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第一章 孤独の果てに
1-10 逃避行
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「さて、朝っぱらからみんなご苦労様。
当面の敵はすべて倒したし、こちらの手札も露見せぬように守ったが、とりあえず俺達の居場所は敵にバレちまった」
「すると?」
シルバーは可愛らしく小首を傾げている。
そのサイズを考えぬのであれば十分に可愛い仕草であり、また俺のサイズからみたフェンリルなどは中型犬サイズなので断然オーケーの可愛らしさだ。
「逃げる!
ここは少し走って逃げるぞ。
子供達、この山の厳寒な気候の中でちょっと厳しいが我慢してくれよ」
「うん、思いっきり敵が来ちゃったもんね」
「メリーベルも頑張るよ~」
そこからは真っ白の保護色に毛皮を染め上げた脱兎のように雪原を駆けていく俺達。
あの吹雪の中で俺達を捕捉するなんて、敵の事を少し舐めていたようだ。
畜生、確かにこの俺の図体は遠くからでもモロに視えちまうしな。
かといって、俺がいないとこのパーティは敵の猛攻の前に倒されてしまうように感じた。
おそらく敵の追撃部隊の指揮官が手練れなのだ。
俺は冷や汗が流れるような感覚を久しぶりに味わった。
これは俺が今までに相手をしてきたような人間の敵とはまるで次元が違う。
自分が戦うだけなら何も恐れはしないが、この子達を護りながらでは非常に不利だ。
いっそ光学迷彩でも試してみるか、あれは地球でも軍用に研究開発されていて半ば実用化されている代物だし、民間の自動車メーカーですら持っている技術だ。
大体の原理はわかっているので、今の俺ならばやってやれない事はないだろう。
進軍スピードもさることながら、防御に徹していないと敵が捕獲を諦めて子供達を殺そうとした時に守り切れない。
もう密やかにという訳にはいかなくなったので、俺は遠慮なく氷魔法を放ち、進行に邪魔な木を吹き飛ばし、痕跡にならぬようにそれらを文字通り根こそぎ収納した。
そして後ろに向けては、氷魔法でこの山の激しい吹雪に劣らぬ惨事を撒き散らして、かなり広範囲を新雪に埋めてやった。
時にはダミーっぽい痕跡をわざと残して奴らの足を止める工作をしてみたが、そんな物はやらないよりは幾分かマシという程度の、ただの気休めに過ぎないだろう。
それほどまでに敵の脅威は想像以上に厳しかった。
「子供達、大丈夫か」
「う、まだ大丈夫だけど、つ、疲れる」
「そうか……では少し休憩するか。かなり距離は稼いだしな」
だが相手を振り切ったと思い、つい心のどこかで油断していたのだろう。
迂闊にも、その少し開けたような、『空から』丸見えの場所で俺達は足を止めてしまっていた。
その心の隙間をふいに狙い撃ちにされてしまった。
「ぎゃん」
「何っ!」
不意打ちを食らったシルバーは突然もんどりうって倒れ伏し、横倒しになったまま動かない。
そして、なんと横腹に開いた無残な穴から夥しい血を垂れ流していた。
「シルバー!」
子供達も地面に落とされてしまったが、雪が深い場所だったのと厚着をしていたのが幸いした。
また頭にも革の帽子を被っており、防寒の内装を厚く設えた物だったので軽い打ち身程度で済み、たいした怪我はなかった。
ちゃんと自分達で起き上がってきて、それからシルバーの惨状を見て悲鳴を上げて駆け寄った。
「シルバー、シルバー、目を開けて」
「いやだよ、シルちゃんが死んじゃったら」
だが俺は子供達に声をかけた。
「そこの森の中へ逃げ込め。
安心しろ、シルバーはフェンリルだ。
既に回復魔法はかけたので、このくらいでは死にはせん。
だが内臓に直接毒を撃ち込まれた。
しばらくは動けないだろう。
敵の狙いは我々の位置を空から特定した上で、油断していたところを攻撃して足を奪い、地上部隊のために足止めする事だった。
くそ、まさか希少な魔法金属のオリハルコン製の毒弾を航空攻撃の速度を持って撃ち込んでこようとは!」
Ω魔獣たるフェンリルの外皮はミスリル素材による程度の攻撃は軽く跳ね返してしまう。
その強力な毛皮を貫通するにはオリハルコン製の武器が必要だ。
しかし、実際にはそれさえも大した痛手を負わせることはできないのが通例だった。
そう簡単に狩れる魔獣ではないのだ。
知能も高いため、強力な罠を仕掛けられて逆襲を食らう事も多いので通常は冒険者などによる狩りの対象からもはずされるはずだ。
経口ではなく体に直接撃ち込むような毒や、剣や矢による毒攻撃にも本来なら強い耐性を持つのだが、まだ毒攻撃に対して耐性のまったくない若い個体が内臓に直接毒を盛られては一溜まりもない。
回復力も強いし傷自体はたいした事がないので、この程度で死んでしまうような事はないだろうが、しばらくはシルバーも行動不能だろう。
なんということか。
それにしても帝国の奴らめ、【偵察機】を持ち出してきやがったとは、まったくもって迂闊だった。
この世界には科学文明による武器はないようだったので、航空機がなければ空から見られる事はないだろうと高を括っていた俺の浅はかさが、この痛恨の事態を招いてしまった。
【飛竜】、あるいはドラゴンの類か。
卑しくも、この俺のような厄介な魔物を相手取るのだから、報告を受けて何かの対策を用意していないわけがない。
おそらく、さっきの連中がなんらかの通信手段を用意していて、倒される前に俺達の編成を伝えていたのだろう。
いつの間にか通信で【航空兵力】が呼ばれてしまっていたのだ。
なんという事だろう。
敵は的確に子供達の足を奪ったに止まらず、図体のでかい重傷者を出す事で完全に俺達の足を止めた。
すぐに移動するなら俺がシルバーを担いでいくしかないが、なるべくそれはしたくない。
動くにしても少しでもいいから、体を休めさせてからにしたい。
もう毒弾は抜いたし毒の治癒も行った。
俺の事を【お父さん】と呼ぶ、この可愛い子も絶対に守ってみせる。
当面の敵はすべて倒したし、こちらの手札も露見せぬように守ったが、とりあえず俺達の居場所は敵にバレちまった」
「すると?」
シルバーは可愛らしく小首を傾げている。
そのサイズを考えぬのであれば十分に可愛い仕草であり、また俺のサイズからみたフェンリルなどは中型犬サイズなので断然オーケーの可愛らしさだ。
「逃げる!
