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12 公爵閣下たち
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さほど待たずして、待ち人が来た。
『コンコンコン』
「旦那様とアイマーロ公爵様がいらっしゃいました」
執事が再び恭しく声をかけてくる。
「わかりました」
女主メリベールは先程のキャロリーナの時と違い凛々しく答えた。
「あなたたちは後ろにいなさい」
メリベールとキャロリーナの後ろに椅子が用意され、そこにランレーリオとロゼリンダが座った。
汗をかいた二人の中年男性が部屋に入ってきた。二人ともなかなかの男前で、まだまだモテそうだ。
「メリー! これはどういうことかな?」
ランレーリオの父親コッラディーノが、メリベールの前に手紙を出した。
「キャル。君もこれは何のつもりかな?」
ロゼリンダの父親ゼルジオも、キャロリーナの前に手紙を出した。
「このままの意味ですわよ」
メリベールは、平然として手紙をコッラディーノに付き返した。
「わたくしたちは、離縁も覚悟しておりますのよ」
キャロリーナも平然としたまま、ゼルジオに手紙を付き返す。
「「え?」」
ランレーリオとロゼリンダが口を大きく開けた。
自分たちが想像していた以上の母親たちの覚悟に、ランレーリオとロゼリンダはたじろいだ。自分たちだけなら爵位を諦めればいいと考えていたからだ。それが家族崩壊の危機となっている。しかし、この状況では口は挟めない。
女主二人は、ランレーリオとロゼリンダが学園から帰宅したと知り、早々に王城で仕事をしている旦那様宛に執事に手紙を持たせた。つまりその時点で、ランレーリオとロゼリンダがどんな気持ちで帰ってきたかを察していた。
『わたくしたちの要求が通らない時には、子どもたちを連れて国を出ます。もちろん、その場合、あなたとは離縁いたします。
要求が聞きたければ、早く戻りなさい。(早くデラセーガ公爵邸にいらっしゃい)』
こんな手紙をもらった二人の中年公爵は、急いで帰ってきたのだ。仕事もほっぽり投げて。
「ディー。とりあえず、おすわりになって。ゼルジオも」
メリベールはロゼリンダの父親を呼び捨てにしていた。4人は旧知の仲のようだ。コッラディーノとゼルジオの前にお水が出された。二人は一気に飲み干す。
「ふぅ。メリーの要求を聞こうか」
コッラディーノが深呼吸して、襟を正してソファーに深く座る。威厳を取り戻そうとしているのだろう。
「キャル。その後は君の要求も聞くよ」
ゼルジオも同様にソファーに深く座った。眉をピクピクさせて急かすのもわすれない。
「あら、わたくしたちの要求は同じものですのよ」
右斜めに座っていたキャロリーナは、横目でチラリと男二人を見た。そして、隣に座り自分の方に左斜めに構えるメリベールへ視線を送る。
メリベールが小さく頷いた。
「そうですわ。ディー、ゼルジオ。よぉく、聞いてくださいませね。
今日から、2週間以内に、ランレーリオとロゼリンダの婚約を認め、二人を1年以内に結婚させることを認めること。
それが、要求ですわ」
メリベールは扇でテーブルを『パシリ』と音をさせた。
「そして、その要求が通らない時には、わたくしの妹の嫁ぎ先へ参ります。これは妹の了承の手紙です」
二人の前に、キャロリーナが『パチン』といい音をさせて、手紙を置いた。
ゼルジオがすぐにそれを取り、中身を読んで青くなりながらコッラディーノに渡した。コッラディーノも読んでいるうちに、目に見えて青くなった。
キャロリーナの妹は、スピラリニ王国の隣国ピッツォーネ王国のさらに隣国の侯爵家に嫁いでいた。その領地は、馬車で1月半もかかる遠方だ。1度行けば、早々帰る気持ちにはならない。
そしてその手紙には、ランレーリオとロゼリンダだけでなく、ランレーリオの弟と妹、ロゼリンダの弟までも受け入れると書かれていた。
さらには
『お姉様たちはまだお若いのですもの。お姉様たちの恋のお相手も探しておきますわね』
と、まで書いてあった。コッラディーノとゼルジオは、二人ともハンカチを取り出して汗を拭いていた。
「だ、だがな、父上が、な……」
コッラディーノの声は震えていて、ゼルジオに助けを求めた。
「そ、それは、お前たちも知っているだろう?……」
ゼルジオの声も震えている。
「そんなことは百も承知ですわよ」
メリベールが目を閉じて静かに言った。
「そのことで、今までどれほど我慢してきたと思っておりますの?」
キャロリーナが目を細めて男二人を交互に睨む。
「「そうは言ってもなぁ」」
男二人が少し前のめりで、恐恐とそれぞれの妻を見た。
「あら? ディー? 婚姻の約束はお忘れですの?」
メリベールは扇で口元を隠した。目しか見えないので、尚更、鋭く見える。
続いてキャロリーナが、テーブルを『タン』と叩いて姿勢を正した。
「ゼルジオ。あの約束がなければ、わたくしは貴方と婚姻しておりませんのよ」
ゼルジオは口をパクパクさせた。
「ディー。貴方もそうでしょう?わたくしたちはそのために、出産直後からお茶会をしていたのをご存知よね?」
コッラディーノは小さく頷いた。
これは、ランレーリオとロゼリンダには後日教えられることなのだが、コッラディーノとゼルジオは、プロポーズを受けてもらうとき、条件がつけられていた。それが、ランレーリオとロゼリンダの結婚である。
メリベールとキャロリーナは、自分たちの子供が結婚することを自分たちの結婚前から望んでいたのだ。なので、メリベールがランレーリオを産んで、2ヶ月後、キャロリーナがロゼリンダを産んだときには、メリベールとキャロリーナは、大変喜んだ。ランレーリオとロゼリンダの婚約は、ロゼリンダが生まれた日に決まった。
「10年ですわ。貴方の結婚時の誠意とやらを見てきましたのよ」
メリベールはコッラディーノから視線を外して、静かにそう言った。
「10年。貴方の男としての約束を信じてきましたのよ」
キャロリーナもゼルジオを見ることなく、静かに語った。
「「だ、だけどなぁ」」
それでも、コッラディーノとゼルジオは、結婚してからの20年を信じていたかった。その20年を簡単に捨てられるなんて思いもしていない。
しかし、メリベールとキャロリーナにとって、そんなものはオマケにすぎない。二人は二人で孫を可愛がる夢を楽しみにしているのだから。
「「今の公爵は、どなたですのっ!」」
メリベールとキャロリーナの声が揃った。これは口合わせしてはいない事だったにも関わらずピッタリと揃ったほど、二人はいつも思っていたことなのだ。
ランレーリオとロゼリンダは、後ろにいたのに仰け反った。最強のはずの公爵閣下コッラディーノとゼルジオは、仰け反ってソファーの背に逃げたあげく震えていた。
「紙を!」
メリベールの一言で、執事が紙と羽ペンをコッラディーノとゼルジオの前に並べた。
コッラディーノは、いつでも自分の味方だと信じていた小さい頃から仕えてくれている執事がいつの間にか、妻の味方になっていて驚き顔を青くした。
執事は、家庭が上手くいくのは女主人あってのことだと、よくわかっていた。
「はい。こちらに明日から休暇をとる旨をお書きになって!」
メリベールがにっこりと笑った。
「きゅ、休暇?」
コッラディーノは宰相だ。急な休暇を取れば、政務に支障は出るだろう。
「い、いや、今、隣国の公爵令息がいらしていてな……」
ゼルジオは外交大臣だ。隣国から勉強に来ているクレメンティたちを指導することは、外交の一部だろう。
「現国王陛下は優秀です。貴方が数日いなくとも、回してくれますわ」
メリベールが冷たく言い放つ。
「う? うん?? いや、なぁ??」
「隣国の公爵令息のために、家族を東方の国へ渡していいのですね?」
キャロリーナはギロリとゼルジオを睨んだ。
「い、いや、それは……」
コッラディーノとゼルジオの頭の中の天秤がギッタンバッコンと揺れていた。
『バッチン!!』
