異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

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第一章 幸せの青い鳥?

1-25 公爵風呂

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 そんなこんなで、ホルデム公爵家にて御世話になる事になった私。

 ベロニカさんは、明日私を騎士団本部まで連れていくので一緒に泊る事になった。

 リュールさんも、明日は門へは行かずに団旗の具合を見に行く予定であるらしい。

 まあ、あのしっかり者のサリタスさんがついているので団旗は大丈夫だと思うのだけれど、二人とも実物を確認しないと安心できないようだった。

 まあ、あの団長さんの暴走ぶりを見ていると、それも無理もないのだろうけど。
 あの御方は、いつもあんな感じであるものらしい。

 それから少し遅めの昼食を、軽食スタイルでサロンにていただいた。
 それはサンドイッチっぽい物で、結構美味しかった。

 そして何が嬉しいって、このお屋敷には素敵なお風呂があったので。

 さっそくベロニカさんと一緒に、夕食前にゆっくりとお風呂をいただいてしまう事にした。

 この世界で初めてのお風呂体験は物凄く素敵なものになった。

「ひゃああ、お風呂も凄く広い」

 なんというか、まるでローマ帝国のお風呂のように広く、またそれと同じく石で出来た彫像のような物が多く飾られていた。

 よくあるように、それを通してお湯が流れ出てくるようになっているものもあった。

 また石鹸やシャンプー・リンスなども上等な物が常備されているみたい。

 それらは体に優しい天然成分で出来ているようで、もしかしたらこれも稀人女性の先達が残してくれた遺産なのかもしれない。

 しっかりと身体を洗ってから、広大な湯船に身を任せた。
 はあ、身も心も蕩けそう。

 ここに来るまではガルさんやナナさんの塒で御世話になっていただけだものな~。

 一人だったら、それすらもない完全な野宿で、浄化の魔法すらなかった訳なのですがね。
 ああ、あの超高級天然羽毛布団の寝心地が懐かしい。

「ふう、ここのお風呂は最高です。
 もう音に聞こえた武門の一族が、金に飽かせて作らせたものですからね。
 その割に御当主とかは、なかなか家に帰ってこないらしいのですが」

「そうですかあ。もったいないなあ」

「まあ、あの妹さんよりはいいですけどね。
 私、前に一度サンドラと一緒に極秘の任務で彼女のいるところまで出かけた事がありますが、あれは大変過ぎました。

 何を好き好んで、こんな快適な屋敷を捨ててまでダンジョンに引き籠らねばならないのか理解に苦しみますが、まあ人には人の生き方があるのですから」

「まあ確かに、人間には一人一人自分に合った生き方があるのですから。
 って、ああっ!」

「どうしました、サヤ」

 彼女は、私が何か大事な用でも忘れていたのかというような、訝しい目を私に向けてきた。

「しまった。
 馬をもふもふして遊ぶ予定だったのに。
 ちゃんと人参もいっぱい買ってきたのにな。

 今から馬と遊ぶと風呂上がりに馬臭くなってしまいますから、さすがにちょっと」

「へえ、サヤでもそういう事を気にするのですね。
 意外です」

 彼女は艶めかしい腕をお湯で撫でながら、のんびりとそのような感想をぶつけてきた。

「これが自分の家ならば、何も気にしないですけどね。
 自分の家じゃ犬猫その他を寝床で抱っこしながら寝ていましたので。
 犬猫臭くない小夜など、そんなものは私ではありませんよ」

「まあ、それでこそサヤというものですね。
 そう慌てなくたって、当分ここの住人となるのですから、いくらでも馬とは遊べますよ。
 確か、他の動物もいると思いましたが」

 他の動物とやらには興味があったのだが、私は少々警戒していた。

「それって、食用とかいうんじゃないですよね」

 それだけは願い下げなのですが。

 日本では朝引きの新鮮な鶏の刺し身などという料理もあったので、この屋敷でも食べる直前に料理するという可能性が捨てきれないのだった。

「安心なさい。
 こんな身分の高い公爵家の使用人が、いちいち自分で豚や鶏を絞めたりなどしていませんよ。
 ちゃんと信用できる業者が処理して新鮮な食材を届けてくれますから」

「それなら安心ですね」

 だが彼女は大きく伸びをして、その豊かで形のいいバストを露わにすると、悪戯っぽくこう付け加えてきた。

「でも、市場には気を付けなさい。
 鶏なんかは〆てから羽根を毟って吊るしてある物が殆どだけど、生きのいい肉をと客から言われて、わざわざ市場で鳥を〆る店も中にはあったりするから。
 あれがまたギャアギャアと鳥が騒ぐのよね」

「ひいいいい。
 それ、絶対に断末魔の悲鳴じゃないですかあ。
 うっかりと聞いてしまったりしたら鶏肉が食べられなくなるう」

「安心なさい。
 大物の牛や豚なんかは肉を熟成させるので、市場では殺したりはしないから。
 ただ、子牛や子豚なんかは売られたりしているわね」

 私の脳裏で、『あの歌』が物悲しく再生されていった。

「う、それもまた聞きたくない話ですねえ……」

「難儀な子ねえ。
 それ、聞けないように自分の意思でコントロールできないのかしら」

「さあ、どうなんでしょう。
 そんな事はやった事がないので」

 普通の人だって、耳から入ってくる音を勝手に遮断したりは出来ないもんね。
 結局は耳を塞ぐしかないのだ。

「まあいいわ。またしっかり背中を流してあげるから湯船から上がりなさい。
 髪も洗ってあげるわ」

「はあい」
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