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第一章 幸せの青い鳥?
1-27 異世界事情あれこれ
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「そう、伝説の青い鳥がねえ」
食後のお茶をサロンで頂いていた時に、そう言って公爵夫人は思案するような顔で、しばし考え込んだ。
「あれについて、何かご存知なのですか?」
「いえね。
昔、あれを見た事があったような気がするのよね。
あれはどこだったかしら。
もう随分と昔の頃の事で。
もしかしたら子供の頃だったかもしれないわねえ。
主人がいれば、何か思い出してくれるかもしれないのだけれど」
「そうですか、また思い出したらでよいので教えてください。
どうせ、あいつらって一所で普通の鳥みたいに暮らしているとは思えないので。
あれは普通の鳥ではなく、何か特殊な存在なんですよね」
リュールさんも、このようにアドバイズしてくれた。
「そのようだな。
まあ、そのあたりの事は冒険者ギルドの方が詳しいだろう。
あれについての情報提供のクエストを出しておくのもいいかもしれんな。
情報だけなら、そう金額は高くはない。
その代わりに精度は低いがな。
まあ手掛かりでも見つかれば御の字くらいのものだ」
「なるほど。また考えておきます」
「冒険者ギルドへ行く時は、ベロニカに頼んで連れていってもらうといい。
あるいは、ここから直接行くのであれば、送ってもらいついでに御者のアルバートあたりと一緒に行ってもよいかもしれん。
まだお前一人では出歩かないようにな」
「あ、はい。どうも。そうします」
だいぶ、あれこれと脅かされたので、さすがに一人では出かけ辛い。
それと一つ気になっていた事を尋ねておいた。
「そう言えば、ここの街にもスラム街なんて場所があったりしますか。
私みたいなボッとした人間が、うっかり入り込んだりするとマズイような場所が」
彼は少し言い淀んだが、答えてくれた。
危険については知っておいた方がいいと思ってくれたのだろう。
王都の治安を守るタイプの仕事をしているので、それが及ばない場所については、あまり言及したくないのだろうな。
「ある。
まあ、ああいう物はどうしても無くならないものだ。
この街の一般市街区の西側にあるから、そこへは絶対に近づくな。
おかしな連中の根城にもなっている」
「ついでに言うとね。
そいつらが、邪まな事を考えている貴族なんかから仕事を受ける事もあるのよ。
それもあって、簡単には排除できないの。
もう碌なものじゃないから絶対に行っては駄目」
ベロニカさんからも、追加でそう言われてしまった。
「なるほど。
そう言えば、そういうところに奉仕活動をしているような教会や神殿みたいな物ってあるんですか」
「まあ無い事はないがな。
なんだ、そういう事に興味があるのか」
「いや、特にそういう訳ではないのですが、そういう神殿みたいなところって、その大概はなんというか……」
「大体、気にしている事はわかるけど。
腹黒いというか私腹を肥やしているというか、かな?」
「ま、まあそんなところです」
それを聞いて公爵家の母と息子は盛大に笑みを漏らした。
「あっはははは、それは世界を越えても共通な法則であったか」
「まあ、あの人達はねえ。
ああいう物も、また隣国と宗教が異なったりするとまた面倒なのよねえ。
隣のマースデン王国のようにね」
「そうなんです?」
公爵夫人は、自分のティーカップを銀のスプーンでゆっくりとかき回しながら、のんびりとした風情で語り出した。
「元々、あの国はこの国と一つの国だったのだけれど、ここで一般的に信じられているのとは違う神様を信じる人達が独立しようとしたのよ。
何度かそういう国の中での戦いがあって、そんな事をしていると他の国から付け込まれてどちらも駄目になってしまうという事で停戦し、我が国があっちの連中に妥協したの」
「まあその結果、独立の際には連中が希望したより遥かに小さな領土しか手に入らなかったから、奴らは今でも不満に思っているのさ。
その結果、元は同じ国の人間だった連中によってこの国は脅かされている。
あの第二王子は腹違いの王子でな。
彼の母親は向こうの国へ行った一族の出なのだ。
そういう事もあるので、あの国には弱みを見せられない事情もあるのさ」
「その軋轢の一つとして例の旗騒動があって、サヤもそれに巻き込まれたっていう事なのよ」
「あらあ、そんな話があったのね~」
そうなると、絶対に第二王子なんかとは顔を合わせたくない。
万が一、私が稀人だなんてバレたら何をしてくるかよくわからない。
そいつらは、この家とは敵対勢力なんだから。
今回も、私のせいでそいつは高笑いが出来なくなった訳だから、逆恨みするくらいは余裕でありそうだね。
少なくとも、この家の人みたいに優しくないだろうから、自分の都合がいいように使うために私を幽閉しかねない。
私の能力がなんかに使えるのかどうかは知らないけど。
「まあ、よっぽどの事はないだろうから安心するがいい。
奴だって騎士団預かりの人間にはそうそう手を出したりしないさ」
「冒険者ギルドのギルマス預かりでもありますしね」
ベロニカさん。
それって普通は、かなりの問題児が受ける扱いなのでは?
