婚約破棄されそうな令嬢は知らないことだらけ

宇水涼麻

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第一章 本編 ご令嬢たちの闘い編

2 強かな令嬢たち 1

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「お待ちくださいませ。」

 イメルダリア・ユラベル侯爵令嬢がアリーシャを庇うようにアリーシャの前に出た。顔は扇で隠され、目元が見えるだけあるが、その目こそ力を感じる。

「殿下の言葉を遮るとは、不敬だぞ!」

 イリサスがアナファルト王子とメノール嬢を庇うように前に出る。イメルダリアは、イリサスが出てきたことに、扇の奥で薄く笑った。
 イメルダリアは、宰相であるシャーワント公爵の長男イリサスの婚約者だ。


「あら?そちらの方、メノール・ブリアント男爵令嬢様でいらっしゃいますわよね?
 メノール男爵令嬢様は、アリーシャ公爵令嬢様より、身分が低いですわよね?にも、関わらずアリーシャ公爵令嬢様のお言葉を遮りましたわ。
 それを許しておいて、私どもだけに身分を理由に咎めますの?」

 メノールとアリーシャの名前ではなく、爵位を大きめの声で言うあたりが、イメルダリアを女優のようだと感じさせる。

「イリサス様は、アナファルト殿下の側近でいらっしゃるのでしょう?
 そちらの方を咎めてから、私どもに苦言をするか、私どもにも発言の自由を認めるか、どちらかにしてくださいませ。
 こういときに、『公平』という言葉を使いますのよ。」
「クッ」

 イリサスは目を潤ませるメノール嬢を見るととても咎められない。しかたなくイメルダリアの発言を認める。

「ありがとうございます。

では、イリサス様。」

「わ、私か?なんだ?」

「婚約者であるわたくしに対しての不誠実な行為、及び、メノール様との不貞行為によりイリサス様とわたくしとの婚約の破棄をいたしますわ。」

「なっなっ、何を根拠に!」

「婚約者であるわたくしの誕生日にも、恋人の日や、新年のご挨拶にも、お手紙ひとついただけておりませんわ。
 わたくしからは、毎回贈り物をさせてもらってますが、イリサス様からはお礼のお手紙もいただいておりませんわ。

 それに、月に一度の婚約者の義務であるわたくしとの逢瀬のお茶会もイリサス様のご都合で、すでに2年もいらしていただいておりません。こちらからの来訪もイリサス様に断られております。」

 イリサスの不誠実さが暴露され、回りの目が冷たくなっていく。

「また、他家のお茶会に、そちらのメノール様をエスコートなさって参加していらっしゃるとか。それもいろいろなお茶会に。」

 会場にいる令息令嬢たちの中には、お茶会でイリサスとメノールがいわゆるイチャイチャしていたのを見ている者がもちろんいる。
 令嬢たちは軽蔑の視線をイリサスに送り、令息たちはあきれた視線を送っている。

「わたくしの知り合いであるご令嬢ご令息の多いお茶会に、家族でも婚約者でもない方を連れ回すなど……。
後から聞いたわたくしが、どれほど恥をかかされことか。」

「な、それは…。    とにかく、婚約破棄はこちらも
「イメルダリア様、それは本当ですの?」

 ヴィオリア・マーペリア辺境伯令嬢がイメルダリアの背をさするように隣に立ち、慰めるような、にもかかわらず、会場に響く声でイリサスの言葉を遮る。


「イメルダリア様、わたくしの婚約者も同じでしたわ。わたくしもここで婚約破棄いたしますわ。」
「おいっ!」
ウズライザーが憮然と前に出る。

 ヴィオリアは、騎士団団長であるバルトルガー侯爵の次男ウズライザーの婚約者だ。
 バルトルガー家は、長男が侯爵の爵位と、このまま力を伸ばせば問題なく団長職も継げるであろう。
 その家の次男がウズライザーであり、ヴィオリアがマーペリア辺境伯の一人娘であるため、ウズライザーは婿入りし、騎士団で力を付けた後、辺境伯を継ぐつもりである。

「きさまは黙っていろっ!」
とヴィオリアを指さしウズライザーは怒鳴った。

扇で口許を隠したままヴィオリアが言う。
「騎士となろうという方が、淑女を指さして怒鳴るだなんて、気が知れませんわね。」 
 ウズライザーに言うわけでなく、独り言のように言っているのに、まわりに聞こえていて、そこがまた、更なる嫌味に聞こえる。ヴィオリアもどうやら女優のようだ。

「ウズライザー様、先ほどのイメルダリア様がイリサス様に言われたことは、あなた様のことそのものではありませんか。婚約者に贈り物もお手紙もしないことは、流行りですの?早く教えてくだされば、わたくしからも贈り物をしませんでしたのに。」

 暗に『贈り物をして損したわ』と言っているが、ウズライザーには伝わっているかはわからない。

「婚約者以外の方をつれ回すことも流行りなのかしら?
まぁ、あなた様の場合はお茶会ではなく、騎士見習いの鍛練場ですけど。そちらにメノール嬢をお連れになっておりましたわね。

鍛練場では、基礎鍛練を蔑ろにし、終始見ための派手な演習ばかり、さらに自分より弱い方ばかりを相手になさっておいででしたわ。

メノール嬢と仲睦まじく、汗を拭いてもらったりしてらしたのも見えておりましたわ。」

「見、見えていただと?我々の後をつけ回していたのかっ!」

「まさか、そんなわけございませんでしょ。
その日、わたくしは父と共に鍛練場に赴き、辺境伯領地に来ていただける新人の方々を見に行っておりましたのよ。

2階観覧席におりましたの。ご存知でしたでしょ?」

「な、な、そんなことは知らん!そのようなことなら、俺を誘うのが筋であろう!?」

「あら、もちろんお誘いしましたわ。いつかウズライザー様の部下になるかもしれない方々ですもの。
ですが、ウズライザー様は用事があると言い、わたくしの話も聞かなかったではありませんか。

その日の様子は、我が父だけでなく、騎士団団長であるあなた様のお父上もご覧になっておりましたわ。父と団長様の施設訪問ですもの、当然でしょう。」

 ウズライザーの顔は赤から青になり、今は真っ白だ。

「さらに、長期休暇中は我辺境伯領地にて辺境伯としてのまた騎士としてのお勉強をなさるお約束にも関わらず、ここ2年ほどの長期休暇には一度もいらしてませんわね?
どういうおつもりですの?」
 
 長期休暇は辺境伯を継ぐための教育時間にあてられるはずであった。

「長期休暇中はいろいろと…。   だが、俺からもこん
「まぁ!わたくしもお仲間に入れてくださいませ。」

 ウズライザーの叫びを遮り、エマローズ・ナハナージュ侯爵令嬢が笑顔でヴィオリアに並んだ。
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