「明日の朝一に出て、どこぞの偏屈じじぃを説得せねば間に合いませんわよ!」
キャロリーナが、1度大きく開いた扇を大きな音を出して閉じた。ゼルジオだけなく、コッラディーノも飛んで姿勢を正した。
『パンッ』
「そうですわ。どこぞの頑固じじぃのせいで、あなたは家族を失ってもよろしいのね?」
メリベールが机を叩いて確認する。紙がひらひらと男二人の足元へ落ちる。
「あ、の……」
「そ、の……」
「「いざというときは、どちらと離縁するのか、はっきりなさいっ!」」
「「はいっ!」」
コッラディーノとゼルジオの天秤は、確実に片方に傾いた。大きな重しとともに。
二人の中年男は足元の紙を急いで拾い休暇届けを書いた。執事が即座に王城へ届けに出た。
「ゼルジオ。わたくしとロゼリンダは、しばらくはこちらでお世話になることにいたしますわ。ガゼリオンは、明日こちらに引き取りますわ」
ガゼリオンは、ロゼリンダの弟だ。ゼルジオは『そこまでしなくても』と半分泣きそうだ。
「ディー。わたくし、今夜は客室に寝ます。わたくしたちのお荷物の整理は明日にしますので、今夜はあなたのお荷物を整理なさって。もちろん、客室は入室禁止ですからね」
コッラディーノも『今夜から???』と、肩を落として小さく頷いた。
妻たちの凍えるような笑顔に公爵閣下たちは戦いていた。
男二人は明日の朝一から王都を離れるのにも関わらず、今夜は妻を隣に眠ることができないようだ。肩を落として項垂れた。
「ゼルジオ。早く屋敷に戻らねば、お支度が間に合いませんわよ。わたくしたちのお荷物の整理は、す・で・に・執事長たちに頼んでありますので、お気になさらずに」
ゼルジオもどうやら、長年仕えてくれている執事長をキャロリーナに掌握されているようだ。
それはそうであろう。家にいる時間の長さが違うのだから。執事長はどちらに加担した方がよい家庭でいられるかをきちんと理解しているのだ。
「ディーも急いだ方がよろしいわ」
男二人はビシッと立ち上がった。そして、ゼルジオは転がるように帰っていき、コッラディーノは執事とメイドに指示をはじめて、応接室を出て行った。
『コンコンコン』
「旦那様とアイマーロ公爵様がいらっしゃいました」
執事が再び恭しく声をかけてくる。
「わかりました」
女主メリベールは先程のキャロリーナの時と違い凛々しく答えた。
「あなたたちは後ろにいなさい」
メリベールとキャロリーナの後ろに椅子が用意され、そこにランレーリオとロゼリンダが座った。
汗をかいた二人の中年男性が部屋に入ってきた。二人ともなかなかの男前で、まだまだモテそうだ。
「メリー! これはどういうことかな?」
ランレーリオの父親コッラディーノが、メリベールの前に手紙を出した。
「キャル。君もこれは何のつもりかな?」
ロゼリンダの父親ゼルジオも、キャロリーナの前に手紙を出した。
「このままの意味ですわよ」
メリベールは、平然として手紙をコッラディーノに付き返した。
「わたくしたちは、離縁も覚悟しておりますのよ」
キャロリーナも平然としたまま、ゼルジオに手紙を付き返す。
「「え?」」
ランレーリオとロゼリンダが口を大きく開けた。
自分たちが想像していた以上の母親たちの覚悟に、ランレーリオとロゼリンダはたじろいだ。自分たちだけなら爵位を諦めればいいと考えていたからだ。それが家族崩壊の危機となっている。しかし、この状況では口は挟めない。
女主二人は、ランレーリオとロゼリンダが学園から帰宅したと知り、早々に王城で仕事をしている旦那様宛に執事に手紙を持たせた。つまりその時点で、ランレーリオとロゼリンダがどんな気持ちで帰ってきたかを察していた。
『わたくしたちの要求が通らない時には、子どもたちを連れて国を出ます。もちろん、その場合、あなたとは離縁いたします。
要求が聞きたければ、早く戻りなさい。(早くデラセーガ公爵邸にいらっしゃい)』
こんな手紙をもらった二人の中年公爵は、急いで帰ってきたのだ。仕事もほっぽり投げて。
「ディー。とりあえず、おすわりになって。ゼルジオも」
メリベールはロゼリンダの父親を呼び捨てにしていた。4人は旧知の仲のようだ。コッラディーノとゼルジオの前にお水が出された。二人は一気に飲み干す。
「ふぅ。メリーの要求を聞こうか」
コッラディーノが深呼吸して、襟を正してソファーに深く座る。威厳を取り戻そうとしているのだろう。
「キャル。その後は君の要求も聞くよ」
ゼルジオも同様にソファーに深く座った。眉をピクピクさせて急かすのもわすれない。
「あら、わたくしたちの要求は同じものですのよ」
右斜めに座っていたキャロリーナは、横目でチラリと男二人を見た。そして、隣に座り自分の方に左斜めに構えるメリベールへ視線を送る。
メリベールが小さく頷いた。
「そうですわ。ディー、ゼルジオ。よぉく、聞いてくださいませね。
今日から、2週間以内に、ランレーリオとロゼリンダの婚約を認め、二人を1年以内に結婚させることを認めること。
それが、要求ですわ」
メリベールは扇でテーブルを『パシリ』と音をさせた。
「そして、その要求が通らない時には、わたくしの妹の嫁ぎ先へ参ります。これは妹の了承の手紙です」
二人の前に、キャロリーナが『パチン』といい音をさせて、手紙を置いた。
ゼルジオがすぐにそれを取り、中身を読んで青くなりながらコッラディーノに渡した。コッラディーノも読んでいるうちに、目に見えて青くなった。
キャロリーナの妹は、スピラリニ王国の隣国ピッツォーネ王国のさらに隣国の侯爵家に嫁いでいた。その領地は、馬車で1月半もかかる遠方だ。1度行けば、早々帰る気持ちにはならない。
そしてその手紙には、ランレーリオとロゼリンダだけでなく、ランレーリオの弟と妹、ロゼリンダの弟までも受け入れると書かれていた。
さらには
『お姉様たちはまだお若いのですもの。お姉様たちの恋のお相手も探しておきますわね』
と、まで書いてあった。コッラディーノとゼルジオは、二人ともハンカチを取り出して汗を拭いていた。
「だ、だがな、父上が、な……」
コッラディーノの声は震えていて、ゼルジオに助けを求めた。
「そ、それは、お前たちも知っているだろう?……」
ゼルジオの声も震えている。
「そんなことは百も承知ですわよ」
メリベールが目を閉じて静かに言った。
「そのことで、今までどれほど我慢してきたと思っておりますの?」
キャロリーナが目を細めて男二人を交互に睨む。
「「そうは言ってもなぁ」」
男二人が少し前のめりで、恐恐とそれぞれの妻を見た。
「あら? ディー? 婚姻の約束はお忘れですの?」
メリベールは扇で口元を隠した。目しか見えないので、尚更、鋭く見える。
続いてキャロリーナが、テーブルを『タン』と叩いて姿勢を正した。
「ゼルジオ。あの約束がなければ、わたくしは貴方と婚姻しておりませんのよ」
ゼルジオは口をパクパクさせた。
「ディー。貴方もそうでしょう?わたくしたちはそのために、出産直後からお茶会をしていたのをご存知よね?」
コッラディーノは小さく頷いた。
これは、ランレーリオとロゼリンダには後日教えられることなのだが、コッラディーノとゼルジオは、プロポーズを受けてもらうとき、条件がつけられていた。それが、ランレーリオとロゼリンダの結婚である。
メリベールとキャロリーナは、自分たちの子供が結婚することを自分たちの結婚前から望んでいたのだ。なので、メリベールがランレーリオを産んで、2ヶ月後、キャロリーナがロゼリンダを産んだときには、メリベールとキャロリーナは、大変喜んだ。ランレーリオとロゼリンダの婚約は、ロゼリンダが生まれた日に決まった。
「10年ですわ。貴方の結婚時の誠意とやらを見てきましたのよ」
メリベールはコッラディーノから視線を外して、静かにそう言った。
「10年。貴方の男としての約束を信じてきましたのよ」
キャロリーナもゼルジオを見ることなく、静かに語った。
「「だ、だけどなぁ」」
それでも、コッラディーノとゼルジオは、結婚してからの20年を信じていたかった。その20年を簡単に捨てられるなんて思いもしていない。
