辺境伯軍奮闘記〜知らない令嬢外伝〜

宇水涼麻

文字の大きさ
33 / 41
第五章 領地の冬

4 側近の災難

しおりを挟む
 フレデリック宛に、王都の母親バレー伯爵夫人から手紙が届いた。

 夜になり、フレデリックとセシルに割り当てられた部屋のソファーで手紙を開いた。フレデリックは、手紙を読むと頭を抱えた。

「フラン!どうしたの?お義父様に何かあったの??」
 セシルが慌ててフランに駆け寄った。

「あの人、絶対にわざとだよ。もう10年も行ってないトリベール領に行くなんて、おかしいじゃないか。僕たちが新婚だって、わかってるよね?なんで、義姉さんまで。」
 フレデリックが、ぶつぶつと念仏を唱えているようだ。フレデリックに手紙を渡されて、セシルは、手紙を読んだ。

『フラン、セシルちゃんへ、

 二人がこの邸からそちらへ引っ越しをなさってから、もう5ヶ月になりますのね。
 セシルちゃんからはいつもお手紙をもらっているのだけれど、やっぱり淋しいわ。

 旦那様に相談したら、トリベール領で休んで来なさいって、おっしゃってくださったの。フェリシーさんもお誘いしてみたら、ご一緒にっていうのよ。丁度、子どもたちにも海を見せてあげたかったし。

 通り道だから、そちらに寄りますわね。マーペリア辺境伯様には、ちゃんと伝えておいてね。

 フラン、反対しても無駄ですよ。このお手紙を貴方が読む頃には、もう邸を出ているわ。

 セシルちゃん、会えることを楽しみにしているわね。
 
 母より』

「まあ!お義母様とお義姉様、それに子供たちも来てくれるの?うれしいっ!」
『子供たち』とは、フェリシーの長男5歳シリルと次男4歳ニコラである。二人はとても素直で、バレー伯爵邸に、セシルがお世話になっているときには、よく一緒に庭園のお散歩へ行ったり、ダンスのお稽古を一緒にしたりした。

「来るだけで、済めばいいけどね。出発してるタイミングで手紙出すって、確信犯ですよね、お、か、あ、さ、まっ!」
 フランはまたぶつぶつ言っているが、楽しみで仕方のないセシルには、聞こえていないようだ。


〰️ 〰️ 〰️

 手紙が届いてから、5日目の夕方より少し前、バレー伯爵夫人ご一行が、マーペリア辺境伯城へ到着した。

「バレー伯爵夫人、お待ちしておりました。」

「マーペリア辺境伯様、わざわざお出迎えいただきまして、ありがとうございます。息子と義娘が、大変よくしていただいているようで、感謝申し上げますわ。奥さまも、ご機嫌よう。いつもありがとうございます。」

「まあ、バレー伯爵夫人、わたくしどもが助かっていますのよ。このようなところで立ち話も、なんですわ。お部屋にご案内いたしますので、後程お茶でもいかがですか?」

「ありがとうございます。お言葉に甘えて、そうさせていただきますわ。フェリシーと子供たちも一緒ですの。
ご挨拶なさって。」

「マーペリア辺境伯様、奥様、ご無沙汰しておりますわ。義弟の結婚式では、ご参列いただきまして、ありがとうございます。急な来訪にも関わらず、ありがとうございます。」

「「こんにちは!よろしくお願いいたします。」」

「まあ!可愛い子供たちだこと。さあさあ、中へどうぞ。」

 マーペリア辺境伯夫人もいつになく楽しそうだ。王都でもない限り、お茶会などはなかなか行けない。城下町の女将さんたちと話をするのも楽しいが、やはり、違う遠慮をされているのは感じる。マーペリア辺境伯夫人は、実はセシルが近くにいるヴィオリアが羨ましかったのだ。
 やはり、たまにはこういう集まりは女にとって、楽しいものだ。

 
〰️ 〰️ 〰️


 客間に入り、辺境伯夫妻が退室すると、

「「セシルぅーー!!」」

「シリー、ニコ、元気だった?とっても大きくなったのね!」
 フェリシーの息子シリルとニコラは、セシルに抱きついた。

「そうだよ。僕、ピョンってすれば、ベッドのヒラヒラを触れるようになったんだよ。」

「僕はね、僕はね、葉っぱにピョンってするんだよ。」
 二人は大興奮だ。

「セシルちゃん、元気そうね。フランとは仲良くしてる?」

「はい、お義母様!フランは、とっても優しいです。お義姉様も、遠くまでありがとうございます。会えてうれしいです。」

「わたくしも、セシルちゃんに会えてうれしいわ。お義母様のお誘いにちゃっかり乗らせてもらっちゃったわ。ふふふ」

「あら、わたくしも、一人旅より、フェリシーさんが一緒に来てくれて、うれしかったわよ。たまには、男抜きもいいわね。ふふふ。」
 セシルの隣に立つフレデリックは、いない者のように話が進んでいる。

 こうして、お茶の後、晩餐会となり、にぎやかなご一行は、4日間、マーペリア辺境伯城へ泊まった。

 辺境伯領軍の練習を見学したシリルとニコラは、大興奮だったし、花屋へ挨拶に行ったバレー伯爵夫人と辺境伯夫人は、夕方まで戻ってこないし、市場へ出掛けたフェリシーとヴィオリアとセシルは、大荷物で帰ってきた。もちろん、辺境伯夫人とのお茶会も忘れていない。

 こうして、あっという間に時間は過ぎ、5日目の朝、ご一行がトリベール領の屋敷へと向かう。ここから、トリベール領の屋敷までは、馬車で2日半ほどだ。マーペリア辺境伯様ご家族に挨拶した後、

「さあ、では、セシルちゃん、行きましょう。」

「は?なんで、セシルが行くんだ?」

「え?フラン、聞いてないの?」

「トリベール領のお屋敷の主人は、セシルちゃんなのよ。お屋敷の主人なしで、行けるわけないでしょう?」

「母上、もうすでに、勝手にメイドと料理人を送っているでしょう?それに、セシル、荷物は?まとめていた気配ないけど。」

「メイドたちは、あちらで困らないためよ。セシルちゃんのお荷物は、王都から持ってきているわ。帰りにはこちらにおいていくから、安心して。」

「クスクス、フラン、お義母様には勝てないわ。諦めなさいな。」

「義姉さんまで、そんな……。」

「フラン、私なら大丈夫よ。トリベール領の奥さんとして、頑張ってみるわね。お義母様とお義姉様に、その辺も教わらないと!」
 セシルは、結婚前には男爵夫人になることに拒否感を持っていたのだが、バレー伯爵夫人やフェリシーとふれ合う間に、頑張ってみようと、前向きになっていた。

「フラン、セシルさんがやる気なのは、うれしいことじゃないか。心配なら、お前も一緒に行っていいぞ。」
 カザシュタントが助け船を出す。

「いえ、仕事がありますから。
母上、わかりましたよ。セシルのことよろしくお願いいたします。義姉さんも。」

「「まかせなさい。」」

「セシル、気をつけて。無理はするなよ。」

「フランったら、心配しすぎよ。楽しんでくるわね。」

 セシルも乗せた馬車は、トリベール領へと向かった。
 見送った面々が城の中へと戻る。

「私も行きたかったなぁ。」

「ヴィーも誘われたんだろ?行ってもよかったんだぞ。」

「カストが軍団長になったばかりなのよ。その嫁がいなくなれるわけないじゃなーい。」

「ハハハ、そうか。頼りにしてます、奥様。」

「もう、からかわないでよ。私もカストをとっても頼りにしてるわ。」

 執務室へと歩く二人のイチャイチャを、後ろを歩くダニエルとフレデリックは、見ていた。ダニエルは、フレデリックの肩を『ポンポン』と二度叩いて慰めた。さすがに今日のダニエルは優しい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

王子、侍女となって妃を選ぶ

夏笆(なつは)
恋愛
ジャンル変更しました。 ラングゥエ王国唯一の王子であるシリルは、働くことが大嫌いで、王子として課される仕事は側近任せ、やがて迎える妃も働けと言わない女がいいと思っている体たらくぶり。 そんなシリルに、ある日母である王妃は、候補のなかから自分自身で妃を選んでいい、という信じられない提案をしてくる。 一生怠けていたい王子は、自分と同じ意識を持つ伯爵令嬢アリス ハッカーを選ぼうとするも、母王妃に条件を出される。 それは、母王妃の魔法によって侍女と化し、それぞれの妃候補の元へ行き、彼女らの本質を見極める、というものだった。 問答無用で美少女化させられる王子シリル。 更に、母王妃は、彼女らがシリルを騙している、と言うのだが、その真相とは一体。 本編完結済。 小説家になろうにも掲載しています。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

処理中です...