【完結90万pt感謝】大募集! 王太子妃候補! 貴女が未来の国母かもしれないっ!

宇水涼麻

文字の大きさ
37 / 49
第二章 王子の葛藤

6 仕事

しおりを挟む
 私ジェード・ルーデンは伯爵家の三男だ。現在クレアンナート公爵家のご領主様であるメーデル様より秘書官長という役職をいただいている。初めは私だけが秘書官だったので『長』の意味はなかった。クレアンナート公爵家が立ち上がりすでに七年以上経ち、今では部門ごとに秘書を置いているのでその総括役を担っている。それ以外の仕事が主な気もするが。

〰️ 

 私が初めてご領主様を見たのは王城の廊下であった。当時のご領主様はメーデル王太子殿下と呼ばれていた。確か十三歳ほど。私も学園を卒業して二年程で二十歳、王城税務局の職員だった。

 メーデル王太子殿下は王城では終始苛立っているという噂を聞いていた。確かにその日も眉間に皺を寄せて歩いていた。
 王城王宮は王族にとっては、いる者すべてが部下だ。ニヤニヤしろとは言わないが、不機嫌を撒き散らす上司はよろしくない。

「何だ? 次―王太子―はダメボンか?」

 隣を歩く学園からの同級生で王宮管理局に勤める友人に聞いた。私も若かったための言葉だが、それでも濁した。濁す言い方は致し方ない。

「いや、大変優秀なお方だよ。ただなぁ……」

「なんだよ?」

 歯切れの悪い友人に先を促した。

「お相手―婚約者ラビオナ様―が優秀すぎてな……。プレッシャーに感じているように見受けられる」

「次なのだから、そんなものは当然だと思うが?」

「そうなのだがな。若いうちは反発するものだろう?
今は茶会などでしか接点をお持ちでないからな。あと三年もして学園へ行き、お相手の人となりを判ればまた変わるかもしれないしな」

 友人はそれを期待しているような口ぶりだった。

〰️ 〰️ 〰️


 それから私はすぐに王家直轄領の管理人となった。王都からは馬車で四日ほど離れた領地で、王家直轄領地だけあって寂れてはいないが、発展しているわけでもない。
 私は税務局で働いていたので、税務系は調査も改善もできるが、直接的な権利も責任もないので領民の意見を耳にしても王宮管理局に問い合わせねば何も進められない。管理人と領主は似て非なりなのだ。

 それを実感する事案がすぐに起きた。流行り病が蔓延したのだ。陛下から直接指示を受けられる王宮管理局から人を派遣してもらい対応し、半年かけてなんとか復興へ歩みだせた。
 だが、人を派遣してもらわなければ対応できないことで十日ほどロスした。初期の十日は大きい。死亡人数も街の衰退ももっと小さく済んだに違いない。
 それを機に管理人の権利は多少増えたが、あくまでも目的は領地の維持である。

〰️ 

 復興が進み安定して領地維持ができてきた頃、王宮管理局の友人から手紙が届いた。
 そこには王城で行われている『メーデル王子殿下の婚約者候補勉強会』なるものことが書かれていた。

 私には関係のない話だと読み進めると、最後に眉を顰めたくなることが記載されている。

『とにかく一度王都に戻り、様子を見に来てくれ』

 私に関係するとは到底思えない内容の手紙に書かれた最後の一言に訝しむも、友人が戯れにこのようなことを書くとは思えず、日程を調整して王都へ向かうことにした。

 王都に入ると学園へ向かいメーデル王子殿下の様子を観察した。それから、王城へと赴く。
 王城に到着すると友人が迎えに来てまっすぐに王妃陛下の執務室へ通された。ここでは税務局員でしかなかった俺はとにかく緊張した。

「貴方がジェードね? クレアンナート地区の安定に貢献してくれてありがとう。とても助かっているわ」

「お褒めに預かり光栄にございます。王妃陛下」

「今日来てもらったのは、メーデルのことなの。様子は見てきてくれた?」

「大変真面目に勉強されておりました。学園長も成績優秀だとおっしゃっておりましたが?」

「そうなのよ。だからこそ、人間性が最低なことを見逃していたのよね。
国王陛下もわたくしも忙しいことを理由にしてはいけないんだけど」

 王妃陛下は苦悶の表情を俺に見せる。優雅に微笑む王妃陛下しか知らなかった俺はとまどった。

「失礼ですが、どこがどのように……その……」

「人間性が最低! ね」

 俺の口から王子への評価でそれを口にできるわけがない。王妃陛下の冗談だろうと思われる意地悪に苦笑いを浮かべた。

「一言で言えば、自己中心的で視野が狭くて自惚れ屋で自慢屋で努力を甘く見ていて快楽に逃げやすくて、それなのに半端に優秀。って感じかしら」     

 全く一言ではなかったが、王妃陛下が悩んでいらっしゃることは伝わった。

「だからね。その辺の矯正を貴方に任せたいと思っているの」

「は? 私が……ですか?」

「彼の推薦よ」

 王妃陛下は俺の友人を示す。友人は今まで見たことがないような笑顔を返してきた。

『嵌められた……。断ることなどできるわけがない……』

 俺は王妃陛下の御前であるのでなんとか顔を引きつらせることは我慢できたと思う。

「騎士団に無理矢理入れることも考えたのだけど、騎士団ではみなメーデルを知っているでしょう。
メーデルのことを誰も知らない場所へ放り込んでほしいの」

 王妃陛下はとても恐ろしいことを笑顔で話している。逡巡する俺を急かすことなく待ってくれた。
しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、そして政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に行動する勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、そして試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私が、 魔王討伐の旅路の中で、“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※「小説家になろう」にも掲載。(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

処理中です...