19 / 107
第一章 荒神転生
1-19 刺客
しおりを挟む
「こんなところで刺客が現れるなんて」
サリーも渋い顔で、そのあまり身元を特定する手掛かりになりそうなものは身に着けていない暗殺者の顔を検分していた。
一人は痩せぎすの背の高い男で、もう一人はやや太目でずんぐり体形だ。髪や目の色などもありふれた物で特徴にはなりえない。
「こいつらに見覚えはないか?」
彼女は無言で首を振った。
「私もありません。この界隈の、この手の人間ではないでしょう。もしかしたらアクエリアの王都から派遣されたのかもしれませんな」
ヘルマスもそう言って顎に手を当てている。ルナ姫様も俺の毛皮をぎゅっと握り締めながら奴らの顔を見詰めていた。
俺はルナ姫が捕まっているのと反対側の前足でそっと彼女の頭を撫でて、安心するように鼻面を寄せてやった。
「心配するな。お前は俺が守る。グリー達も頼りになるぞ」
いや、本当に俺だけだといきなり魔法攻撃を食らっていたかもしれん。
俺は魔力のレーダーと五感を研ぎ澄まし探っていたが、遠方にいる敵意を持った人間を探り出すような芸当はできないのだから。何か魔道具が欲しいところだが、今は無理だ。
「うん。ありがとう。でも本当に殺し屋が来たんだ。こんな荒野の真ん中にまで」
少し硬い声と表情でそう返したルナ姫。
ああ、今までは『来るかも』だったんだよな。こうして実際に襲われれば、それは既に現実の脅威だ。
いくら大人びた王女様とはいえ、五歳の幼女にはきつかろう。俺はもう一度鼻面で幼女の頭にスキンシップを取ってから、難しい顔をしている女騎士に向かって問うた。
「サリー、今晩はどうする。こうなると街に泊まるのは却ってマズイかもしれん」
「ええ、どうしたものかと思案しておりますが」
宿屋の部屋に2人だけだと襲撃を受けるかもしれない。かといって、一般の宿屋で俺やグリーがお部屋付きは無理だろう。
状況次第で野宿も止む無しの展開か。幸いにして馬車で移動しているので、二人が中で寝れない事もない。
俺は寝ずの番でも大丈夫だし、グリー達も何かあればすぐ起きてくれる。御寝坊なサリーあたりとは訳が違う野生の戦士なんだぜ。
「とりあえず、進もう。今まで以上に警戒して。まだ仲間がいるかもしれないが、一度撃退したので、そいつらも警戒しているかもしれないな」
そして油断なく警戒しながら馬車を進める事にした。心なしか、周囲の空気さえ重く感じる。あたりに降り注ぐ光量も少し減少した気がする。空は雲一つない、大変いいお天気なのだがね。
こういう時は探知の能力を持った冒険者がいるといいのだが、残念ながらヘルマスはそういうタイプではなかった。
一人でマルチパーパスに仕事ができるタイプだし護衛の役も兼ねるので、特にシーフではないのだ。俺は彼に訊いてみた。
「どうする。こうなったら、やはり次の街で冒険者を雇って対抗した方がいいのだろうか」
だが彼も馬車を操縦しつつ、やや難しい顔で答えた。
「その辺はまた振り出しに戻るというか、本当に難しいところでして」
「やっぱりそうなるのかあ」
できるくらいなら最初からやっているからな。
「フィア、お前はどうだい」
「うーん、あたしはナビゲーター的というかマニュアル的な存在ですからねえ。ああ、ロキ様に応援を寄越していただくのはいかがでしょうか」
「応援?」
「ええ。探知に優れている者を派遣していただくか、あるいは」
「あるいは?」
彼女の少し悪戯っぽい表情は、何かちょっと嫌な予感がするな。
「そんな必要さえないような強力な援軍を」
「うわっ。た、たとえばどのような」
「そうですね。『あなたの兄弟姉妹』みたいな方とか」
話に耳をそばだてていた馬車の中のサリーが息を呑んだ。
「さすがにそれはヤバくないか?」
「でも、このままだとジリ貧ですよ。こんな事は我々が想定していない事態なんですからね。今の装備だと対抗するのが難しいのではないですか」
うーん、それも考え物なのだが、アポックスで何かいい物が取り寄せられないものだろうか。
「もうちょっと何か対策を考えよう。あまり妙な真似をしてもルナ姫様の評判に関わるだろうしな」
「そうですか、ではもう少しランクを落とした援軍を寄越せないか訊いておきますね」
「まあ、それくらいならいいかなあ」
援軍はぜひとも欲しいところだな。せっかく楽しく旅をしていたというのに、ちょっと先の雲行きが怪しくなってきた。
サリーも渋い顔で、そのあまり身元を特定する手掛かりになりそうなものは身に着けていない暗殺者の顔を検分していた。
一人は痩せぎすの背の高い男で、もう一人はやや太目でずんぐり体形だ。髪や目の色などもありふれた物で特徴にはなりえない。
「こいつらに見覚えはないか?」
彼女は無言で首を振った。
「私もありません。この界隈の、この手の人間ではないでしょう。もしかしたらアクエリアの王都から派遣されたのかもしれませんな」
ヘルマスもそう言って顎に手を当てている。ルナ姫様も俺の毛皮をぎゅっと握り締めながら奴らの顔を見詰めていた。
俺はルナ姫が捕まっているのと反対側の前足でそっと彼女の頭を撫でて、安心するように鼻面を寄せてやった。
「心配するな。お前は俺が守る。グリー達も頼りになるぞ」
いや、本当に俺だけだといきなり魔法攻撃を食らっていたかもしれん。
俺は魔力のレーダーと五感を研ぎ澄まし探っていたが、遠方にいる敵意を持った人間を探り出すような芸当はできないのだから。何か魔道具が欲しいところだが、今は無理だ。
「うん。ありがとう。でも本当に殺し屋が来たんだ。こんな荒野の真ん中にまで」
少し硬い声と表情でそう返したルナ姫。
ああ、今までは『来るかも』だったんだよな。こうして実際に襲われれば、それは既に現実の脅威だ。
いくら大人びた王女様とはいえ、五歳の幼女にはきつかろう。俺はもう一度鼻面で幼女の頭にスキンシップを取ってから、難しい顔をしている女騎士に向かって問うた。
「サリー、今晩はどうする。こうなると街に泊まるのは却ってマズイかもしれん」
「ええ、どうしたものかと思案しておりますが」
宿屋の部屋に2人だけだと襲撃を受けるかもしれない。かといって、一般の宿屋で俺やグリーがお部屋付きは無理だろう。
状況次第で野宿も止む無しの展開か。幸いにして馬車で移動しているので、二人が中で寝れない事もない。
俺は寝ずの番でも大丈夫だし、グリー達も何かあればすぐ起きてくれる。御寝坊なサリーあたりとは訳が違う野生の戦士なんだぜ。
「とりあえず、進もう。今まで以上に警戒して。まだ仲間がいるかもしれないが、一度撃退したので、そいつらも警戒しているかもしれないな」
そして油断なく警戒しながら馬車を進める事にした。心なしか、周囲の空気さえ重く感じる。あたりに降り注ぐ光量も少し減少した気がする。空は雲一つない、大変いいお天気なのだがね。
こういう時は探知の能力を持った冒険者がいるといいのだが、残念ながらヘルマスはそういうタイプではなかった。
一人でマルチパーパスに仕事ができるタイプだし護衛の役も兼ねるので、特にシーフではないのだ。俺は彼に訊いてみた。
「どうする。こうなったら、やはり次の街で冒険者を雇って対抗した方がいいのだろうか」
だが彼も馬車を操縦しつつ、やや難しい顔で答えた。
「その辺はまた振り出しに戻るというか、本当に難しいところでして」
「やっぱりそうなるのかあ」
できるくらいなら最初からやっているからな。
「フィア、お前はどうだい」
「うーん、あたしはナビゲーター的というかマニュアル的な存在ですからねえ。ああ、ロキ様に応援を寄越していただくのはいかがでしょうか」
「応援?」
「ええ。探知に優れている者を派遣していただくか、あるいは」
「あるいは?」
彼女の少し悪戯っぽい表情は、何かちょっと嫌な予感がするな。
「そんな必要さえないような強力な援軍を」
「うわっ。た、たとえばどのような」
「そうですね。『あなたの兄弟姉妹』みたいな方とか」
話に耳をそばだてていた馬車の中のサリーが息を呑んだ。
「さすがにそれはヤバくないか?」
「でも、このままだとジリ貧ですよ。こんな事は我々が想定していない事態なんですからね。今の装備だと対抗するのが難しいのではないですか」
うーん、それも考え物なのだが、アポックスで何かいい物が取り寄せられないものだろうか。
「もうちょっと何か対策を考えよう。あまり妙な真似をしてもルナ姫様の評判に関わるだろうしな」
「そうですか、ではもう少しランクを落とした援軍を寄越せないか訊いておきますね」
「まあ、それくらいならいいかなあ」
援軍はぜひとも欲しいところだな。せっかく楽しく旅をしていたというのに、ちょっと先の雲行きが怪しくなってきた。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる