異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

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第一章 幸せの青い鳥?

1-20 買い物三昧

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 それから、まだウインドウショッピングに執着する私を、ベロニカさんは強引に引き剥がして引き摺っていき、お洋服などの入用な物を売っているお店に連れて行ってくれた。

 この人、女騎士という触れ込みだけあって、見かけよりも遙かに力が強い。
 あの副団長が冗談でも強面っぽい方だとほのめめかすだけの事はある。

 もちろん、お洋服の店へも行きたかったのですが、初めての王都の華やかな街並みをもう少し堪能したかったのに。

 でも彼女には『むくつけき騎士団の紅一点』という、他の人であまり代替の利かなそうな任務があるのだろう。

 それは、おそらく大変忙しくて、私が彼女の貴重な工数を圧迫した分は後で仕事を手伝わされる事になるのは間違いない。

 まあとりあえず、あそこでの仕事をくださるというので、それは必然なのですがね。

 問題は、私にそれが可能なスキルのうりょくがあるかどうかなのだけれど。

 却ってお邪魔になってしまう可能性が、限りなく高レベルで存在する事が今から激しく想定されていますので、そのあたりが非常に鬱だった。

 だって、この人って凄く有能そうなんだもの。

 リュールさんからも頼りにされているというか、あの騎士団では副団長の首に縄を付けるような立ち位置の人なのに違いない。

 あの人も、所詮は公爵家のボンボンなんですものね。
 他の騎士団の人は、貴族とかそういった感じとは、やや印象が異なるような気がする。

 荒事に出張るようなタイプの職業みたいですから、あれくらいでないと務まらないのではないだろうか。

 普通の貴族の家柄の人とかが騎士団に来ても、お飾りの指揮官とかに収まっていそう。
 あのリュールさんは仕事が出来そうな人のようだけど。

 他の人からも慕われているというか、ちゃんとお仲間に認定されている感じだった。

 そしてテキパキと、もう買う物すべてを彼女が見立てていく感じで、服から帽子から靴から下着、また各種生活用品や雑貨にいたるまで見事に短時間で揃っていった。

 一つだけ凄くありがたかったのは、なんとこの世界では実用的な生理用品まで販売されていた事だった。

 このあたりまで気を使ってくれるのが、やはり女性の案内ならだった。
 これが野郎だったら、そのような異次元の世界の出来事に気が付くはずもない。

 特にあそこの人は、そんな事まで気が回らなそうな気がする。

 てっきりこの世界では、地球の中世あたりにあったという伝説の、まるで貞操帯のようにゴツイ、凄い形をしたパンツ状の奴かと思っていたのだ。

 もしくは地球にある一部の国の悲惨な現状のように、毎回洗って再生しながら使用する『ただの古い布』の可能性さえあった。

 だがそれは、通称『座布団ナプキン』と呼ばれる、昭和の時代には当たり前のように使われていた分厚いコットン製の奴だった。

 だが昭和の時代の物にも合成素材は使われていたように思うので、あるいはその前の時代の奴かもしれない。

 おそらく、私と同じく青い鳥に詐欺られて、うっかりと何の支度も無くこの世界へやってきてしまった無様な稀人の女性が、この世界で可能な技術を用いて作らせてくれておいたものなのだろう。

 これなら十分普通に使える物だった。

 まあさすがに、どれだけ頑張ってもこの世界で吸水ポリマーのような最新技術の代物は造れなかったのだろうなあ。

 気の利く先達に目一杯感謝して、これはまとめ買いしておいた。
 無限収納万歳。

「さあ、帰りますよ。
 今日やる仕事を後回しにしてしまったので、明日は仕事を手伝ってくださいね。

 今日はもう副団長と一緒に帰ってください。
 そろそろ団旗の飾り付けも終わった頃でしょう。

 慣れない環境になる訳ですし、とりあえず早めに家の人と顔合わせをしておくという事で」

「はーい」

 本日のお買い物、全部合わせても金貨十枚程度だった。
 洋服なんかも最低限の物しか揃えてないので、また見に来よう。

 一人で外出させてもらえるかどうかは、この先の精進にかかっているのだけれど。

 結構、この王都みたいな都会でも人攫いが多いそうで、私みたいにボーっとした若い田舎娘が馬鹿みたいに突っ立っていたら、たちどころに消えてしまうらしい。

 異世界の大都会、超怖っ。
 結局どう転がってもベロニカさんに御世話をかける事になるのだ。

 何かの動物に話をつけて、ボディガードになってもらうのは有りだな。
 手近なところでは馬だが、あれはボディガードとしては微妙だ。

 奴らは基本的に乗物なので。部屋の中とかついてこれないし。

 マジで戦えば、結構あれでも肉食獣相手にだって強いのですが、ボディガードにするには、ちょっと無理がある感じだ。

 安い人参で楽々釣れてしまうのは大きな利点なのだけれども。

 出来れば犬、あるいは狼の魔物なんかがいいなあ。
 どこかに魔物ショップでもないものだろうか。
 ペットショップでもいいや。

「ねえ、どこかに犬なんか売っていませんか。
 狼、あるいは他の魔物でもいいですが。

 あの連中を連れ歩ければ、少々飼い主がボーッとしていても悪い奴が来れば吠えてくれますから」

「犬ねえ。
 どうかな、野良犬で良かったらその辺にいるわよ。
 噛まれたら酷い病気になるから近寄らない方がいいけど」

 う、それはきっと狂犬病か何かですね。
 狂犬病ワクチンなんて、この世界には無いんだろうなあ。

 あれは噛まれたら絶対ヤバイ。
 あと、破傷風なんかにも気をつけないと。

 そういう物は、私の回復魔法で治るのだろうか。
 回復魔法はまだ実際に試してみた事はないので、せっせと練習しよう。

 動物と会話できる以外には、これくらいしか特技がないみたいだし。

 まあ、幸いにして騎士団という場所ならば、環境的に練習相手には事欠くまい。

 もし、お料理のお手伝いなんかをする必要があるのなら、自分の手が実験体になってしまう悲惨な可能性も大いにあるのだけれど。
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