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第一章 荒神転生

1-25 タピオカ会議

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 朝っぱらからの厳しい攻防を終えて、全員が少し仮眠を取った。さすがにみんな疲れていたようで、それはもうぐっすりだ。

 見張りは俺と鳥どもが担当して、全員が起きた時にはもう太陽は頂点を示し、貴重な一日が半分過ぎ去ってしまった。

 俺はもう飯の支度をするのが面倒になってしまって、コンビニ弁当などを異世界召喚ボックスのアポックスで召喚した。

 初めて見る異世界の飲食物に、うちの三馬鹿トリオは戸惑っていたようだったが。プラスチックとかビニールとか見た事がないような包装で、派手な印刷もされているし、書いてある漢字とか読めないからな。そして、割り箸やお手拭きなども、まったく御馴染みではないだろう。

「スサノオ殿、ここは一つ唐揚げ弁当でお願いいたします」
 サリー嬢がきっぱりと唐揚げ弁当をご希望だったので、唐揚げ弁当を彼女用にがっつり三個という、完全に何かに憑りつかれたかのようなメニューだった。

 ルナ姫は何にしようか凄く迷ったらしいが、俺用にいろんな弁当などを取り寄せた物の中から、好きな物を取って食べさせた。

 栄養が偏らないようにサラダと卵とオレンジジュースは付けさせたが。ヘルマスはサラダにおにぎり、そしてペットボトルの日本茶という渋いチョイスだ。

 ドリンクも渋めのチョイスなのだ。もう本当は何もかもを全部わかっていて選んでいるとしか思えないくらいの渋さだ。

 おにぎりの具は、梅や高菜に昆布、そして五目飯という日本人でも渋めに入るチョイスだった。全部生まれてこの方食べてきたみたいな感じに、実に美味そうに食っていたが、本当かよ。

 鳥どもは、俺と一緒にあれこれを試食していった。奴らも図体はでかいから食う量は多いしな。雑食で何でも食えるが、肉がメインだ。

 あの地球の大昔の大型鳥類のような、太くて鋭い凄い嘴を見ればわかるわ。でもダチョウっぽい姿で、ダチョウ同様に雑食なんだよな。面白い連中だ。

 結局、新入りの三馬鹿どもは、スパゲティのナポリタン・カルボナーラ・ミートソースという王道メニューに、焼きそば、お好み焼き、おにぎりに、何故かまた焼きそばパンというありえない炭水化物メニューになっていた。

 こいつら、うどん定食とかラーメンライスなんかの純炭水化物セットあたりも好きそうだよな。

「こりゃあ、なかなか美味いな」
「いや、焼きそばパン最高だぜ!」

 異世界でも焼きそばパンの人気は健在だな。いや、俺もこいつは昔から好きでさ、小腹が空くと思わずおやつにチョイスしちまうのだが。

「焼きそばにお好み焼きもいいな。この赤い奴がまた美味い」
 スキンヘッド野郎のウォーレンと来たら、また渋い趣味だな。紅ショウガが御気に召したようだ。

 気になったらしく、ルナが一本貰っていたが慌てて吐き出していた。お子様にはまだ早い味だったか。

 そして、お茶で一服つけてから少し打ち合わせをした。
「それで大将。今後の方針は?」

「ああ、とにかく王都へ急ごう。この先まだ襲撃を受けかねない情勢なのだから、早く行った方がいいだろう。宿泊は街で。荒野で襲われたら敵は殲滅する。街で襲われた時が困るな。アレン、街中でもこの間の時並みに、襲撃でやられる事があると思うか?」

 彼は難しい顔をしていたが、お好み焼きのパックの蓋を閉めて、既に何故か初めて使うにも関わらず使いこなしている割り箸もろともポリエチレン製のゴミ袋に入れてから、おもむろに口を開いた。

「大いにありうるとしか言いようがないな。あまり治安のよくないような変な街には入らない方がいい。俺達が加わったので、そういうところしかないのなら野宿の方が安全なくらいだ。飯もこんな風に食えるんだしな。まったく神の子の力っていうのは凄いものだ。

 何もあの第一王妃が自分の兵隊を使っているわけじゃないんだ。金のために命を切り売りする連中なんて幾らでもいるし、あいつらは強引だからな。

 何しろ、このあたりでは有数の大国の第一王妃なんだぞ。使える金には事欠かないし、母国が王子か何かを婿に送り込んでひも付きにしようとして、たくさん支援をするに決まっている。

 当然、今までもやっていただろうよ。だから、一回の襲撃であの数の襲撃者がいるんだ。へたをすると、王妃の母国からでも手練れの刺客を調達してくるぞ。あそこはアクエリアの隣国だから、魔法強化馬かグリーのような持久力とスピードのある魔物にでも乗ってくれば早くやってこれる。

 あの国は荒事に裏の人間を使うので有名な連中だ。常時多数のアウトローを雇っているからな。俺達実力派のマルーク兄弟でさえ、あまり関わり合いになりたくないくらいさ。

 俺達は冒険者でもアウトローでもない。本来は自分達のスキルに見合った、高額報酬の仕事を請け負うだけの人間だ。殺しや犯罪が絡むような仕事は本来手を出さないはずなのに、今回はなあ。おかげでこんな事になっちまっているのだし。やっぱり、ついてねえわ」

「うーむ。やっぱり厳しいか。ヘルマス、今日はどこに泊まる」
「そうですな」

 彼はトロピカルな外装デザインのタピオカドリンクを一口啜ってから、考えを巡らせた。こいつは全員が啜っているんだけどね。最近は結構タピオカブームだったし。

「ここから一日ほどの場所にある大きめの街、グタへ行くのはいかがでしょう。主街道沿いの宿場町としての機能もございましてな。大きめの安心できる街に泊まりたいのは、何も我々のような特殊事情のある者に限りませぬ。

 先ほどのアレン殿の話にもありましたように、小さな街などは、やはりお薦めできませんな。グタは、この界隈の大きめの街から街への移動の拠点によいのです。本日の午後に頑張って到着しておけば、後の行程は楽になりましょう。

 半日ほどであれば、馬車を引く馬も私の魔法で多少の無理は利きます。新メンバーの御三方はグリーと組んで警護してくだされば、特に問題はないかと」

「それがいい」
 アレンも賛成してくれた。

「あいつらの事だ。またすぐ襲撃がないとも限らない。この後さっそくでもね」
 顔半分を隠した髪を弄りながら、そう陰気に笑うグレン。案外と本当にありそうな話で、こええな。

「次の街で、できたらベルバードを手に入れられないもんかね」
 スキンヘッドの巨漢ウォーレンがふと、そのような事を言いだした。

「おお、その手もあったな。手に入ればの話だが」
 グレンも賛同してくれる。何だ、そいつは。そして俺が首を傾げているのを見て、アレンが解説してくれた。

「ああ、そいつは別名『シーフバード』といってなあ、襲撃者を感知してくれるのさ。今回みたいに冒険者などを雇い辛い旅にはぴったりだぜ。

 生憎と俺達は、荒事はこなすが冒険者でもなんでもない。そのあたりの能力はシーフバードであるベルバードの方が一枚も二枚も上さ。このメンバーで一番感知力が高いのは、他でもない。あなたさ、主殿よ。その次が鳥どもで、俺達とヘルマン殿がどっこいってところかな」

「じゃあ、そいつは仕入れるという事で決まりだな」
 だが、彼は少し顔を顰めた。あれ、言い出したくせに何か面倒な事があるのか?

「生憎と、あれはどこでも品薄なんだよな。商会のキャラバンとか、冒険者で感知が弱いパーティとかが買っていくからだ。あれが命綱になってしまうような場合が往々にしてあるので、そういう連中は皆どこかであの鳥を見かけたら、すぐに買うようにしているのさ。

 かなり大きな街でないと売っていないし、在庫がない場合も多いのだ。そして、もう一つ。かなり高いから覚悟してくれ。わかるよな」

 俺は渋々と頷いた。そういうものは経済の基本原理ではあるのだ。第一、金に糸目をつけているような状況じゃない。どうせ父からは「人界でバラまいてこい」と言われて、大金を持たせられてきたのだから。
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