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その時、店の方からガシャンっと大きな音がした。
「なんだ?」
二人は慌てて下に降りるとカウンターの中にガラスが散っていた。上を見ると小さな小窓が割れ、そこから雪と風が吹き込んでいた。
「あんな所に窓あったんだ」
「ヤバイな。雪が吹き込んできてる。補強で使った板あるか?」
「あ、はい。持ってきます」
雪明は二階の物置きに使っている、押入れから板と工具を手に再び下に降りた。
それを渡すと、源一郎は手際良く応急処置してくれる。
「外からもやらないとダメだな」
「危ないですよ!」
「ここがまたぶち抜けたら、そこにある酒がダメになる」
窓の正面には、お客がキープしているボトルが並んでいる。
「で、でも……」
「この前、俺が入れたウィスキーのボトルもあるんだよ」
だったら、自分のボトルだけ避ければいいはずだ。源一郎の不器用な優しさなのだと感じた。
「じゃ、俺も手伝います」
「いい、逆に邪魔だ。大人しく上で待ってろ」
源一郎は声を荒げ、思わず源一郎のその声にびくりと肩を揺らした。
「はい……あ、あの気を付け下さい」
源一郎は少し呆けたような表情をすると、雪明の髪をくしゃりと撫でた。
「すぐ戻る」
そう言って、源一郎は壁に掛かっていた自分のダウンを羽織り、工具を手に店の扉を開けた。
ビュウ! と風と雪が店に吹き込んだ。
仕方なく雪明は源一郎に言われた通り二階で待つ事にした。手持ち無沙汰で、夕飯の用意をしようと冷蔵庫を開けた。
(大丈夫かな、源さん……)
現在外は爆弾低気圧の最大のピークであり、立っているのもやっとのはずだ。
源一郎がいてくれて良かったと、心底思った。源一郎にしてみれば、家に帰れず災難だっただろう。雪明は慣れない雪国で、始めて経験する爆弾低気圧に怯えていたが、源一郎がいてくれた事で随分と心強く感じ、内心酷く安心していた。
そして、源一郎に惹かれていた。
あんな事があって、源一郎とは距離を取った。昨日から共に過ごし、知れば知るほど源一郎の中身に惹かれていた。男らしく頼り甲斐があり、そして何より不器用ながらにも優しい源一郎。
無意識に、首元にある痕に手を当てた。
階下から、バタン! と大きな音がし、どうやら源一郎が戻ってきたようだ。
「源さん! 大丈夫でした……源さん! どうしたんですか⁉︎」
戻ってきた源一郎は、顔を抑えていた。抑えた手からは血が流れている。
「木の枝みてぇの飛んできて、直撃した……」
雪明は源一郎をソファに座らせると、タオルを渡した。一瞬にしてタオルが真っ赤に染まっていく。
「源さん……」
「何、泣きそうな顔してんだよ」
源一郎は痛みで顔を歪めながらも、雪明の頭に手を置いた。
タオルを少しずらし傷口を見ると、額の真ん中が三センチ程切れていた。
「病院行きますか? 結構、深いかも……」
「いい、こんな天気に行けるわけねえだろ」
病院は諦め、雪明は救急箱を持ってくると源一郎の前に膝をついた。
「手当てさせて下さい」
黙々と雪明は源一郎の手当てを始めると、源一郎も目を瞑り大人しくしている。
真近で見る源一郎の顔。鼻が高く薄くて大きい口元。彫りの深さが良く分かる。時折、閉じられた瞼がピクピクと動いた。
(ホクロがある)
源一郎の目尻の横に小さなホクロがあった。ふと、そんな事を前にも思った気がした。
こんな至近距離で一体いつ源一郎を見たのか。
「俺に触られて、嫌じゃないですか?」
不意にそんな言葉が出た。
「あ? あぁ……俺はゲイは嫌いだけど、おまえが嫌いなわけじゃない」
その言葉に雪明は涙が出そうになり、源一郎が目を閉じたままで良かったと雪明は思った。
「とりあえずこれで」
額にガーゼを貼ると、雪明は源一郎から離れる。もっと触れていたいと思ってしまい、これ以上は危険だと感じた。
「サンキュー、雪。つか、腹減った。メシくれ」
いつもの不躾な言葉に雪明は思わず吹き出した。
「全く、源さんにシリアスな雰囲気ってないんですね」
「そんなもん、あるか」
「オムライスでいいですか?」
雪明は源一郎の返しを予想する。
『そんな子供染みた食い物食えるか』
だが返って来た答えは、
「好物だ」
思わず雪明は吹き出すと、
「意外と子供舌なんですね」
そう言うと、源一郎は顔を赤らめ、
「悪いか」
不貞腐れたように顔を赤らめ背けてしまった。
また一つ、意外な源一郎の一面を知った。
「なんだ?」
二人は慌てて下に降りるとカウンターの中にガラスが散っていた。上を見ると小さな小窓が割れ、そこから雪と風が吹き込んでいた。
「あんな所に窓あったんだ」
「ヤバイな。雪が吹き込んできてる。補強で使った板あるか?」
「あ、はい。持ってきます」
雪明は二階の物置きに使っている、押入れから板と工具を手に再び下に降りた。
それを渡すと、源一郎は手際良く応急処置してくれる。
「外からもやらないとダメだな」
「危ないですよ!」
「ここがまたぶち抜けたら、そこにある酒がダメになる」
窓の正面には、お客がキープしているボトルが並んでいる。
「で、でも……」
「この前、俺が入れたウィスキーのボトルもあるんだよ」
だったら、自分のボトルだけ避ければいいはずだ。源一郎の不器用な優しさなのだと感じた。
「じゃ、俺も手伝います」
「いい、逆に邪魔だ。大人しく上で待ってろ」
源一郎は声を荒げ、思わず源一郎のその声にびくりと肩を揺らした。
「はい……あ、あの気を付け下さい」
源一郎は少し呆けたような表情をすると、雪明の髪をくしゃりと撫でた。
「すぐ戻る」
そう言って、源一郎は壁に掛かっていた自分のダウンを羽織り、工具を手に店の扉を開けた。
ビュウ! と風と雪が店に吹き込んだ。
仕方なく雪明は源一郎に言われた通り二階で待つ事にした。手持ち無沙汰で、夕飯の用意をしようと冷蔵庫を開けた。
(大丈夫かな、源さん……)
現在外は爆弾低気圧の最大のピークであり、立っているのもやっとのはずだ。
源一郎がいてくれて良かったと、心底思った。源一郎にしてみれば、家に帰れず災難だっただろう。雪明は慣れない雪国で、始めて経験する爆弾低気圧に怯えていたが、源一郎がいてくれた事で随分と心強く感じ、内心酷く安心していた。
そして、源一郎に惹かれていた。
あんな事があって、源一郎とは距離を取った。昨日から共に過ごし、知れば知るほど源一郎の中身に惹かれていた。男らしく頼り甲斐があり、そして何より不器用ながらにも優しい源一郎。
無意識に、首元にある痕に手を当てた。
階下から、バタン! と大きな音がし、どうやら源一郎が戻ってきたようだ。
「源さん! 大丈夫でした……源さん! どうしたんですか⁉︎」
戻ってきた源一郎は、顔を抑えていた。抑えた手からは血が流れている。
「木の枝みてぇの飛んできて、直撃した……」
雪明は源一郎をソファに座らせると、タオルを渡した。一瞬にしてタオルが真っ赤に染まっていく。
「源さん……」
「何、泣きそうな顔してんだよ」
源一郎は痛みで顔を歪めながらも、雪明の頭に手を置いた。
タオルを少しずらし傷口を見ると、額の真ん中が三センチ程切れていた。
「病院行きますか? 結構、深いかも……」
「いい、こんな天気に行けるわけねえだろ」
病院は諦め、雪明は救急箱を持ってくると源一郎の前に膝をついた。
「手当てさせて下さい」
黙々と雪明は源一郎の手当てを始めると、源一郎も目を瞑り大人しくしている。
真近で見る源一郎の顔。鼻が高く薄くて大きい口元。彫りの深さが良く分かる。時折、閉じられた瞼がピクピクと動いた。
(ホクロがある)
源一郎の目尻の横に小さなホクロがあった。ふと、そんな事を前にも思った気がした。
こんな至近距離で一体いつ源一郎を見たのか。
「俺に触られて、嫌じゃないですか?」
不意にそんな言葉が出た。
「あ? あぁ……俺はゲイは嫌いだけど、おまえが嫌いなわけじゃない」
その言葉に雪明は涙が出そうになり、源一郎が目を閉じたままで良かったと雪明は思った。
「とりあえずこれで」
額にガーゼを貼ると、雪明は源一郎から離れる。もっと触れていたいと思ってしまい、これ以上は危険だと感じた。
「サンキュー、雪。つか、腹減った。メシくれ」
いつもの不躾な言葉に雪明は思わず吹き出した。
「全く、源さんにシリアスな雰囲気ってないんですね」
「そんなもん、あるか」
「オムライスでいいですか?」
雪明は源一郎の返しを予想する。
『そんな子供染みた食い物食えるか』
だが返って来た答えは、
「好物だ」
思わず雪明は吹き出すと、
「意外と子供舌なんですね」
そう言うと、源一郎は顔を赤らめ、
「悪いか」
不貞腐れたように顔を赤らめ背けてしまった。
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