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第34話 お前、本来のボスじゃなかったのかよ
しおりを挟む「グオォォォ~~~~~~~!!!!!」
起き上がったミノタウロスは、俺達の方を向いて大きな咆哮を上げた。
「何だ、あのミノタウロスは? あんな大きさのミノタウロスは見たことがない」
フレア先生が、ミノタウロスを見て驚いている。
このダンジョンのボスの筈だが、先生は入ったこと無いんだろうか。
確認の為に先生に聞いてみる。
「見たことがないって・・・あれが、このダンジョンのボスじゃないんですか?」
「そんな訳ないだろう。このダンジョンのボスはホブゴブリン、ゴブリンより少し強いくらいのモンスターだ」
「えっ? そうなんですか?」
「ミノタウロスは、ベテランの冒険者ですら命を落とす可能性のあるモンスターだぞ。授業で使う場所にそんな危険な場所を選ぶ筈ないだろう」
(ミノタウロスって、そんな危険なモンスターだったのか。アルファに特訓でよくミノタウロスの相手させられていたから知らなかった)
「しかも、あのミノタウロスはイレギュラーだ」
「イレギュラー?」
「モンスターの中に希に生まれる存在だ。同種のモンスターに比べて、力や見た目が大きく変わる。本来のミノタウロスは、2メートルから3メートルほどの大きさだが」
「目の前にいる奴は、本来の3倍くらいの大きさになりますかね」
先生が言ったように、目の前にいるのはイレギュラーという奴なのだろう。
俺が相手にしていたミノタウロスもここまで大きくなかった。
イレギュラーを前にして、先生の表情に焦りが見える。
『アルファ、先生達のこと守ってくれ』
『承知しました。ただ、先生の方は自分が戦うつもりのようですが』
『フレア先生なら生徒を守る為に戦いそうだよね。他の教師だったら、生徒を置いていく可能性もありそうだけど』
フレア先生が、俺やリーゼ達の方を向いて口を開く。
「お前達は、急いで殿下達の元へ向かえ。私は、あいつの相手を・・・」
「あっ、あのミノタウロスの相手は俺がしますよ」
「なっ!? 何を言い出すんだお前は!?」
「親父の手伝いでモンスターと戦うのには慣れているんです。先生達が、殿下達の元に向かうまでの時間稼ぎくらいなら出来ます」
「馬鹿を言うな。さっきも言ったが、あのモンスターはイレギュラーだ。お前がいくらモンスターとの戦いに慣れていると言ってもレベルが違う」
「でも、フレア先生は戦おうとしていたじゃないですか」
「私は、教師だ。お前達を守る義務がある」
「はい、なので俺以外の生徒を守ってください。ミリアーデさんやシューエルデ様、そして殿下達を」
「お前もだ。今このダンジョン内にいる全員私が守る・・・それとも、私の事は信用出来ないか?」
「まさか、フレア先生に会ったのは今日が初めてですし、あまり会話もしていませんが、生徒想いの優しい先生だって事は分かりますよ。少なくとも、平民というだけで俺の事を馬鹿にしてくる他の教師とは違います」
「なら、何故だ」
「色々と説明して納得して欲しい所ではあるんですが、あっちが待ってくれないみたいです」
起き上がった後、俺達を見ていただけのミノタウロスが動き始めた。
斧を高く上げて、俺達に向かって振り降ろそうとしている。
「マズい! お前達、急いで逃げ・・」
「火球」
フレア先生が、『逃げろ』と言い切る前に俺は魔法をミノタウロスに向けて撃った。
魔法は、ミノタウロスの顔に直撃し爆発した。
「グォォォ~~~~~~~!!!!!」
ミノタウロスは、魔法が当たったことでよろめき、唸り声を上げた。
「よし、当たった、当たった。ダメージもちゃんと入っているみたいだ」
「シュトラウド、お前・・・」
驚いた顔で俺を見るフレア先生に、俺は頭を下げて
「お願いします! ミノタウロスの相手は俺に任せて下さい!」
「~~っ!! はあ~~~、分かった、お前に任せる」
「ありがとうございます!!」
