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第一章 外れスキル【レバレッジたったの1.0】
1-14 上級冒険者の矜持
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そのバニッシュと呼ばれた彼を先頭に、三人の上級冒険者らしき冒険者が大暴れして、オークは瞬く間にぶち殺され、あるいは逃げ惑った。
ドワーフの彼以外は、武器すら持たぬビースト族の戦士と、人族らしきマントを翻し、苦も無く重量のありそうな大剣を振るう女性の剣士のようだった。
彼らの戦闘ぶりは明らかに一目で上級冒険者であると見て取れるものだった。
しかも、元は上級冒険者パーティにいた俺の目から見ても、相当の手練れとみた。
足手纏いの新人など連れてはいない。
さすがだなあ、俺は憧れの存在である上級冒険者の華麗に戦う姿に思わずうっとりとした。
そして彼女は俺達の方を見ると、にっこりと笑ってこう言ってくれた。
「新人の僕達、なかなかやるな。
よくぞこれだけのオークの山を作ったものよ。
でも、これだけ湧いた場合は新人なら、諦めてさっさと逃げた方がいいぞ」
「はあ、俺は逃げたかったんですがねえ……」
我ながら間抜けな真似をしちまったもんだ。
うっかりこんな醜態をブライアンに見られでもしようものなら、俺を追放した事さえ忘れて大激怒し、フルボッコで殴られたかもしれないほどの強烈無比の大失態だった。
「こいつら魔物は階層の中では一定数を保とうとする性質がある。
こういう仲間を呼び出す、いわゆる『魔物のコーリング』という状態になったら、倒した分だけダンジョンから湧き上がり殺到して常にお代わりが来る、最悪なデスパレードが発生するのだ」
それを聞いて青くなった俺は、そいつらの事を思いっきり睨んだ。
「おい今の話を聞いたか?
お前らが何をやっていたのか、よくわかったか」
「う、すいませーん」
「ごめんなさーい」
それを見てエルフのお姉さんは不思議そうな顔をして俺を見た。
「おや、彼らは君のお友達じゃなかったのか?」
「違いますよ。
俺は一人でオークを狩っていたら、このデスパレードに巻き込まれただけです。
いやあ酷い目に遭った。
助けていただいてありがとうございます」
「あははは。
君、それは災難だったな。
そうか、新人なのにもう一人でオークが狩れるのか」
「まあ、ここまで酷い事になっていなければね。
もう仕方がないので、俺がぶっ叩いてから止めはこいつらに任せて。
もう最後にはオークの死体に埋もれてしまいそうでした」
情け無さそうにしょぼくれる俺の話を聞いた彼女は、エルフに相応しい麗らかな笑い声を立てた。
「凄いね。全部で五十体はある。
なかなかたいしたものだ。
では、危なくないように見ていてあげるから魔石を取り出しなさい」
「え、でもいいのですか。
助けていただいたので魔石はあなた方に」
だが彼女は首を振ってこう言った。
「大丈夫だ。
上級冒険者の責務として、こういう場面では無償での救援が義務付けられているのでな。
それに君も怪我をしているし、あっちの重症だった子達の治療には相応のお金もかかるだろう。
回復魔法をかけてあげても、すぐに治るかどうかは本人の治癒力次第だからね」
「ありがとうございます」
俺は丁重に頭を下げ、他の二人も慌ててそれに続いた。
他の冒険者の人は、怪我人を診てくれていた。
どうやら回復のスキルと高価な上級ヒールポーションを使ってくれているようだ。
それも無償提供なのだ。
俺は彼らの上級冒険者としての矜持に頭が下がる思いだった。
そしてエルフの彼女は、俺に向かって何らかの呪文を唱えて回復のスキルを使ってくれていた。
「凄い、これは回復の……魔法?」
「ああ、エルフは特別な魔法を使えるから。
もちろんスクロールの恩恵のスキルはまた別物だな」
そして怪我人二人以外の三人で、せっせと魔石の回収に励んだ。
俺が積み上げたオークを広げるのは上級チームが手伝ってくれた。
エルフの彼女も凄いパワーでオークをポンポンと転がしていくので驚いてしまった。
彼らが倒した魔物は最初から魔石を取りやすい格好にしてくれてあって、その新人に対して細かい気配りを利かせた素晴らしい技巧に恐れ入った。
だが、あの新人連中はもたもたしていて手際が悪く、その好意さえも台無しにしてしまっている。
俺が五個魔石を取る間に、彼らは二人がかりで一個しか取れなかったのだ。
「オークの肉って固い~」
「君、よくそんなにすいすいと取れますね」
「馬鹿、こんなのまだ柔らかい方だぞ。
上級パーティが狩る、堅い革や鱗を持った魔物の解体なんかマジで泣けてくるからな。
今のうちに頑張って手際をよくしておけよ。
俺のいたチームなら、お前らなんか拳骨と蹴りの嵐で、あっちの怪我人のお仲間になっているぞ」
そして、そいつはようやく気がついたようで、おそるおそる命の恩人である俺の名を聞いてきた。
「あのう、あなたのお名前は」
「俺はリクル。お前らは」
「僕はレント、そっちがアンリに、あっちの怪我人の二人がケントとアリオンです」
そして集まった魔石は全部で五十七個あり、どうやら止めを刺さなくても幾らかは実績にはなるらしく、俺のスキル・バージョンは無事に3・0へと変わっていた。
スキル名は【レバレッジなんとか3.0】か。
本当にもう、なんとかって感じだな。
あの呪われたサイコロめ、今回の出目は六って出ていたが、本当に感謝するよ。
もしかしたら初回サービスの特典みたいな物があったのかもな。
どうやら初めて使った特殊技能は事態を良い方向へと動かしてくれたようだ。
もしこれで一の目が出ていたらとか思うとゾッとするわ。
絶対確実に死ねた自信があるね。
このサイコロ、浮き沈みが激しそうなんで、あんまり使いたくないわあ。
沈む時は、今回の対になるような激しくマイナスな出来事が起こるのだろう。
ドワーフの彼以外は、武器すら持たぬビースト族の戦士と、人族らしきマントを翻し、苦も無く重量のありそうな大剣を振るう女性の剣士のようだった。
彼らの戦闘ぶりは明らかに一目で上級冒険者であると見て取れるものだった。
しかも、元は上級冒険者パーティにいた俺の目から見ても、相当の手練れとみた。
足手纏いの新人など連れてはいない。
さすがだなあ、俺は憧れの存在である上級冒険者の華麗に戦う姿に思わずうっとりとした。
そして彼女は俺達の方を見ると、にっこりと笑ってこう言ってくれた。
「新人の僕達、なかなかやるな。
よくぞこれだけのオークの山を作ったものよ。
でも、これだけ湧いた場合は新人なら、諦めてさっさと逃げた方がいいぞ」
「はあ、俺は逃げたかったんですがねえ……」
我ながら間抜けな真似をしちまったもんだ。
うっかりこんな醜態をブライアンに見られでもしようものなら、俺を追放した事さえ忘れて大激怒し、フルボッコで殴られたかもしれないほどの強烈無比の大失態だった。
「こいつら魔物は階層の中では一定数を保とうとする性質がある。
こういう仲間を呼び出す、いわゆる『魔物のコーリング』という状態になったら、倒した分だけダンジョンから湧き上がり殺到して常にお代わりが来る、最悪なデスパレードが発生するのだ」
それを聞いて青くなった俺は、そいつらの事を思いっきり睨んだ。
「おい今の話を聞いたか?
お前らが何をやっていたのか、よくわかったか」
「う、すいませーん」
「ごめんなさーい」
それを見てエルフのお姉さんは不思議そうな顔をして俺を見た。
「おや、彼らは君のお友達じゃなかったのか?」
「違いますよ。
俺は一人でオークを狩っていたら、このデスパレードに巻き込まれただけです。
いやあ酷い目に遭った。
助けていただいてありがとうございます」
「あははは。
君、それは災難だったな。
そうか、新人なのにもう一人でオークが狩れるのか」
「まあ、ここまで酷い事になっていなければね。
もう仕方がないので、俺がぶっ叩いてから止めはこいつらに任せて。
もう最後にはオークの死体に埋もれてしまいそうでした」
情け無さそうにしょぼくれる俺の話を聞いた彼女は、エルフに相応しい麗らかな笑い声を立てた。
「凄いね。全部で五十体はある。
なかなかたいしたものだ。
では、危なくないように見ていてあげるから魔石を取り出しなさい」
「え、でもいいのですか。
助けていただいたので魔石はあなた方に」
だが彼女は首を振ってこう言った。
「大丈夫だ。
上級冒険者の責務として、こういう場面では無償での救援が義務付けられているのでな。
それに君も怪我をしているし、あっちの重症だった子達の治療には相応のお金もかかるだろう。
回復魔法をかけてあげても、すぐに治るかどうかは本人の治癒力次第だからね」
「ありがとうございます」
俺は丁重に頭を下げ、他の二人も慌ててそれに続いた。
他の冒険者の人は、怪我人を診てくれていた。
どうやら回復のスキルと高価な上級ヒールポーションを使ってくれているようだ。
それも無償提供なのだ。
俺は彼らの上級冒険者としての矜持に頭が下がる思いだった。
そしてエルフの彼女は、俺に向かって何らかの呪文を唱えて回復のスキルを使ってくれていた。
「凄い、これは回復の……魔法?」
「ああ、エルフは特別な魔法を使えるから。
もちろんスクロールの恩恵のスキルはまた別物だな」
そして怪我人二人以外の三人で、せっせと魔石の回収に励んだ。
俺が積み上げたオークを広げるのは上級チームが手伝ってくれた。
エルフの彼女も凄いパワーでオークをポンポンと転がしていくので驚いてしまった。
彼らが倒した魔物は最初から魔石を取りやすい格好にしてくれてあって、その新人に対して細かい気配りを利かせた素晴らしい技巧に恐れ入った。
だが、あの新人連中はもたもたしていて手際が悪く、その好意さえも台無しにしてしまっている。
俺が五個魔石を取る間に、彼らは二人がかりで一個しか取れなかったのだ。
「オークの肉って固い~」
「君、よくそんなにすいすいと取れますね」
「馬鹿、こんなのまだ柔らかい方だぞ。
上級パーティが狩る、堅い革や鱗を持った魔物の解体なんかマジで泣けてくるからな。
今のうちに頑張って手際をよくしておけよ。
俺のいたチームなら、お前らなんか拳骨と蹴りの嵐で、あっちの怪我人のお仲間になっているぞ」
そして、そいつはようやく気がついたようで、おそるおそる命の恩人である俺の名を聞いてきた。
「あのう、あなたのお名前は」
「俺はリクル。お前らは」
「僕はレント、そっちがアンリに、あっちの怪我人の二人がケントとアリオンです」
そして集まった魔石は全部で五十七個あり、どうやら止めを刺さなくても幾らかは実績にはなるらしく、俺のスキル・バージョンは無事に3・0へと変わっていた。
スキル名は【レバレッジなんとか3.0】か。
本当にもう、なんとかって感じだな。
あの呪われたサイコロめ、今回の出目は六って出ていたが、本当に感謝するよ。
もしかしたら初回サービスの特典みたいな物があったのかもな。
どうやら初めて使った特殊技能は事態を良い方向へと動かしてくれたようだ。
もしこれで一の目が出ていたらとか思うとゾッとするわ。
絶対確実に死ねた自信があるね。
このサイコロ、浮き沈みが激しそうなんで、あんまり使いたくないわあ。
沈む時は、今回の対になるような激しくマイナスな出来事が起こるのだろう。
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