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第二章 本編 ご令嬢たちの幸せ編

9 平民娘の未来

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 公爵令嬢たちに冤罪の罪を着せようとした罪ということで、騎士たちに連れてこられたのは、貴族用の、牢屋というより控え室のような部屋だった。

 メノールが、平民生活していた頃と比べれば、ものすごくいい部屋だ。窓とドアに鉄格子はあるけど。
 食事も大層うまかった。食べたあとに少しボッーとしたけど。


 メノールは、『父母という立場の人たち』から、あの男たち4人なら、誰と結婚してもいいと指示を受けていたことを中心に、自分のわかることは、すべて話した。話させられた??

 メノールは、確かに、王子と令息たちと、性的な関係を持った。だが、15歳にもなれば、平民なら誰だって恋人とは、そういう関係になる。
 あの男たちの恋人や妻になろうとしたのだから、性的な関係になるのは、当然だと考えている。

 「モテないヤツの場合なんて知らない。だって、私はモテるんだもの。
この歳だもの、《やる》なんて、当たり前でしょ。一体、何が悪いのよ。
あの女たちに、罪を着せようとしたわけじゃないわ。あの男たちに、可哀想とか守ってあげるとか思わせたかっただけよ。」
と、メノールは主張した。

 「なのに、あいつら、まさか国王にチクっていたなんて!ホント、使えない!」

 あまりの主張に、騎士たちが『女性』というものを恐ろしく感じたくらいだ。

 確かに、映像には、メノールが、アリーシャ嬢たちの名前を出したことは一度もなかった。ただし、アナファルトたちが、アリーシャ嬢たちの名前を出した時に、否定もしていなかった。



 メノールの『父母という立場の人たち』という言葉をもとに、男爵夫妻を事情聴取することになった。

 男爵夫妻は、
「同級生とのトラブルがあった。問題はなかったので、二人で迎えに来てほしい。」
と言うと、迎えの騎士に素直に付き従った。

 王城についた男爵夫妻に、「待っている間にどうぞ」と、お茶をすすめる。大変高級なお茶だ。薄めた自白剤が入っているけど。なぁに、少し眠くなる程度だ。
 文官が会話を楽しむように、誘導尋問していくと、本当にメノールとは、無関係で、夫婦も実は他人であることが、判明した。そこで、別々に軟禁し、さらに事情聴取すると、大変なことがわかった。

 男爵は、東国の間諜であった。そうとわかれば、遠慮はしない。人格的に壊れても問題ないので、魔法薬自白剤をいくらでも使う。

 男爵はなんと、20年計画で送り込まれていた間諜だった。まず、ガーリウム王国と仲のよいタニャード王国で商売を始め、地盤を作る。商売を大きくするときに、ガーリウム王国に拠点を移す。ガーリウム王国で、信頼されるほど商売を成功させ、15年かけて爵位を賜る。
 
 その間に、妻役と娘役を探して、市井から引き取ったという形にすれば、一緒に暮らしていなかったことを疑問に思う者はいない。

 妻役の女性は、偶然にも、間諜としての才能があった。男爵は、その女性を手篭めにして、男爵家に入れる前から間諜としての仕事も手伝わせていた。
 男爵位を賜る前から、妻役の女性は、王城に勤める文官や護衛騎士に、ハニートラップを仕掛けていた。その文官や護衛騎士の目を自分に向けることで、メノールをアナファルト王子の部屋へと導くことに成功した。
 
 男爵たちからすれば、計画的な夜這いだったはずた。だか、メノールが、時間か逃走経路か、とにかく何かミスをしたのだろう。それで、メイドが時々メノールを目にしたようだ。それでも、王子の部屋から出てきた瞬間を見たわけではなかったので、噂に留まっていた。

 しかし、その噂を確認するために、罠で自由にさせていたら、不貞をしていることは比較的早目に確認できた。
 侵入方法は不明のままだったが、王宮の警備を強化したため、その後、メノールが現れることはなかった。


 王宮への侵入方法は男爵夫妻が捕まるまで不明であった。
 文官や護衛騎士は、まさかそういう付き合いから10年もたってから、犯罪の片棒を担がされるとは思わず、事件の概要を知り絶句していた。
 本人たちが片棒担ぎのつもりがなかったのだ。発覚しないわけだ。
  
 文官も護衛騎士も、仕事中に、女性へと気を移して賊を入り込ませたなど、平和ボケも甚だしい。彼らにも、明るい未来はない。


 また、学園の事務官が、金で買収されていた。そもそもメノールには、学園へ編入するだけの能力も、成績を維持する能力もなかった。テストはすべてその事務官が用意したものにすり替えられていた。究極のカンニングだ。またそれが、Cクラス程度にしているところが、見逃されていた理由の一つだろう。
 事務官は、鉱山に送られた。


 王家、宰相家、騎士団家、魔法騎士団家。メノールがどの家の子息と結婚しても、当主や跡取りの兄などには、早々に亡くなってもらう予定だったとか。そこから、ガーリウム王国内を崩す計画だったようだ。

 商売を通して、東国に得になるような、ガーリウム王国からみたら脱税になるようなこともしていた。

 しかし、男爵に接触してくるのは、何重にも隠された人物で、中間人の人相は解ったが、黒幕まではわからなかった。

 東国は、土地が痩せているため、木材や塩湖からの塩が主な特産である。肥沃な土地を求め、昔からガーリウム王国を欲している。


 魔法薬自白剤を使って4日目には、男爵夫妻は、廃人になっていた。

 男爵が持つ東国への商売通行証を使い、男爵夫妻を東国王都の高級宿屋へ運んだ。身分のわかるものを持たせ、宿屋に放置した。
 隣国で間諜していたはずの男女が、廃人となって、高級宿屋にいたら、彼らを間諜にしていた高官か王族かはわからないが、びっくりするに違いない。
 一月後、東国から、男爵夫妻について問い合わせがあったが、そんな貴族は《存在したことはない》と、言い切った。


〰️ 〰️ 〰️


 戦争をするつもりはない。しかし、泣き寝入りはしない。あちらも20年かけて仕掛けてきたのだ。こちらも数年かけて真綿で首を絞めていく。
 こういう時は経済制裁だ。まず、『今年は不作だった』として、東国への穀物の援助及び輸出を減らしていく。東国から輸入していた塩や木材は、北に隣接する国から輸入することにして、東国からの輸入を減らしていった。これらをゆっくりと進めた。じわじわと締まる首。
 東国が打撃を受けていると感じる頃には、「今さら言われても困る」というところまできていた。
 東国は、苦肉の策で、北国を経由して、輸出入するようになった。恐らく、国庫は疲弊している。
 間諜をさせていた者を出してくるか、国庫がパンクするか、他の解決策を見つけるか、東国のこれからを心配する義理はない。

〰️ 〰️ 〰️

 メノールは、次の日には、平民の牢屋に移されたが、牢屋は個室であったし、まずくても食事は出たし、特に嫌なこともされなかったので、事情聴取には、素直に答えた。

 メノールは、まさに『役者』であっただけであると判断された。『父母という立場の人たち』が間諜であることは知らなかった。

 メノールは、孤児院育ちであった。金持ちになるために、あの男たちの誰か結婚するのだと、本気で頑張っていただけのようだ。

 メノール本人に、ガーリウム王国西果ての修道院と港町、どちらがいいかと聞いたら、迷うことなく、港町を選んだ。
 王都から馬車で3日の距離には入らない旨の魔法契約を結び、更に、5年の記憶を消して、港町で平民生活をさせることとなった。
 ある文官の伝手により、パン屋での住み込みの仕事でスタートした平民生活だが、その後どうするかは、彼女の自由だ。

 元々奔放な彼女だ。逞しく生きていくのだろう。
 貴族など、全く関係のない世界で。

~本編 fin~
ヒーロー編へ続きます。
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