DNAにセーブ&ロード 【前世は散々でしたが、他人のDNAからスキルを集めて、今度こそ女の子を幸せにしてみせます】

緋色優希

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第一章 渡り人

1-24 追撃のアンソニー

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「うーん、うーん」
「なんだ、小僧。うんこでも我慢しているのか? 頼むから、その時は先に言ってくれよ」
 ストーガの奴が妙なビビり方をしていやがる。

「ちがーう。男の堅い胸に抱かれているのが嫌なだけだ。歩きながらだからゴツゴツする~」
「あのなあ」

「小僧、気持ちはわかるが我慢せい。いくら図体がでかくても、お前の足では行軍に差し障るし、女に持たせれば速度も落ち戦闘前に消耗してしまう。特にシーフのアイサは探索専任だし、アイリーンは敵の奇襲に備えての攻撃態勢じゃ。アネッサは必要に応じて道を開いておるし、わしも別系統で探索に回っておる」

「わかっているけど、嫌なものは嫌なの~」
 こちとら二歳の幼児様なんだぜ。我儘全開なのだ。見かけの図体で測ってもらっちゃあ困るねえ。

「まあまあ。向こうが撤退しているようなので、村に守りを置かなくていいのは助かりますね。何しろ、あの軍勢だからさ。守るとなったら動けなくなっちゃう」

 アイリーンもホッとしているようだった。その場合、もし置いていくなら攻撃力の高い彼女がその任に当たるのだが、さすがに五万を相手には戦えない。

 アラビムがいてくれるならまだしも、奴は真っ先に暗殺されたのだ。敵の規模も実力も完全に想定外だった。誰も奴を責められない。大人しくスキルを置いてくれていっただけ感謝する。

「ふう。しかし、お前は重いな。本当に二歳なのか?」
「ふふ。実はスキルを使って強引に体を成長させているのさ。ずっしりと身が入って、早くも痩せた大人の半分くらいの体重があるんだ!」

「うわあ、聞きたくなかったぜ。余計に重く感じる」
「ふふ。抱っこじゃなくて、おんぶでもよくってよ」

「それだと手が完全に塞がってて動けんだろうが。いざとなったら放り出すから自分で走れ。お前、他人のスキルをかっぱらえるんだろう。さっき使ったのは、どうみてもアイリーンの『風の刃』の超強力版だった。どうせ俺の『遊撃』やアイサの『瞬歩』なんかもパクってやがるんだろう?」

「あら、バレていましたか」
 奴の腕の中で、可愛くすっとぼけてみせる俺。

「バレてねえと思ったのかよ!」
 その野郎同士の漫才に耳を傾けながら、少し考えていたアイリーンが訊いてきた。

「アラビムのスキルも持っているの?」
「うん。あれは有効だ。ここでは火事になってしまうから一番強力な火が使えないし、風もさっきみたいな開けた場所でないと障害が多くて威力が減少する。あれなら効果的に使える」

 そう。俺達は森というか、山へと向かっているのだ。そして、それは叔父さん達の逃げた方向と一致している可能性が高い。

 だから俺は少し期待していた。叔父さんが信号弾を打ち上げてくれることを。それは叔父さんにとり、命取りになる事だろう。だが彼はきっとやる。そういう男の中の男なのだ。だから、その時はきっと助ける!

「そう。さっきの魔法は威力が高かったわね。補正が入っている?」
「ああ。しかも俺みたいな人間だけが使える特別な奴がね」

「そうか、君はやっぱり特別なのか」
「わかるの?」

「まあ見かけからして」
「やっぱり、そう?」

「それに、目よ。あなた、ちっとも子供らしくないわ。まるで理知的な大人のような目をしている。正確には大人と子供がくるくると入れ替わっているかのような」

 そいつは気がつかなかったぜ。目は心の窓。気をつけよう。子供らしい演技をしないとな。俳優からもスキルはもらっていたし、何故か子役からも。

 あの子役、本当に性格悪かったんだけど、演技は物凄く子供らしかった! あの子なら将来は立派な詐欺師になれるだろう。

 そこから、先に進むにつれて緊張感は増していった。軍勢が歩いた痕は消されていない。あれだけ隠密に徹してきた連中が。

 俺達をおびき寄せるための罠である可能性がある。ここは連中に圧倒的なまで有利な地形だ。こちらはA級チームが壊滅し、現在はB級チームと二歳児勇者アンソニーによるパーティなのだ。

 俺さえなんとかできれば奴らの勝ちは揺るがない。しかも子供だから引きずり回して消耗させれば有利。賢者のゴブリンなら、それくらい考えるだろう。

 そして、もう一つの可能性が懸念されていた。それを実行されたら非常にマズイ手があった。賢く、人間とはメンタルの異なるゴブリンの奴らなら当然のように使うはずだ。

 探索から早くも4時間が過ぎ去り、ついにストーガが音を上げた。
「ふう。ギブだ。少し休憩しよう、マリア」

 この男、滅多な事では弱音は吐かないらしいが、駄目な時はハッキリと口に出すようだ。そうしないと逆に迷惑をかけ、生存率を下げる。この男も一流の冒険者なのだった。

「さすがに、その子泣き爺を連れてはキツイか」
「なんで、あんたはそんな地球の言葉を知っている!」

 だが、怪しく微笑むだけのマリア。まあいいんだけどさ。どうせネタ元は渡り人かなんかだな。他にも日本人がいたのか。そいつも、もう寿命で死んでいる可能性もあるが。

「大丈夫? ストーガ」
「ああ、まだ行ける。だが消耗し尽くしてからでは手遅れになるから休んだ」

「さすが賢いね。でもよくみんな、4時間も休憩無しで歩けるもんだな」

 ストーガが俺を、まだ楽な態勢のはずのおんぶで行かない理由の一つに背嚢の存在がある。それなりに最小限にしてあるようだったが、それでも、その重量は10キロを下るまい。

 自衛隊は訓練時に30キロから50キロくらいまで背負うが、あれは基本車両で移動する。レンジャーの行軍だって大荷物は持たない。

 このような何も無い場所を支援車両も無しに行軍するのだ。最低限の水や食料その他を持っていないと活動できない。俺をおんぶするという事は、その荷物を誰かに持たせなくてはならなくなる。背嚢は背負う専門の装備だ。残りのメンバーが女ばかりのパーティで、それはできない。

 こういう場所を走れる従魔のようなものが欲しいな。子供のうちは大人と長期間一緒に行動できない。こういう事態に今の俺は不向きなのだ。明らかに足を引っ張っている状態だ。

 叔父さんとの狩りは速度を重視しない。探索や隠密、そして地理をしっかり頭に叩き込んでおく事が重要なのだ。狩りは、罠や待ち伏せの方が多かったのだ。後は獲物を逃がさない弓の腕前だ。

 しかし、ここでは砲台である俺を誰かがキャリアーになって運ぶしかないシーンだし、それができるのはロバ代わりのストーガしかいない。

 村にいる本物のロバを借りてくる方法もあったが、どんな展開になるかわからないのに村に二頭しかいない貴重なロバは連れてこれなかった。基本は使い捨てになるのだ。

 また今回は速度的にロバが足枷になるのが一番懸念されていた。ストーガは自分の荷物と武器、そして俺の合計40キロ以上を抱えて相当のスピードで進む事ができるのだ。どんな地形にも対応できるのだし。

 ある意味でスーパーキャリアーとして機能した。そのお蔭で、こんな森や山中をチームが行軍できているのだ。そして今、奴がガス欠気味だった。

 これでも俺がリジェネレートをかけつつ来ているのだが、これはあまり使いすぎると反動がきてしまうので控えめにしているのだ。

 そうしないと俺達は主砲の移動用輸送機器を失って立ち往生する。苦手な地形で足を失って嵌った戦車などは、ただの攻撃目標となる。いや演習の的に過ぎない。

 僅かな糧食を補給したあと、しばらく奴は眠っていた。その間、僅か10分。訓練を受けた人間には、こういう非常識な真似ができる。

「行くか」
 自ら立ち上がるストーガ。マリアもアネッサもストーガに相当無理をさせているのはわかっているが、黙って頷く。

 俺も無理して自分で歩くとは言わない。言ってはいけない事なのだ。俺がここでそれを絶対に言わない奴だから、こいつらはただの二歳児である俺を信頼してくれるのだ。

 いざとなったら足手纏いになったストーガを切り捨てる判断すら必要なシーンなのだから。村ごとチームが全滅したくなければ。
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