異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

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第一章 幸せの青い鳥?

1-51 装備拡充

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「あの裏切り王子め、まったく碌な事をせん。
 お前ら、強力な対魔物用の武器を大量に持ってきたぞ」

「ありがたい。愛してるぜ、団長」

「気色の悪い事を言うでないわ。
 その愛は残りの魔物にくれてやれ!
 我が騎士団流にな」

「「「おおおおお!」」」

「サヤ嬢よ。お前さんにも土産があるぞ」

「へえ? なんだろ」

 だが、魔物の上からその返答はやってきた。

「それは、あたしだよ。
 おい、誰か降ろしてくれ。
 荷物もあるんだ」

「あ、ドクター。という事は」

「ああ、聖水製造の準備をしてきた」

 だが、ハッサン小隊長が言った。

「どうせなら、そこから登ってしまいましょう。
 どうせ奴の部屋は上だ。
 ショートカットコースで近道しましょう」

 幸い、装備一式まだ上にあったので二度手間にはならず、全員が上へ引き上げられる事になった。

 といっても、私達回復魔法士がロープで引き上げられるだけで、他の騎士や近衛兵連中は登り口となるロープをさっさと大量に設営し、全員が自力でさっさと登っていった。

 まるで訓練でもするかのように迅速な行動だった。
 いくら強力リジェネがかかっていたとはいえ、あれだけの戦闘の後になあ。

 ああ、自衛隊ならレンジャー徽章持ちクラスの人材ばかりなのね。

 私は、なんとロープも無しで魔物の上を伝いヒラリっと先に上に登ったアメリが、体に巻くタイプのロープを垂らしてくれてさっと引き上げてくれた。

 この方、細身なナイスボディなのにマジで凄い力をしてはる。
 本当に何者なんだ。

 まさか正体は男っていう訳じゃないよね。
 今度、一緒にお風呂して確かめよう。

 増援の彼らの部隊は違う道筋から二階へ回ったのだが、大穴が開いていて先に進めずにいたら、少し押し込まれて下がってきた魔物が丁度弱点を無防備に晒していたので、その場で騎士団長が本能的に「ふんっ」とばかりに飛び込んだらしい。

 野獣か、あんたは。
 まるでスーパー兵士が活躍する、ハリウッドのクリーチャー映画の主人公みたいな人だ。

 とりあえず、手持ちの聖水などを援軍の人達にぜんぶ渡し、我々と一緒にいた部隊の連中にも、ここに残る人材からも回収したアイテムを先行組に手厚く再分配した。

 先にリュールさん達のチームに合流してアイテムを渡してもらう予定だ。
 あっちのチームに死人が出ていなければいいんだけど。

 半数以上の人員に先行してもらう事にし、残りは聖水を作ってから追撃する。

 マリエールが率いる回復士達も全員それに帯同する。
 こっちは残りの騎士が我々聖水製造組の御手伝いだ。

「さあて、ちゃっちゃっと片付けて私達も行くよ」

 おそらく、もう徘徊している魔物はいないし、第二王子派の人間もそういないはずだ。

 どっちつかずで第二王子派に協力していたような連中は、もう迂闊に手を出せないのではないか。

 私は超回復魔法の真っ白な聖光を、薄暗い王宮の通路にフルパワーで煌めかせ、彼らが荷運びの人間に持たせて持ち込んでくれた『聖水製造キット』の容器の中の水に、次々と聖水化を果たしていく。