だがまあ、特別扱いしてもらっているのだからいいか。
普通ならないような待遇なのだから。
ああ、今頃ガルさん達は何をしているのかな。
そして日本に置いてきてしまった、私の大事な家族や友人達。
くそ、やっぱり青い鳥の情報は当たってもらうか。
ついでに捕獲依頼を出しておこうか。
あの連中がそうそう簡単に捕まえられるはずもないけれど。
いざとなったら、あいつらって次元跳躍か何かの能力で逃げてしまいそう。
食後のお茶をサロンで頂いていた時に、そう言って公爵夫人は思案するような顔で、しばし考え込んだ。
「あれについて、何かご存知なのですか?」
「いえね。
昔、あれを見た事があったような気がするのよね。
あれはどこだったかしら。
もう随分と昔の頃の事で。
もしかしたら子供の頃だったかもしれないわねえ。
主人がいれば、何か思い出してくれるかもしれないのだけれど」
「そうですか、また思い出したらでよいので教えてください。
どうせ、あいつらって一所で普通の鳥みたいに暮らしているとは思えないので。
あれは普通の鳥ではなく、何か特殊な存在なんですよね」
リュールさんも、このようにアドバイズしてくれた。
「そのようだな。
まあ、そのあたりの事は冒険者ギルドの方が詳しいだろう。
あれについての情報提供のクエストを出しておくのもいいかもしれんな。
情報だけなら、そう金額は高くはない。
その代わりに精度は低いがな。
まあ手掛かりでも見つかれば御の字くらいのものだ」
「なるほど。また考えておきます」
「冒険者ギルドへ行く時は、ベロニカに頼んで連れていってもらうといい。
あるいは、ここから直接行くのであれば、送ってもらいついでに御者のアルバートあたりと一緒に行ってもよいかもしれん。
まだお前一人では出歩かないようにな」
「あ、はい。どうも。そうします」
だいぶ、あれこれと脅かされたので、さすがに一人では出かけ辛い。
それと一つ気になっていた事を尋ねておいた。
「そう言えば、ここの街にもスラム街なんて場所があったりしますか。
私みたいなボッとした人間が、うっかり入り込んだりするとマズイような場所が」
彼は少し言い淀んだが、答えてくれた。
危険については知っておいた方がいいと思ってくれたのだろう。
王都の治安を守るタイプの仕事をしているので、それが及ばない場所については、あまり言及したくないのだろうな。
「ある。
まあ、ああいう物はどうしても無くならないものだ。
この街の一般市街区の西側にあるから、そこへは絶対に近づくな。
おかしな連中の根城にもなっている」
「ついでに言うとね。
そいつらが、邪まな事を考えている貴族なんかから仕事を受ける事もあるのよ。
それもあって、簡単には排除できないの。
もう碌なものじゃないから絶対に行っては駄目」
ベロニカさんからも、追加でそう言われてしまった。
「なるほど。
そう言えば、そういうところに奉仕活動をしているような教会や神殿みたいな物ってあるんですか」
「まあ無い事はないがな。
なんだ、そういう事に興味があるのか」
「いや、特にそういう訳ではないのですが、そういう神殿みたいなところって、その大概はなんというか……」
「大体、気にしている事はわかるけど。
腹黒いというか私腹を肥やしているというか、かな?」
「ま、まあそんなところです」
それを聞いて公爵家の母と息子は盛大に笑みを漏らした。
「あっはははは、それは世界を越えても共通な法則であったか」
「まあ、あの人達はねえ。
ああいう物も、また隣国と宗教が異なったりするとまた面倒なのよねえ。
隣のマースデン王国のようにね」
「そうなんです?」
公爵夫人は、自分のティーカップを銀のスプーンでゆっくりとかき回しながら、のんびりとした風情で語り出した。
「元々、あの国はこの国と一つの国だったのだけれど、ここで一般的に信じられているのとは違う神様を信じる人達が独立しようとしたのよ。
何度かそういう国の中での戦いがあって、そんな事をしていると他の国から付け込まれてどちらも駄目になってしまうという事で停戦し、我が国があっちの連中に妥協したの」
「まあその結果、独立の際には連中が希望したより遥かに小さな領土しか手に入らなかったから、奴らは今でも不満に思っているのさ。
その結果、元は同じ国の人間だった連中によってこの国は脅かされている。
あの第二王子は腹違いの王子でな。
彼の母親は向こうの国へ行った一族の出なのだ。
そういう事もあるので、あの国には弱みを見せられない事情もあるのさ」
「その軋轢の一つとして例の旗騒動があって、サヤもそれに巻き込まれたっていう事なのよ」
「あらあ、そんな話があったのね~」
そうなると、絶対に第二王子なんかとは顔を合わせたくない。
万が一、私が稀人だなんてバレたら何をしてくるかよくわからない。
そいつらは、この家とは敵対勢力なんだから。
今回も、私のせいでそいつは高笑いが出来なくなった訳だから、逆恨みするくらいは余裕でありそうだね。
少なくとも、この家の人みたいに優しくないだろうから、自分の都合がいいように使うために私を幽閉しかねない。
私の能力がなんかに使えるのかどうかは知らないけど。
「まあ、よっぽどの事はないだろうから安心するがいい。
奴だって騎士団預かりの人間にはそうそう手を出したりしないさ」
「冒険者ギルドのギルマス預かりでもありますしね」
ベロニカさん。
それって普通は、かなりの問題児が受ける扱いなのでは?
だがまあ、特別扱いしてもらっているのだからいいか。
普通ならないような待遇なのだから。
ああ、今頃ガルさん達は何をしているのかな。
そして日本に置いてきてしまった、私の大事な家族や友人達。
くそ、やっぱり青い鳥の情報は当たってもらうか。
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