29 / 107
第一章 荒神転生
1-29 小さなお客様
しおりを挟む
『起きて。お願いだから起きてください』
何かが俺の耳元で囁いている。そしてつつくのだ。何か可愛らしい尖ったもので。
この口調はルナじゃあないな。そして敵でもなさそうだ。敵が来たなら、俺は飛び起きて戦闘態勢に入っていただろう。というか、話しかけてくる声は人間の言葉ではないようだった。
『んー、なんだ。敵も来ないんだから大人しく寝かせてくれよ』
『助けてください、フェンリル様。偉大なるロキの息子様よ』
俺は、仕方がないのでむっくりと体を起こした。人に非ざる者に父の名を口に出して懇願されちゃあな。
そして、俺の顔の傍にいたそいつは、その拍子に力なく転がりおちてしまった。俺は慌ててそいつを前足でそっと優しく拾い上げた。どうやら少し小さめの鳥のようだった。
『あ、悪い。大丈夫だったか』
『すみません。いつもならこんな事はないのですが、怪我をして弱っているのです』
ああ、本当だ。確かに血の匂いがする。よく見ると、羽根などに浅くない怪我をしているようだ。体が痙攣気味に震えている。
ヤバイな、これ。神に救いを求めてきた者を死なせてしまうわけにはいかん。父にバレたら雷が落ちるじゃあないか。
あの人って、そういう事にはすげえ煩いんだよな。これが政治家だったのなら地元から懇請に来た有権者には、どんなに忙しくても必ず会って話を聞くようなタイプなのだ。俺は当座しなければならない準備をしながら尋ねた。
『お前は何故ここへ?』
『はい、私はベルバード。あなた様の波動をキャッチしたので、お慈悲と御情けをいただきたく夜中に失礼と思いつつも、こうしてまいった次第でございます』
『ベルバード⁉』
俺達が探していた奴が、わざわざ向こうからやってきて、しかもこの俺に助けを求めているのだと。
『まず、その怪我を治そう』
そう言って俺が取り出したのは、ポーション。いわゆる、ヒールポーションだ。
魔物にも効くし、自分用に必要なのかどうなのかわからなかったが、ギルドで各種仕込んでおいたのだ。
瓶の口をきゅっと指の間に挟み器用に蓋を取ると、さーっとベルバードの体全体にふりかけてみた。
こういう物の用法・容量ってどうなのだろう。地球の医薬品のように、いちいちくどいほど書いてくれてない。というか説明書などついていない。
「そんなものは知っていて当然」の世界でありますので。まあちゃんと知っていないと死んでしまうような冒険者ギルドという部署での販売品なのだがな。
そいつは夜中に、きらきらとした光を全身から零れるように立ちぼらせ、瞬く間に回復したようだ。体が小さいのに、瓶一本分、全部使っちゃったからな。
『ありがとうございます。奴等から逃げる際に怪我を負ってしまって』
『奴ら?』
『私達を攫っている連中です。奴らはわたしたちの仲間を盗み、捕えているのです。皆大切にされていましたから、元の主人やお店に帰りたがって泣いております。私はベルバードには珍しく、魔法が使えましたので逃げてこれたのですが、逃げる際に傷を負わされまして、この有様です』
『どんな連中なのだい?』
『盗賊団ですわ。首領は、元軍の上の方にいた奴で、悪事がばれて追放されたため悪行を重ねています。あとは軍人崩れや冒険者崩ればかりを集めて手強いので、なかなか捕まらないのです。
お願いです。私の仲間を助けてください。それに、あいつらは他人のベルバードを奪い、自分達だけが所有する事で仕事をやりやすくしているのです。このままでは被害が拡大するばかりで』
『そうだったのか』
禄でもねえな。
まあ、狡賢いと言えない事もない。この馬の目を抜くような厳しい異世界では賢いと褒められる部類に入るのかね。だが、行かないわけにもいくまい。
俺は隣の部屋で寝ているヘルマスをそっと起こした。というか、起こす必要すらない。男衆四人は、俺の気配を察知して既に起きている。
さすがだな、サリーのようにポンコツな奴はこの中には一人もいない。あいつだって寝こけているんでなければ、それなりにやれる奴なんだが。俺は、男衆にかいつまんで説明すると宣言した。
「そういう訳で、ちょっと行ってくるので、ここの守りはよろしくな」
「任されました」
「また変な話を受けてきたもんだな」
「まあ神の子なんだから仕方がない」
「ついでに一羽うちに来てもらってくれよ、大将」
だが、俺の肩に止まっていたベルバードが言った。
『フェンリル様、仲間を助けていただけたのなら、私が御奉公させていただきますので』
「ウォーレン、こいつが来てくれるとよ。では行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
まるで執事のように見送ってくれるヘルマスと、欠伸しながら布団に潜り込む三人を横目に俺は部屋をするっと抜け出した。
俺は器用なので、尻尾で音もなくドアを閉めていくんだが。しかし、あいつらめ、ブーツを履いたまま寝てやがるのか。職業病だな。
見上げた根性だが、絶対に水虫確定だな。今度いい薬を召喚するか。我が眷属どもに日本の製薬会社の加護を与えるとしよう。
何かが俺の耳元で囁いている。そしてつつくのだ。何か可愛らしい尖ったもので。
この口調はルナじゃあないな。そして敵でもなさそうだ。敵が来たなら、俺は飛び起きて戦闘態勢に入っていただろう。というか、話しかけてくる声は人間の言葉ではないようだった。
『んー、なんだ。敵も来ないんだから大人しく寝かせてくれよ』
『助けてください、フェンリル様。偉大なるロキの息子様よ』
俺は、仕方がないのでむっくりと体を起こした。人に非ざる者に父の名を口に出して懇願されちゃあな。
そして、俺の顔の傍にいたそいつは、その拍子に力なく転がりおちてしまった。俺は慌ててそいつを前足でそっと優しく拾い上げた。どうやら少し小さめの鳥のようだった。
『あ、悪い。大丈夫だったか』
『すみません。いつもならこんな事はないのですが、怪我をして弱っているのです』
ああ、本当だ。確かに血の匂いがする。よく見ると、羽根などに浅くない怪我をしているようだ。体が痙攣気味に震えている。
ヤバイな、これ。神に救いを求めてきた者を死なせてしまうわけにはいかん。父にバレたら雷が落ちるじゃあないか。
あの人って、そういう事にはすげえ煩いんだよな。これが政治家だったのなら地元から懇請に来た有権者には、どんなに忙しくても必ず会って話を聞くようなタイプなのだ。俺は当座しなければならない準備をしながら尋ねた。
『お前は何故ここへ?』
『はい、私はベルバード。あなた様の波動をキャッチしたので、お慈悲と御情けをいただきたく夜中に失礼と思いつつも、こうしてまいった次第でございます』
『ベルバード⁉』
俺達が探していた奴が、わざわざ向こうからやってきて、しかもこの俺に助けを求めているのだと。
『まず、その怪我を治そう』
そう言って俺が取り出したのは、ポーション。いわゆる、ヒールポーションだ。
魔物にも効くし、自分用に必要なのかどうなのかわからなかったが、ギルドで各種仕込んでおいたのだ。
瓶の口をきゅっと指の間に挟み器用に蓋を取ると、さーっとベルバードの体全体にふりかけてみた。
こういう物の用法・容量ってどうなのだろう。地球の医薬品のように、いちいちくどいほど書いてくれてない。というか説明書などついていない。
「そんなものは知っていて当然」の世界でありますので。まあちゃんと知っていないと死んでしまうような冒険者ギルドという部署での販売品なのだがな。
そいつは夜中に、きらきらとした光を全身から零れるように立ちぼらせ、瞬く間に回復したようだ。体が小さいのに、瓶一本分、全部使っちゃったからな。
『ありがとうございます。奴等から逃げる際に怪我を負ってしまって』
『奴ら?』
『私達を攫っている連中です。奴らはわたしたちの仲間を盗み、捕えているのです。皆大切にされていましたから、元の主人やお店に帰りたがって泣いております。私はベルバードには珍しく、魔法が使えましたので逃げてこれたのですが、逃げる際に傷を負わされまして、この有様です』
『どんな連中なのだい?』
『盗賊団ですわ。首領は、元軍の上の方にいた奴で、悪事がばれて追放されたため悪行を重ねています。あとは軍人崩れや冒険者崩ればかりを集めて手強いので、なかなか捕まらないのです。
お願いです。私の仲間を助けてください。それに、あいつらは他人のベルバードを奪い、自分達だけが所有する事で仕事をやりやすくしているのです。このままでは被害が拡大するばかりで』
『そうだったのか』
禄でもねえな。
まあ、狡賢いと言えない事もない。この馬の目を抜くような厳しい異世界では賢いと褒められる部類に入るのかね。だが、行かないわけにもいくまい。
俺は隣の部屋で寝ているヘルマスをそっと起こした。というか、起こす必要すらない。男衆四人は、俺の気配を察知して既に起きている。
さすがだな、サリーのようにポンコツな奴はこの中には一人もいない。あいつだって寝こけているんでなければ、それなりにやれる奴なんだが。俺は、男衆にかいつまんで説明すると宣言した。
「そういう訳で、ちょっと行ってくるので、ここの守りはよろしくな」
「任されました」
「また変な話を受けてきたもんだな」
「まあ神の子なんだから仕方がない」
「ついでに一羽うちに来てもらってくれよ、大将」
だが、俺の肩に止まっていたベルバードが言った。
『フェンリル様、仲間を助けていただけたのなら、私が御奉公させていただきますので』
「ウォーレン、こいつが来てくれるとよ。では行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
まるで執事のように見送ってくれるヘルマスと、欠伸しながら布団に潜り込む三人を横目に俺は部屋をするっと抜け出した。
俺は器用なので、尻尾で音もなくドアを閉めていくんだが。しかし、あいつらめ、ブーツを履いたまま寝てやがるのか。職業病だな。
見上げた根性だが、絶対に水虫確定だな。今度いい薬を召喚するか。我が眷属どもに日本の製薬会社の加護を与えるとしよう。
0
あなたにおすすめの小説
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた
ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。
遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。
「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。
「異世界転生に興味はありますか?」
こうして遊太は異世界転生を選択する。
異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。
「最弱なんだから努力は必要だよな!」
こうして雄太は修行を開始するのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる