婚約破棄されそうな令嬢は知らないことだらけ

宇水涼麻

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第一章 本編 ご令嬢たちの闘い編

5 受け身の令嬢

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 アナファルトは、イメルダリアたちの攻撃がアナファルト本人への言葉ではなかったためか、はたまた、情報過多で処理ができないのか、どうも、メノールが自分の側近と懇意であることを深くは理解していないようだ。
 目をしばたかせながらも、メノール嬢の肩を抱くことは止めていない。


 しばらくして、ハッと我に返り、アナファルトはメノールを脇に抱き、崩れた三人の前へ出た。そして、アリーシャに向かって言った。

「ええい!そんなことよりアリーシャ、きさまとは、金輪際、…。」

 イメルダリアが《バチン》と大きな音をたて扇を閉じ、まっすぐにアナファルトを見て言った。

「殿下、こちらの話はまだ終わっていませんわ。」


「アリーシャ様、少々不躾なるご質問をさせていただきたいのですが、よろしいですか?」
 イメルダリアは今日一番の優しい声でアリーシャに問いかけた。

「構いませんわ。なんでしょうか?」

「この2年、お誕生日や新年のご挨拶などには、アナファルト殿下からお手紙や贈り物はございましたか?」

「贈り物もお手紙もいただきましたが、筆跡は殿下のものではありませんでしたわ。

おそらく、宰相補佐官のゼファー様の筆跡ですわ。政務でお世話になっておりますので、筆跡を存じ上げておりますの。
贈り物を選んだ理由なども丁寧に書いて下さってありましたので、贈り物を選んでくださったのもゼファー様であろうと思っておりますの。」



 まあ、貴族の中には、秘書や執事に任せる者も、確かに存在する。贈られる女性からみたら、贈り物がないよりマシ?!と思っているのかと、尚更幻滅する。他の者に用意させるなら、心の籠った手紙の方が数百倍マシである。が、これは愛であれ、慈しみであれ、尊敬であれ、心が通いあってのことだ。心が通いあってないのなら、手紙より贈り物がよいに決まっている。
閑話休題



「アリーシャ様から殿下へは?」

「もちろん、贈らせていただいておりますわ。でも、……
開けた様子もないまま、殿下の執務室の角に重ねられておりますの。」

 それを聞いた令嬢は、さすがに何人か気を失った。話を聞いただけで気を失うのだ、実際にそれを目にしたアリーシャの悲しみは推し量られるべきであろう。
 しかし、悪いことをしていないと思っているアナファルト王子は、歯をギリギリとさせ、アリーシャを睨む。

「いらんものを贈りつけておいて、そのような言い方はないだろう!!」

 中身も見ていないのに、随分と横暴だ。

 そんな、アナファルトを、さっさと無視して、令嬢たちの話は進む。

「アナファルト殿下との逢瀬はいかがでしたの?」
とヴィオリア。

 婚約者とは、逢瀬として、最低でも月に一度、お互いの屋敷を交互に訪問し、主にお茶を楽しむ慣わしがある。婚約者との距離を縮めるための大切な約束だ。
 いくら政略結婚でも、あまりにも殺伐としていたら、長い人生、ともに歩んではいけない。

「わたくしから王城にあがった際のお茶会では、お会いしてくれましたわ。」

 アナファルト王子はすぐさまどや顔する。

「しかし、椅子に座りもせず、『用事があるので、今日はここまでだ。代わりの者をよこす』と席をお立ちになり、少し離れた場所に設けられたメノール様とのお茶会へ向かわれました。」
 
 アリーシャは、今まで自分がされていたことを口にすることで、どんどん自覚していった。
 自分は、アナファルト王子から、このような対応をされることを我慢すべきなのだろうか?と。

「後からゼファー様がいらしてくださって、わたくしとのお茶にお付き合いしていただけたので、王城での時間自体は、お約束の時間を過ごしたことになっておりましたの。」

 アリーシャを早々に帰すとレンバーグ公爵にバレるし、そこから父王や王妃にバレるとしかられると思い、時間合わせだけはしていたのだ。

 これには、流石の令息たちも目を見開いて、アナファルト王子を見てしまった。男から見てもあり得ない行為だ。メノール嬢とお茶をしたいのなら、日を改めればいい。わざわざ、婚約者の前でやるなど、信じられない。

「まぁ!逢瀬を掛け持ち、さらに愛人との逢瀬を見せつけるだなんて!」
 とヴィオリアが驚いた様子を見せ、扇の下で顔を歪ませる。

「メルを愛人などと!!ふざけるなっ!」
 アナファルトが興奮しているが、無視される。


「公爵家でも逢瀬はありますでしょ?」

「それは、数年前にいらしていただいたことが最後ですわね。ここのところはただお店から贈り物が届くだけで、殿下がいらっしゃることはありませんでした。」
 まわりの空気がもの悲しくなる。
 贈り物は、毎回アリーシャのことを考えて送ってくれているように感じるものばかりであったが、アナファルト自身が来ていないことは事実である。


「では、エスコートは?」
とエマローズ。

「王妃様主催のお茶会にはしていただきましたわ。

ですが、ランタル公爵様のお誕生会の招待状が、今年はいただけなくて、残念に思っておりましたの。

後日、ランタル公爵夫人から、わたくしの体調を心配するお手紙をいただいて、本当に恐縮してしまいましたわ。
どうやら、殿下を通して招待状が届くようになっていたようなのです。
わたくしの代わりに、メノール様がその会に殿下とともに出席なさったようなのです。」

 王妃様主催のお茶会だけアリーシャをエスコートしているというところが、姑息で、尚更、会場の目は白いものとなる。

 ランタル公爵は、前王の王弟だ。だからこそ、王子と王子の婚約へ招待状が送られるのだ。そこへ、他の女性をつれていくなど、言語道断も甚だしい。

 さらにイメルダリアは続ける。
「メノール様については何か噂など聞かれますか?」

「……えぇ。

王妃教育で王城にあがった際に、メイドたちの内緒話を聞いてしまったんですの。」

 アリーシャ嬢はもう目に涙がたまっている。

「それは、なんと?」
ヴィオリアが先をうながす。

「その日、服と髪を乱してはいらっしゃったけど…
嬉々としたお顔でメノール様が……」

 エマローズが、そっとアリーシャに近づき励ますように背に触れる。

「殿下の寝室から朝方に出ていらしたと。

そ、それも、その日だけではないと。」

 とうとうアリーシャの目から一筋の涙がこぼれ落ちた。

「メル、殿下とは婚姻まではせぬと、それまでは私だけだと」
「俺には、俺だけには本当の姿を見せられるって言ったよな?」
「ぼ、ぼくといるときが、し、幸せだって。」

 屍になっていた令息3人が同時に喚く。
 側近たちの言葉で、漸く先程の側近たちが攻められていた話とつながったらしいアナファルトは、メノールを抱いていた手を離し、両手でメノールの肩をつかんだ。

「メル、まさか、俺の側近たちだぞ?嘘だよな?嘘と言ってくれ。」

 男たちの悲痛な叫びがメノールに迫る。

 クスクスと笑う声とこそこそと揶揄する声が会場のあちらこちらから聞こえてくる。

 思考停止になったアナファルトが癇癪を起こした。

「う、うるさいうるさいうるさい!
これはお前たちが俺たちを嵌めようとした罠だな!これは真実ではないっ!」
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