 この聖水化に用いる水も実は普通の水ではなく、元々『力のある泉』から採取した聖水製造用のベース・ウォーターを元にしているので、その性能は段違いなのだ。

 このあたりの技術はドクターの独壇場だった。

 そして後天性といえども、現在このアースデン王国が擁する唯一の聖女(らしき者)である私の『ガルーダ魔法』により、高性能な聖水化を果たすのだ。

 そして一部警戒に当たる者を除く残りの人間が、聖水を小瓶に詰めていく作業を行う。

 この後詰め作業については理由がある。
 日本と一緒で、普通の水を小瓶なんかに詰めておいたら、すぐに腐ってしまう。

 だが聖水には長期間腐らない性質があるのだ。
 日本でもそうなのだ。

 霊水・神水などと呼ばれる特殊な湧き水や、人為的に聖水と化した物は長期保存に耐える。

 聖水は二十年も保存され、その性質を保った記録さえある。
 その代わり、長く置くとまるで乾電池の自然放電のように性能が低下し、やがてただの水と化す。

 二十年で威力半減といったところか。
 研究していた科学者が何かの数値で二十年物の聖水を測定し、その度合いを計ったらしい。

 それも私の収納なんかに入れておくと減衰しないらしいんだけど。
 あれに入れておくと、美味しいお弁当だって出来立てのままだものね。

「さあ、お前達。
 頑張って聖水を詰めろ。
 早く追撃に行くぞ」

 自ら、追加装備の強力な槍を持ち警戒に当たる後方部隊の指揮を取る小隊長。

 出来る端から騎士が出来上がった聖水を鑑定し、荷運びの人間と一緒に小瓶に詰めていく。

 もう私も聖水製造は、ほぼ失敗無しで出来るようになっていた。
 これこそまさに精進という奴だな。

 まるで日本の伝説に登場する、水体薬師如来由来の泉から万病を癒す聖水を一瞬にして作り上げる僧侶みたいだ。

 あの人達はそこまでの領域に行くまでに千日行と呼ばれる苦しい修行(僧侶となるための修行)をするのだが、私はそれをスキルの力のみでやってしまっているのだ。

 小瓶には各聖水の頭文字をシール状のラベルで張っていく。
 これは私も既に覚えてある。

「よーし、こんなもんでいいだろう。さあ出発」

 まだ聖水の材料は残っていたが、それは荷運びの人間が背負い、我々は進軍した。

 先の通路が破壊されてしまっているので少々遠回りではあるものの、無事に三階へと到達した。

 二階へワープ出来たので、その分は時間を短縮できたはずだ。

 大方の予想通り、残りの魔物とは出会わなかった。
 やはり守りに徹しているのだろう。

 アースデン王国から堂々と自国の陣営への襲撃を受けたからには、もうマースデン王国の援軍も救出部隊もやってはこれない。

 第二王子が生きる道は、ああやって自分の拠点を守りつつ、外部にいる支持者の手助けによる脱出を図るしかないが、それももう望み薄だ。

 彼らも敗軍の将である第二王子を見捨てるだろう。
 何しろ、国王勅命で騎士団がまともに動いちゃったんだからなあ。

 その指揮を取っているのが、また元王子であるリュールさんなのだから。

 この兄弟喧嘩、あるいは親子喧嘩に巻き込まれたら、邪まな考えで迂闊に関わっていたような外野貴族の頓死は確定ですので。

 下手をすると、これ幸いと強引にすべての責任を押し付けられかねない。

 そうなれば御家断絶は必至、当主以下全員打ち首の、子女は修道院行きで、資産も領地も全没収くらいが相場かな~。

「ねえ、第二王子が魔物を呼び込むのに使っただろう転移のスクロールで、王子は逃げられないの?」

「ああ、それですか。
 まず無理でしょうね。
 あれは強引にゲートを開いて仲間を引き寄せたり、決まった場所へ送り込むトラップに使用されたりするような物です。

 この王宮には本来、そういう魔法は使用制限がありますので。
 本来なら魔物を引き込むのも無理なはずなのですが、よほど強い術者が作成したものなのでしょう」

「その転移のスクロールを作成した術者自身がここへやってくると可能性は?」

「こちらから転移魔法で脱出するのには、その術者が最初からここにいないと無理です。
 しかも相当強力な術者が必要です。

 マースデンもそこまでやると、戦争行為というか宣戦布告と取られかねませんから、おそらく送り込んではいないでしょう」

「なるほど。第二王子は頑張って自力で逃げるしかないって事なんだね」

「その通りです」
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