俺が戦えることを証明したが、それでも生徒を戦わせることに抵抗があったようだ。
だが、最終的に俺が戦うことを許してくれた。
「絶対に死ぬなよ。お前が死ねば、私は私を許せなくなる」
「大丈夫です! 死にません!」
「・・・生徒にこんな事を言うなんて、どのみち私は教師失格かもな」
「フレア先生が教師失格なら、学園のほとんどの教師が教師失格になりますよ」
先生は、フッと俺に笑いかけリーゼとゼシカに3人で殿下達の元へ向かう事を話した。
「えっ? レインさんは、大丈夫なんですか?」
「大丈夫、大丈夫。先生、早く行かないと、またミノタウロスが攻撃してきますよ」
「分かっている。2人とも説明した通りだ。シュトラウドが、ミノタウロスの気を引いている内に殿下達の所へ向かう」
「で、でも!」
「ミリアーデ、すまないが決まったことだ。これ以上話しをしている暇はない。急いでここから離れるぞ」
フレア先生の話しを聞いて、今度はリーゼが納得いかない様子だったが、半ば強引に先生が連れて行ってくれた。
去り際に、ゼシカが
「すまない」
と言った。
その時の顔は、悪役令嬢となる人物がするようなものとは思えなかった。
俺を1人残すことを許せなかったり、それでも殿下の元に早く駆けつけたい気持ちが色々と混ざり合っているようだった。
「他の貴族達の態度が酷いから変な感じだ」
「公爵令嬢は、平民だからというだけで差別するような人間ではありませんでしたね」
「お前な、リーゼ達が居なくなったからって急に姿見せるなよ。もし、戻ってきたりしたらどうするんだよ」
「もし、戻って来るのならわざわざ姿を見せません。それに、誰もマスターの所に戻ろうとしている人達はいません。必死に王子達の元へ向かっています」
「嫌な言い方するなよ。ゼシカはともかく、リーゼやフレア先生は俺の事も心配しながら走っている筈だ・・・心配してくれてると良いな」
「どうして、そこで弱気になるのか。先程、フレア先生から言われたことを覚えていないのでしょうか」
「ちゃんと、覚えているよ! 絶対死ぬなって言ってくれた」
「マスターも、あの方達を死なせたくないからミノタウロスの相手をすると言ったのでしょう? ならば、気合いを入れて下さい」
「分かっているよ。全く、もうちょっとやる気を出させるやり方を考えてくれないものかね・・・あっ! てか、お前なんでここに居るんだよ。先生達守れって言ったじゃねぇか」
「心配しなくても、すでにこのエリアの構造は理解しました。私が、何処に居ても対処出来ます」
「う~ん、まあ、それなら良いけど」
「不満ですか?」
「いや、優秀な相棒がいてくれて嬉しいんだけど、だからこそリーゼや先生達の方にいて欲しかったというか・・・別に俺は死んでも良いけど、俺に優しくしてくれる人達に死んで欲しくないからさ」
「あの方達は、マスターが死ぬことも悲しまれるかと思いますが」
「そうだな、そうならないように頑張りますか」
足を伸ばしたり曲げたり、その場で軽く体を動かす。
「トレーニングを厳しくしすぎましたかね。今の自己犠牲の考え方は早急に直す必要がありますね」
「うん? 何か言ったか?」
「いえ、それより、また動き出しますよ」
アルファが何を言ったか聞こえなかったが、聞き直す前にミノタウロスが俺の方を見ているのに気付いた。
俺の方をジッと見た後、周りを見回し始めた。
恐らく、リーゼを探しているのだろう。
リーゼの気配を感じたのか、体の向きを変えて動き出そうとしていた。
もちろん、それを俺が簡単に許す訳もなく、もう一度『火球』をミノタウロスの顔に向けて放った。
火球に気付いたミノタウロスは、腕を顔の前に上げて防いだ。
「おっ、今度は防いだか」
魔法を撃っていた俺に気付いたミノタウロスは咆哮を上げて、威嚇をしてきた。
「グォォォ~~~~~~~!!!!!」
「悪いけど、リーゼ達の方には行かせないからな」
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