【完結】王子と結婚するには本人も家族も覚悟が必要です

宇水涼麻

文字の大きさ
38 / 47

38 ノマーリンの恋

しおりを挟む
「友愛は……。無理だよ。だって、俺はノマーリンのような素晴らしい女性をただの友だちだとは思うことはできない。
慈愛も無理かな……」

「そうですの?」

「俺はノマーリンを尊敬している。今や崇拝していると言っても過言ではない。
俺がノマーリンに慈愛の念を抱くなど、おこがましいにもほどがある」

「わたくしは神でも聖母でもございませんわよ」

 ノマーリンはクスクスと笑っている。子供のイタズラを笑って見守っているかのようだ。

「そうかな? 今の笑顔はどう見ても聖母の慈愛の微笑みだよ」

「からかわないでくださいませ」

 ノマーリンが再び薄く頬を染めた。

「自分ではわからないのかもしれないね。俺は慈愛の女神を敬愛しているんだ」

 レンエールは熱い瞳でノマーリンを見た。しかし、はたと我に返り、自分の図々しさを反省した。

「そ、そのぉ……親愛と信愛はずっとあるよ。
俺は婚約破棄は望んでいなかったし、びっくりしたし、寂しかった……。
図々しくてごめん」

 レンエールは婚約破棄を言われた直後の違和感が寂しさや喪失感であることを実感したのはノマーリンへの敬愛を自覚した時だった。
 レンエールは心の何処かで『何をしてもノマーリンはレンエールから離れない』と信愛していた。捻れた信愛だが。

「だからかな。婚約破棄はしていなかったと言われて、ホッとしている。嬉しくて嬉しくて、ノマーリンへの信愛の気持ちがポカポカしている。
本当に勝手だよね。自分が他の女性に現を抜かしたくせに……」

 レンエールは苦笑いした。
 ノマーリンはスッと立ち上がりレンエールの隣に座った。

「婚約を解消したという建前を知らない者でも、殿下とサビマナ様の学園での行為を知っている者は多いです。その者たちの信頼を得ることはとても大変ですよ。お覚悟はございますか?」

「ああ。まずは恥も外聞もなく教えを請うていく。自分でできることや判断することを増やしていく。その過程で信頼されるように頑張るよ」

 ノマーリンは腕を広げてレンエールの頭を胸に抱いた。レンエールは慣れた様子でノマーリンに甘えた。
 学園に入学する前は、レンエールが疲れたと言うとノマーリンはこうして癒やして励ましていたのだ。

「エル。おかえりなさい」

「ただいま。リン……」

 レンエールはノマーリンの腰に手を回した。

 穏やかな時間が流れた。

「ねぇ、リン。『愛』の話の続きなんだけどね」

「はい。何ですか?」

「『寵愛』は受けてもらえるだろうか?」

 レンエールが頬を染めて上目遣いでノマーリンの顔を見た。ノマーリンはびっくりした後、優しげに笑った。

「それはお預けです。わたくしはまだエルへの信愛を戻しておりませんもの」

 レンエールは視線を戻してノマーリンの腰を抱く腕を少しだけ強くした。

「そうだね。まずはそれを取り戻すように努力するよ。リン。覚悟しておいてね」

「うふふ。わかりましたわ。
それにしても『恋』とは素敵なもののようですわね。わたくしもしてみたいですわ」 

 レンエールが慌てて体を起こしてノマーリンと目を合わせて首を左右にブンブンと振る。

「そっ! それはダメだっ!」

 ノマーリンはレンエールのあまりの必死さに目をしばたかせた。

「あ、その、いや……。自分を棚に上げて……。ごめん。
でも……でもね……。俺に……俺に恋をしてもらえるように頑張るから。リンが恋するような男に、俺がなるから……」

 レンエールの縋るような瞳にノマーリンは慈母の微笑みで答えた。

「まあ。それは楽しみですわ」


〰️ 〰️ 〰️
〰️ 〰️ 〰️

明日よりオヤジたち目線となります。
完結までもう少し!
今後ともよろしくお願いします。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

処理中です...