからね」
レンエールは決してボーラン男爵一家を憎くて軟禁の上、屋敷売却を考えたわけではない。少しでも咎を少なくしてやりたいとの想いからだ。ネイベット侯爵もレンエールの想いをわかっていて、ボーラン男爵への演技にもその後の処理にも付き合っている。
ボーラン男爵一家の行いは無知故にやってしまったことであるが、貴族としてはそれが理由でも許されるわけではない。そして、政治の中枢にいる者として、それを見逃すわけにもいかない。
〰️ 〰️ 〰️
ボーラン男爵一家が軟禁された翌日、離宮から早馬が来た。
レンエールがいないことにサビマナが癇癪を起こし、とうとう抑えきれなくなったので王都へ帰ってくるという連絡だった。
レンエールもネイベット侯爵もそろそろだろうと覚悟していたことだったので、すんなりと受け入れられた。
しかし、さらに翌日にもたらされた内容にはさすがのレンエールも青ざめた。
サビマナたちは王都までの道で、王都からほど近い町で昼休憩をしていた。その時、ある男がサビマナを攫おうとして護衛に捕縛された。
その男は、レンエールのクラスメートで、レンエールの側近候補と言われていた者であったのだ。
その男は王城へ来た時には後ろ手に縛られていたが、レンエールによって身柄の確認をされ客室に軟禁されることになった。
レンエールは随伴していた護衛騎士やメイドたちに話を聞いた後、その男を自身の執務室へ呼んだ。
その男がレンエールの執務室へ入ってくるとソファにいたサビマナが立ち上がりその男に駆け寄った。
「ゾフィ! 大丈夫?」
ゾフキロ・ムアコル。ムアコル侯爵家三男。ムアコル侯爵は騎士団の団長である。赤みの入った茶髪はレンエールが知るより短くなっていた。それにいつもなら凛々しい吊り目がちな赤み入った黒目は少し虚ろだ。
「ゾフィ。そこに座ってくれ」
レンエールはソファに座るよう指示した。サビマナとゾフキロはソファまで来ると二人掛けに並んで座った。レンエールは一人掛けのソファに座っている。
しかし、レンエールはそれを咎めたりしなかった。
「ゾフィ。久しぶりだな。元気だったか?」
今までと同じように話を始めたレンエールに対してゾフキロは驚きを隠せなかった。
70
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします
タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。
悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
お言葉ですが今さらです
MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。
次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。
しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。
アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。
失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。
そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。
お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。
内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。
他社サイト様投稿済み。
母は何処? 父はだぁれ?
穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。
産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。
妹も、実妹なのか不明だ。
そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。
父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。
母は、どこへ行ってしまったんだろう!
というところからスタートする、
さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。
変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、
家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。
意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。
前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。
もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。
単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。
また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。
「小説家になろう」で連載していたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる