異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

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第二章 世直し聖女

2-21 戦場の騎士達

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 それから、全ての食材や料理を並べまくった私は、大急ぎでまだ残ってくれていた公爵家の馬車で追加の食材を調達しに走った。

 お店の人達も大爆笑して食材をガンガン出してくれた。

 そして、もう追加の酒まで超特急で用意してもらい、エールも二十樽確保できた。

 なんと本日の酒代は白金貨二十枚(日本円にして二億円相当)にまで膨らんだ。
 ありえないわ!

 でも買い込むのに成功しただけマシ。
 もうお店が閉まっていたり、あれこれと商品が足りなかったりなんていったら~。

 戻ってから、さっそく回復魔法士の人達に言われてしまった。

「あ、追加の食材は買えた?
 お酒の在庫も怪しくなってきたんだけど。

 それとサヤはお菓子の製作をお願い!
 みんな大酒飲みのくせに甘いものがガンガン減っていくのよ!」

 みれば、一本二十万円相当の高級酒をラッパ飲みしている奴らがいる。
 本日の草色をしたスペシャルゲストを含む、あの三人組だ。

 あのう、王太子殿下?
 どうせ来るなら、王家から酒の差し入れくらいしたらどうなの⁉

 まあ、あのイケメンに文句を言ったって仕方がない。

 もう周り中、その次期国王の狼藉に、やんややんやの大喝采だ。
 あんたは男芸者ですかっ!

 仕方がないので、買って来た酒をガンガン並べていく。
 その端から手が伸びてくる。

 いいけどあんたら、せめてコップに注いでから飲みなさいよね。

 そして、チャックの方へいくとこれまた大変な事になっていた。

『ああ、お帰りなさい。
 本官は聖女サヤにエールの補給を要請します。
 補給線が崩壊して敵の攻撃に対して持ち堪えられそうにありません。
 魔物の天敵たる冒険者の圧倒的攻勢に対し、本官は緊急支援コールを発信中です』

 見れば、酔っぱらった冒険者がチャックに数十人も群がり、半御神輿状態だ。
 この前のアメフトを思い出す……。

 今回は反撃を許されないチャックが防戦一方だ。
 あいつら冒険者って魔物には強烈な耐性があるからなあ。

 こいつらと本気で戦ったら、チャックって勝てるかしら。
 冒険者って、中には凄い化け物が混じっているっていうし。

 今の痴態から見たって、たぶんその真の実力は計り切れないだろうな。

 奴らにチャックが狩られない内に酒の供給が間に合ってよかった。

 もう騎士団だろうが冒険者だろうが、酔っぱらえば皆同じ。

 アメリは何故か、冒険者製の『人間お立ち台』の上で弾けていた。
 どこの女王様だよ。

「貴様ら! これでも食らうがいい!」

 そしてビヤ樽十樽を、収納から直接連中目掛けてぶつけるようにして放り出してやったが、全員それを見事にラグビーボールのように受け止めて楽々と担ぎ上げると、それぞれの居場所に散っていった。

 なんて奴らだ。
 これが冒険者という奴なのか。

 しまった。
 こんな事なら、今はもう宴会クイーンに成り果てたブラッディ・アメリにお暇を出すんじゃなかった。

 これでは私が孤立無援ではないか。

 他の公爵家のメイドさん二人は給仕に必死で、とてもじゃないが私の手伝いをするどころではなさそうだ。

 残りの十樽の高級エールをチャックの周りに並べて、指令を与えておいた。

「チャック。
 とりあえず、エールはこれが最終便だから、これが無くなったらあなたは当陣地を放棄して騎士団本部の外へ撤収してちょうだい。
 間違っても冒険者に狩られていないようにね」

『イエスマム!』

 ウワバミとは聞いていたが、これほどとは。
 さっきよりも人数がもっと増えてない?

 二千本あったウインナーがもう無くなっていたし。

 ウインナーは三千本ほど、店の在庫を全部買って来たので全部並べておいたけど最後まで持つのかしら。

 もう知らない。
 さすがに買おうにも次は店も閉まっているだろうし、料理や酒がなくなった時点で看板にしてもらおう。

 私はもう諦めてお菓子作りに邁進する事にした。

 調理場には、なんと事務所のサリー・クレストンや聖水ラボのドクター・ペラミスまで駆り出されていた。

「おい、サヤ。
 これはどうなっている!?
 嫌も応もなく、いきなりマリエールに連れてこられて、この戦場に狩り出されたんだが」

「私は研究一筋で、料理なんか作った事がないんだが~」

「文句なら騎士団長とあの王太子のコンビに言って。
 これ、前回の騒動からの続きらしいから諦めてちょうだい。

 私も今からスイーツな戦場に突入します。
 チュール、アメリが使い物になりそうにないから御手伝いよろしくね。
 つまみ食いは許すから」

『サヤって限度を弁えてないから。
 普通はここまでしない。
 あと冒険者の狼藉を舐めすぎ』

「しょうがないじゃないの。
 この前は私も、ちょっとやり過ぎちゃったしさあ。

 あとチャックの方が心配だけど、こっちもそれどころじゃないわあ。
 とにかく、この戦場は乗り切るからね」

『何を作る?』

「パーティだから片手で食べられるような物にしておこうか。
 シュークリームにクッキーに、パウンドケーキあたりか。

 後は、お料理の範疇だけど、ありあわせの材料でカナッペ。
 クラッカーはまだ手持ちがあるの。
 とにかく量を優先よ。
 さすがにタルトを作るのは無理」

『それは残念』

「そいつはまた、おうちでね」

「サヤ、すぐ出せる物ない?」

「ああ、そういや収納にプリンがあったんだっけ。
 一番足りない物は私の精神的な余裕か」

 私はプリンを出し終えると、各種魔道具を持ち出して、お菓子類などの量産を開始した。
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