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第二章 世直し聖女
2-18 ティーパーティーのお客様
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ハッサン達は上司に預けてきた。
危険はあまりなさそうだから、もう彼らと一緒にいる必要はなさそうだ。
むしろ、うちらだけで電撃行動を取りたい場合は却って邪魔になりそう。
「さて、そうは言ったものの、どうしようかしらね。
何か意見のある人」
『はい、おやつを所望します』
「そうだね、もういい時間だし。
だいぶ歩いたから補給したいわ。
そうしましょ。
どうやら危険度は低いみたいだから、騎士団が今すぐ排除しないといけない相手でもなさそうだし。
あたしは見つけたいんだけどねえ」
チュールったら、今日は先程のプリンに加えてタルトも持っているのを知っているので、すかさず催促が来たわね。
まあいいんだけど。これ、すぐ決着がつきそうにないから、どの道今夜のパーティは無理そうだしなあ。
「じゃあねえ、まずはプリンの試食からいこうか」
私はピクニックシートを敷いて、そこに店を広げた。
アメリは私が出したティーセットと簡易魔導コンロでお茶の支度をしてくれている。
私は陶器のカップに入ったプリンをひっくり返して、底に付けておいた小さな栓を抜いた。
プルルンっと揺れてお皿に着地した、オーソドックスなプリンの姿にチュールの愛らしい瞳が輝く。
今度焼きプリンに挑戦しなくちゃ。
ふんわりホイップクリームが完成したら、是非ともプリンアラモードも作らなくちゃね。
サンデー系なんかでも使えるように、市販のウエハースの板なんかも用意してある。
「チャック、あんたもどう?」
『本官はそちらの、空いた魅惑の陶器の誘惑にそわそわしていると聖女サヤにお伝えしておきます』
「あんた、本当にこういうものが好きねえ」
『いや、マースデン軍では結構ゴミ処理なども承っていましたしね。
どうにも、慣れ親しんだそういう方向に嗜好が偏っていると、少々内臓を赤らめながら通達いたします』
「そこ、赤面するの内臓なんだ……」
『本官には顔面を赤面する機能が付随しておりません』
なんだかんだ言って、皆でそれぞれ楽しんでいた。
タルトなども楽しみ、アメリと魔物? 探索とは、まったく関係ないお喋りで盛り上がっていたら、後ろから声がした。
「美味しそう……」
「ん? 食べたいの?」
「うん」
「ねえ、サヤ様」
「なあに」
「今の声はどなたのお声で?」
「え?」
そして気がついた。私とアメリは王宮の通路の壁を背にしているのだと。
二人で振り向いてみたが、そこには王宮の愛想の欠片もない石壁があるだけだ。
「誰というか、どこから喋っていたわけ?」
何かの魔法士の術か何かだろうか。
しかし、その内容がなあ。
心なしか、チュールっぽい感じの声だったような。
「チュール、今腹話術して遊んでなかった?」
チュールも、なんか腹話術の人形っぽいサイズだしね。
今度、腹話術ごっこして遊んでみようか。
『えー、僕知らないけどな。
それで腹話術って何』
「そうだよね。
いや本当は知っていました。
チュールっぽい雰囲気だったけど、何かこうくぐもったような、少し間延びしたような声だったもの」
「じゃあ、誰なのでしょう」
「さあ。
少なくとも、私には壁の中からおやつの催促をする友達はいないとだけ答えておきます」
「食べていい?」
「ん、いいわよ」
だが、次の瞬間に慌てた。
「って誰、ホントに」
そこには、どんっとモフモフな奴が鎮座ましていた。
護衛騎士たるチャックも、そいつのために場所を開けてやったようだ。
なんというか、どうやらそやつが噂のあの人? らしい。
私は邪気の欠片も発していない、そいつのためにプリンを開けてやった。
そいつがでかいので、並んで座る形になってしまったチュールにもお代わりを出してやる。
そいつがプリンの匂いをフンフンと嗅いで、それから大きな手でちんまりとスプーンを持っている。
なんていうか、白くない雪男みたいな感じ?
