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第一章 渡り人

1-41 おうち

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「叔父さん、これ少し大きめだけど、ただの家だよね」
「だなあ」

「ご領主様の、男爵様の?」
「そうだよ、ミョンデ」
 俺とミョンデ姉は顔をどちらからともなく見合わせ、それから叫んだ。

「詐欺だあ」
「こんなの貴族の館じゃない」
「僕達のわくわくを返せ~」
「乙女の純真を弄んで~」

「いや、お前らなあ。あの質素倹約を貴ぶ男爵様の家なんだぞ。これが普通だろ」
 あ、ああ。なんとなくわかっちゃった。

「会社を立派に経営するのに立派な社屋などいらぬ」というタイプなのかな。そのお蔭で今も俺達が生きていられるんだから、ありがたく思わなくっちゃな。

「ミョンデ姉、諦めようよ。これが現実っていうものさ」
「アンソニー。あんた、時々非常に爺むさい事を言うわね」

「ふっ。それは別にいいのさ。でも、この街は立派で、栄えているよ」
「それは認めるけどさ」

「実に立派なご領主様だよ。こんな人は滅多にいやしないよ。お隣の領主の話とか知っているだろ」
「うわあ、あっちの管轄の村に生まれていたら最悪だったわ~」

「その幸せに感謝しようよ」
 だが、後ろから豪快な笑い声が聞こえてきた。

「やあ、お前達。がっかりさせてすまないが、これが私の信条でね。褒めてもらえて嬉しいよ。しかし、アンソニー。お前は本当に幼児離れしているな。主に考え方が」

「ふふ。それだけが自慢ですので」
「さあ、一旦上がっておいで。その後で出かけようか」

「えー、どこへですか」
「お前が一番行きたそうなところだよ」
 あれ。もしかして、あれの事かな?

「やったあ」
「えー、どこへ行くの?」

「案外と、ミョンデ姉も気にいるんじゃないのかな」
「へえ? よくわかんない」
 そして、館へ上がらせていただく事になった。そして玄関先にて。

「やったー、よし探検だー」
「行こう~」
「おいおい、お前達!」

 叔父さんも、さすがに慌てているが、もちろん冗談だ。我が不肖の姉は素で乗ってくれたのだが。そのまま家の中へ駆けていこうかとしたが、当然のようにティム達に瞬時に捕獲された。

 こいつらティム化して素早さが最低で十倍は上昇しているのだ。俺達幼児が逃げられるはずがない。そして、俺達の頭をぐいぐい押して謝らせようとしているし。

「わはははは。真の従者ともなれば、主の躾も仕事のうちというわけか。いや最高だな」
「はあ。まあ、さすがに少しは子供らしいところも見せておかないと思いまして」

 そういう時に息ぴったりなのが、このミョンデ姉だ。年齢的な物もあるのだが、他の兄姉ではこうはいかない。

 こう見えてミョンデ姉は状況などをよく見ているのだ。ここは笑いを取りに行くシーンと判断したようなのである。さすがはミョンデ姉だぜ。これを初めていく自分の村の領主の館(家)でやれてしまえるのだからな。

「あら、お父さん。例の子達が来たの?」
 お、例の娘さんか。どれどれ。

 あ、綺麗な人だ。そして一目で人間ができているのが理解できた。元女たらしとして言おう。こんないい女は見つけたら絶対に結婚しておくべきだ。

 だが残念だ、すでに人妻のようだった。もう子供を連れているのだ。俺と同じくらいの歳の男の子だ。

 彼は、俺と目が合うと、ちょっとはにかんで母親の後ろに隠れた。しかし、その目は俺達の遥か頭上をロックオンしていた。

 もしかして狂王が怖かったのかしら。小さな子供から見たら、大人が見た時の大きさに換算して全長15メートルくらいに見えるもんね。

 もうご領主様ったら。小さな子がいるならいるって言ってくれればいいのにさ。でかいのを連れてきちゃったじゃないか。だが、その子の目に恐怖はなかった。ああ、これは多分。

「ねえ、君はいくつ?」
「えと、えーと。ふたつ!」

「へえ、同じ歳かあ」
「え?」
「え?」
 母子で同じリアクションをなさっておられる。またしても男爵様が爆笑なさっておられた。

「お父さん、それ本当?」
「ああ、その図体を見れば信じられないだろうがね。そいつの場合は、見かけよりも中身の方が、もっと大人びているのだよ」

「あははは。ご紹介の通りですよ。僕はアンソニー、君は?」
「ロイエスだよ」

「じゃあ、ロイエス。一緒にあれに乗ってみないかい?」
「いいの!」

 すげえ喜びようだ。一目見て気に入っていたんだろう。俺はチラっと『お爺さま』の方を見たが、彼は笑って許可をくれた。

「ああ、構わないからいっておいで。でもすぐに戻ってきなさい。わかっているのだろう?」

「ええ。じゃあ少しだけ。後で、この子もあそこへ一緒に連れていってもいいのでしょう?」
 領主様は少し考えたが、頷くと答えた。

「そうだな、おそらく次の領主はその子がやる事になる。勉強になるだろう。今回のような事があったばかりなのだし」

 なるほど。あれ、お父さんは?
「娘さんは、実の娘さんなんですよね」

「ああ、一人娘だったのでな。婿は今、商業ギルドの取りまとめ役の一人として頑張っておるよ。開いた時間には私の仕事を手伝ってくれたりもする。誠実な男でな。はじめはパッとせん男だと思ったのだが、これがなかなかどうしてな」

「ご領主様は人の中身をよく見ていますからねえ」
 だが、娘さんが思いっきり吹き出していた。

「やだもう。この子、絶対に二歳なんかじゃないわ。偏屈なお父さんと話が噛み合っちゃっているもの」
「ええっ。それはないだろう、フレイラ」

 そうですよ、お姉さんったら。こう見えて、僕なんかまだまだやんちゃ盛りなんですからね。そして、俺は見事に次の会場で、それを証明してみせたのだった。
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