しかし、メリベールとキャロリーナにとって、そんなものはオマケにすぎない。二人は二人で孫を可愛がる夢を楽しみにしているのだから。
「「今の公爵は、どなたですのっ!」」
メリベールとキャロリーナの声が揃った。これは口合わせしてはいない事だったにも関わらずピッタリと揃ったほど、二人はいつも思っていたことなのだ。
ランレーリオとロゼリンダは、後ろにいたのに仰け反った。最強のはずの公爵閣下コッラディーノとゼルジオは、仰け反ってソファーの背に逃げたあげく震えていた。
「紙を!」
メリベールの一言で、執事が紙と羽ペンをコッラディーノとゼルジオの前に並べた。
コッラディーノは、いつでも自分の味方だと信じていた小さい頃から仕えてくれている執事がいつの間にか、妻の味方になっていて驚き顔を青くした。
執事は、家庭が上手くいくのは女主人あってのことだと、よくわかっていた。
「はい。こちらに明日から休暇をとる旨をお書きになって!」
メリベールがにっこりと笑った。
「きゅ、休暇?」
コッラディーノは宰相だ。急な休暇を取れば、政務に支障は出るだろう。
「い、いや、今、隣国の公爵令息がいらしていてな……」
ゼルジオは外交大臣だ。隣国から勉強に来ているクレメンティたちを指導することは、外交の一部だろう。
「現国王陛下は優秀です。貴方が数日いなくとも、回してくれますわ」
メリベールが冷たく言い放つ。
「う? うん?? いや、なぁ??」
「隣国の公爵令息のために、家族を東方の国へ渡していいのですね?」
キャロリーナはギロリとゼルジオを睨んだ。
「い、いや、それは……」
コッラディーノとゼルジオの頭の中の天秤がギッタンバッコンと揺れていた。
『バッチン!!』
「明日の朝一に出て、どこぞの偏屈じじぃを説得せねば間に合いませんわよ!」
キャロリーナが、1度大きく開いた扇を大きな音を出して閉じた。ゼルジオだけなく、コッラディーノも飛んで姿勢を正した。
『パンッ』
「そうですわ。どこぞの頑固じじぃのせいで、あなたは家族を失ってもよろしいのね?」
メリベールが机を叩いて確認する。紙がひらひらと男二人の足元へ落ちる。
「あ、の……」
「そ、の……」
「「いざというときは、どちらと離縁するのか、はっきりなさいっ!」」
「「はいっ!」」
コッラディーノとゼルジオの天秤は、確実に片方に傾いた。大きな重しとともに。
二人の中年男は足元の紙を急いで拾い休暇届けを書いた。執事が即座に王城へ届けに出た。
「ゼルジオ。わたくしとロゼリンダは、しばらくはこちらでお世話になることにいたしますわ。ガゼリオンは、明日こちらに引き取りますわ」
ガゼリオンは、ロゼリンダの弟だ。ゼルジオは『そこまでしなくても』と半分泣きそうだ。
「ディー。わたくし、今夜は客室に寝ます。わたくしたちのお荷物の整理は明日にしますので、今夜はあなたのお荷物を整理なさって。もちろん、客室は入室禁止ですからね」
コッラディーノも『今夜から???』と、肩を落として小さく頷いた。
妻たちの凍えるような笑顔に公爵閣下たちは戦いていた。
男二人は明日の朝一から王都を離れるのにも関わらず、今夜は妻を隣に眠ることができないようだ。肩を落として項垂れた。
「ゼルジオ。早く屋敷に戻らねば、お支度が間に合いませんわよ。わたくしたちのお荷物の整理は、す・で・に・執事長たちに頼んでありますので、お気になさらずに」
ゼルジオもどうやら、長年仕えてくれている執事長をキャロリーナに掌握されているようだ。
それはそうであろう。家にいる時間の長さが違うのだから。執事長はどちらに加担した方がよい家庭でいられるかをきちんと理解しているのだ。
「ディーも急いだ方がよろしいわ」
男二人はビシッと立ち上がった。そして、ゼルジオは転がるように帰っていき、コッラディーノは執事とメイドに指示をはじめて、応接室を出て行った。
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