草色をしていて、ずんぐりむっくりな手足を持ち、やや太めで寸胴な感じの胴体にユーモラスな体形。
そして、何よりも温厚そうなその眼。
口は多少大きめなのだが、怖いというよりも少々だらしがないような、これまたユーモラスな感じ。
プリンでお安く釣れてしまうこいつは、少なくともこの王宮にていかなる者にも危害を加えるつもりはなさそうな感じであった。
「タルトもあるよ」
「いただきます」
タルトの載った皿を受け取った無邪気そうな何者か。
そして、そいつは普通に人語を喋っていた。
少なくとも、スキル・ミスドリトルは発動していないと思う。
アメリにも聞こえたもんね。
危険はあまりなさそうだから、もう彼らと一緒にいる必要はなさそうだ。
むしろ、うちらだけで電撃行動を取りたい場合は却って邪魔になりそう。
「さて、そうは言ったものの、どうしようかしらね。
何か意見のある人」
『はい、おやつを所望します』
「そうだね、もういい時間だし。
だいぶ歩いたから補給したいわ。
そうしましょ。
どうやら危険度は低いみたいだから、騎士団が今すぐ排除しないといけない相手でもなさそうだし。
あたしは見つけたいんだけどねえ」
チュールったら、今日は先程のプリンに加えてタルトも持っているのを知っているので、すかさず催促が来たわね。
まあいいんだけど。これ、すぐ決着がつきそうにないから、どの道今夜のパーティは無理そうだしなあ。
「じゃあねえ、まずはプリンの試食からいこうか」
私はピクニックシートを敷いて、そこに店を広げた。
アメリは私が出したティーセットと簡易魔導コンロでお茶の支度をしてくれている。
私は陶器のカップに入ったプリンをひっくり返して、底に付けておいた小さな栓を抜いた。
プルルンっと揺れてお皿に着地した、オーソドックスなプリンの姿にチュールの愛らしい瞳が輝く。
今度焼きプリンに挑戦しなくちゃ。
ふんわりホイップクリームが完成したら、是非ともプリンアラモードも作らなくちゃね。
サンデー系なんかでも使えるように、市販のウエハースの板なんかも用意してある。
「チャック、あんたもどう?」
『本官はそちらの、空いた魅惑の陶器の誘惑にそわそわしていると聖女サヤにお伝えしておきます』
「あんた、本当にこういうものが好きねえ」
『いや、マースデン軍では結構ゴミ処理なども承っていましたしね。
どうにも、慣れ親しんだそういう方向に嗜好が偏っていると、少々内臓を赤らめながら通達いたします』
「そこ、赤面するの内臓なんだ……」
『本官には顔面を赤面する機能が付随しておりません』
なんだかんだ言って、皆でそれぞれ楽しんでいた。
タルトなども楽しみ、アメリと魔物? 探索とは、まったく関係ないお喋りで盛り上がっていたら、後ろから声がした。
「美味しそう……」
「ん? 食べたいの?」
「うん」
「ねえ、サヤ様」
「なあに」
「今の声はどなたのお声で?」
「え?」
そして気がついた。私とアメリは王宮の通路の壁を背にしているのだと。
二人で振り向いてみたが、そこには王宮の愛想の欠片もない石壁があるだけだ。
「誰というか、どこから喋っていたわけ?」
何かの魔法士の術か何かだろうか。
しかし、その内容がなあ。
心なしか、チュールっぽい感じの声だったような。
「チュール、今腹話術して遊んでなかった?」
チュールも、なんか腹話術の人形っぽいサイズだしね。
今度、腹話術ごっこして遊んでみようか。
『えー、僕知らないけどな。
それで腹話術って何』
「そうだよね。
いや本当は知っていました。
チュールっぽい雰囲気だったけど、何かこうくぐもったような、少し間延びしたような声だったもの」
「じゃあ、誰なのでしょう」
「さあ。
少なくとも、私には壁の中からおやつの催促をする友達はいないとだけ答えておきます」
「食べていい?」
「ん、いいわよ」
だが、次の瞬間に慌てた。
「って誰、ホントに」
そこには、どんっとモフモフな奴が鎮座ましていた。
護衛騎士たるチャックも、そいつのために場所を開けてやったようだ。
なんというか、どうやらそやつが噂のあの人? らしい。
私は邪気の欠片も発していない、そいつのためにプリンを開けてやった。
そいつがでかいので、並んで座る形になってしまったチュールにもお代わりを出してやる。
そいつがプリンの匂いをフンフンと嗅いで、それから大きな手でちんまりとスプーンを持っている。
なんていうか、白くない雪男みたいな感じ?
草色をしていて、ずんぐりむっくりな手足を持ち、やや太めで寸胴な感じの胴体にユーモラスな体形。
そして、何よりも温厚そうなその眼。
口は多少大きめなのだが、怖いというよりも少々だらしがないような、これまたユーモラスな感じ。
プリンでお安く釣れてしまうこいつは、少なくともこの王宮にていかなる者にも危害を加えるつもりはなさそうな感じであった。
「タルトもあるよ」
「いただきます」
タルトの載った皿を受け取った無邪気そうな何者か。
そして、そいつは普通に人語を喋っていた。
少なくとも、スキル・ミスドリトルは発動していないと思う。
アメリにも聞こえたもんね。
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