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 タァサス湖の畔のクリケット球場の利用許可はすぐに降りて、メッセスの差配で庭師が数名送られた。

 そして、二週間後の週末の今日、俺とニーデズはその球場に来ている。

 俺の従者であるメッセスとウルトは当然いるわけだけど、木工職人テレストと革職人サマラも同行している。
 二人は俺たちが遊ぶ状況、見たことがない棒で小さなボールを飛ばすことが容易には想像できないと言う。
 見てもらった方がいい物を作って貰えそうなのでよろこんで受け入れた。

 サマラは重さが違うというボールを三種類各十個用意してくれた。

 テレストにおいては、なんと十本のドライバーを作ってくれていた。

「フユルーシ様。なぜこの棒をドライバーと申すのですか?」

 メッセスは相変わらずこまめにメモを取りながら聞いてきた。

「んー、なんとなく。ボールを遠くに運んでくれる棒だからかな」

 この言い訳はニーデズと決めておいたものだ。この世界にない言葉、ゴルフ用語がついつい口に出てしまう。ワードが突然に浮かんでくるので考える前に口を付く。

 なるほどと呟きながらメモを取るメッセス。とても真面目な男だ。

 ニーデズと話し合い、この世界に浸透していないゴルフ用語はなるべく使わないことにしていた。このドライバーのように意味を一つ一つ聞かれてもわからないものが多いからだ。
 ドライバーという言葉はテレストの店で多様していたようで、テレストに朝一で『お気に召すドライバーとなっているといいのですが』と言われ、メッセスのアンテナに引っかかった。
 有能すぎる従者である。

 道具を連れてきた使用人に持ってもらい、メッセスの先導で球場へ入る。

「「ほわぁ!!!」」

 グランドはすべてキレイに芝が刈られ、俺たちだけで使うことがもったいないと思うくらいだった。

「メッセス! すごいよっ!」

「庭師たちが頑張ってくれました」

 俺たちが入場するのを中で待っていた男たちがニコニコしている。

「お前たちがやってくれたのかい?」

「はい。お坊ちゃま。
お坊ちゃまがこちらの球場を使ってくださると聞いて喜び勇んで整備いたしました」

「そうなんだ。すごいよ! とても気持ちがいいね」

「ありがとうございます。実はここは私が最初に任された大仕事でして、思い入れがあったのです。また使っていただけるなんて、ほんとに……」

 庭師の責任者と思われる年齢四十代ほど者が目尻を抑える。

「お前、名前は?」

「ネンソンと申します」

「ネンソン。これから頻繁に使うつもりだからチェックよろしくね」

「はいっ! かしこまりましたっ!」

「今日、遊んでみてから違う整備をしてもらうことになると思う」

「かしこまりました。今日は坊ちゃまにお付き合いさせてくださいませ」

「うん。頼んだよ。でも、坊ちゃまは止めてほしいな。もう高等部の二年生なんだよ」

「フユルーシ様。なんなりとご要望をおっしゃってください」

「ああ、よろしく!」

 貴賓席のあるバックスタンド前まで進む。

「じゃあ、そのロープの端をここに留めて」

 壁から十メートル離れたところを指差すとネンソンの弟子らしい者たちがそれを打ち付ける。

「オッケー! 今度はこの先端を持って真っ直ぐ行って端を留めてきてくれる?」

「はい」

 弟子二人が走る。二人の後ろからウルトが五十センチほどのフラッグを何本か持っていく。


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 ドライバー飛距離が数値として出てまいりますが、データに基づいたものではございません。数値に違和感がございましても大目に見ていただけますと幸いです。
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