【完結】公爵子息である僕の悪夢は現実になってしまうが愛しい婚約者のためにも全力で拒否します【幼少編】

宇水涼麻

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20 公爵家の封蝋

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 クララと二人きりで会えないことが数十回続くと僕の足はマクナイト伯爵邸から遠のいた。

 目敏い母上は僕を個人的にお茶に誘ってくれた。

「最近、マクナイト伯爵様のお邸へ行かないのね? クララちゃんがさみしがっているのではないの?」

 僕はチャンスとばかりにマクナイト伯爵邸での出来事を話した。

「なるほどね。でも、旦那様は他家に口出しすることは嫌がるのよねぇ」

 母上の言う旦那様とは僕の父上であるギャレット公爵である。父上は公爵で王弟であるので影響力が大きい。だから余程のことでないかぎり他家に関わらない。料理人のことも首にされた料理人だから保護できただけで現在マクナイト伯爵家で働いている者たちが蔑ろにされていたとしても引き抜きなどはできたとしてもしないだろう。
 
「……わかるよ。でも……そうなると僕は何も言えないの?」

 僕がちょっと拗ねてものすごく悲しい気持ちをさらけ出したら母上はそんな僕を見てくすりと笑う。

「それはクララちゃんに会えないことへのスネ? それともクララちゃんの勇者様になれないことへのスネ? ふふふ」

 嬉しそうにしている母上を僕はちょっと睨んでプイッと横を向いた。

「うふふ。冗談よ。
そうねぇ……」

 母上は顎の下に扇を当てて暫く考えるとポンと手の上に扇を乗せる。

「そうだわっ! クララちゃんにお手紙を書きなさい」

「クララに読んでもらえるかな? 代わりにダリアナ嬢が読んだりしない?」

「そうさせないためのいい方法があるのよ。ふふふ」

「方法?」

「そうよ。公爵家の封蝋を使うのよ」

 母上はさも自信ありげに鼻をツンと上にしながら人差し指を立ててそう提案してきた。

 僕は母上の提案にびっくりした。

「! そんなことして父上に怒られないかな?」

「何を言うの? バージルの婚約者へ正式なお誘いのお手紙です。公爵家の封蝋を使って当然でしょう」

「プッ!」

 母上はソファーに座ったままで両手を腰にあてて胸を張った。『名案でしょう!』と言わんばかりの母上に思わず笑ってしまった。

「あら? 少しはわたくしを信じる気持ちになったみたいね。封蝋はわたくしか執事に頼みなさい。ただし公爵家として恥ずかしくないお手紙を書くのよ。下品なお手紙は止めてね。うふふ」

「はい! 母上。ありがとう!」 

 僕は早速クララに手紙を書いた。
 『僕の家で待ってるよ』と。
 『二人でゆっくり話をしよう』と。

 数日後クララから『明日、訪問する』という手紙が来た。間違いなくクララの字だった。

「クララが来てくれるんだ! どこでお茶をしようか? 何を話そうか? わあ! 楽しみだぁ!」

 僕は紳士らしかぬ姿でベッドでゴロリゴロリと左右に揺れているけれどいつもは厳しい執事はがにっこりとして見逃してくれている。

〰️ 〰️ 〰️

 またあの夢だ……。

 天使は一人で僕のお家へ来たようだ。

『あなたの気持ちを隠さなくていいの』
『わたくしたちは、惹かれ合っているのです』
『ボブバージル様のお部屋へ行きたいわ』

 僕の腕にすがりつく天使。
 僕はそれを振り解けない。

 誰かっ! 誰か僕を起こしてくれ! こんな夢なんか見ていたくないっ!


 起きた時には強烈な頭痛と寝間着がぐっしょりとするほどの汗をかいていた。忘れられない映像が頭に流れて頭痛が止まらない。
 僕はふらふらしながらも急いで机へ向かい引き出しを開けると昨日の手紙を確認する。

 伯爵家の封蝋にクララの文字。
 今日、来てくれるという返事。
 クララも楽しみにしてくれていることがわかる言葉。

「大丈夫……。だって。だって。クララと約束したんだから……」

 僕は手紙を抱きしめて蹲り自分に言い聞かせた。

 そして僕は朝から執事と一緒に図書室の窓際の席に花を飾りクララと語る本を探す。執事と話し合った結果普段通りのギャレット公爵家でクララと出会った頃と何もかわらないと伝えた方がいいだろうということになった。マクナイト伯爵家から来た料理人は今日ばかりは僕たちに専念してくれることになりクララの好きなものを張り切って作っている。
 母上は午後から出掛けてしまうらしくクララと会えないことを残念がっていた。

 それなのに…………

 約束の時間に来た伯爵家の馬車から降り立ったのはダリアナ嬢だった。僕は怒りより夢の映像の渦に飲まれてしまいそうで立っているのがやっとだった。

「こんにちは。ボブバージル様っ!
クラリッサお義姉様は急に具合が悪くなってしまって来られなくなりましたの」

 ダリアナ嬢はさも自分がいることが当たり前のようにニコニコしながら言った。いつも以上に着飾った姿は姉の具合が悪いことを伝えるだけならあまりに仰々しい格好だ。

「それなら今からお見舞いに伺うことにするよ。まだ明るい時間だし大丈夫だよね?」

 僕はこの状態から離れるべく提案した。
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