ここは少し走って逃げるぞ。
子供達、この山の厳寒な気候の中でちょっと厳しいが我慢してくれよ」
「うん、思いっきり敵が来ちゃったもんね」
「メリーベルも頑張るよ~」
そこからは真っ白の保護色に毛皮を染め上げた脱兎のように雪原を駆けていく俺達。
あの吹雪の中で俺達を捕捉するなんて、敵の事を少し舐めていたようだ。
畜生、確かにこの俺の図体は遠くからでもモロに視えちまうしな。
かといって、俺がいないとこのパーティは敵の猛攻の前に倒されてしまうように感じた。
おそらく敵の追撃部隊の指揮官が手練れなのだ。
俺は冷や汗が流れるような感覚を久しぶりに味わった。
これは俺が今までに相手をしてきたような人間の敵とはまるで次元が違う。
自分が戦うだけなら何も恐れはしないが、この子達を護りながらでは非常に不利だ。
いっそ光学迷彩でも試してみるか、あれは地球でも軍用に研究開発されていて半ば実用化されている代物だし、民間の自動車メーカーですら持っている技術だ。
大体の原理はわかっているので、今の俺ならばやってやれない事はないだろう。
進軍スピードもさることながら、防御に徹していないと敵が捕獲を諦めて子供達を殺そうとした時に守り切れない。
もう密やかにという訳にはいかなくなったので、俺は遠慮なく氷魔法を放ち、進行に邪魔な木を吹き飛ばし、痕跡にならぬようにそれらを文字通り根こそぎ収納した。
そして後ろに向けては、氷魔法でこの山の激しい吹雪に劣らぬ惨事を撒き散らして、かなり広範囲を新雪に埋めてやった。
時にはダミーっぽい痕跡をわざと残して奴らの足を止める工作をしてみたが、そんな物はやらないよりは幾分かマシという程度の、ただの気休めに過ぎないだろう。
それほどまでに敵の脅威は想像以上に厳しかった。
「子供達、大丈夫か」
「う、まだ大丈夫だけど、つ、疲れる」
「そうか……では少し休憩するか。かなり距離は稼いだしな」
だが相手を振り切ったと思い、つい心のどこかで油断していたのだろう。
迂闊にも、その少し開けたような、『空から』丸見えの場所で俺達は足を止めてしまっていた。
その心の隙間をふいに狙い撃ちにされてしまった。
「ぎゃん」
「何っ!」
不意打ちを食らったシルバーは突然もんどりうって倒れ伏し、横倒しになったまま動かない。
そして、なんと横腹に開いた無残な穴から夥しい血を垂れ流していた。
「シルバー!」
子供達も地面に落とされてしまったが、雪が深い場所だったのと厚着をしていたのが幸いした。
また頭にも革の帽子を被っており、防寒の内装を厚く設えた物だったので軽い打ち身程度で済み、たいした怪我はなかった。
ちゃんと自分達で起き上がってきて、それからシルバーの惨状を見て悲鳴を上げて駆け寄った。
「シルバー、シルバー、目を開けて」
「いやだよ、シルちゃんが死んじゃったら」
だが俺は子供達に声をかけた。
「そこの森の中へ逃げ込め。
安心しろ、シルバーはフェンリルだ。
既に回復魔法はかけたので、このくらいでは死にはせん。
だが内臓に直接毒を撃ち込まれた。
しばらくは動けないだろう。
敵の狙いは我々の位置を空から特定した上で、油断していたところを攻撃して足を奪い、地上部隊のために足止めする事だった。
くそ、まさか希少な魔法金属のオリハルコン製の毒弾を航空攻撃の速度を持って撃ち込んでこようとは!」
Ω魔獣たるフェンリルの外皮はミスリル素材による程度の攻撃は軽く跳ね返してしまう。
その強力な毛皮を貫通するにはオリハルコン製の武器が必要だ。
しかし、実際にはそれさえも大した痛手を負わせることはできないのが通例だった。
そう簡単に狩れる魔獣ではないのだ。
知能も高いため、強力な罠を仕掛けられて逆襲を食らう事も多いので通常は冒険者などによる狩りの対象からもはずされるはずだ。
経口ではなく体に直接撃ち込むような毒や、剣や矢による毒攻撃にも本来なら強い耐性を持つのだが、まだ毒攻撃に対して耐性のまったくない若い個体が内臓に直接毒を盛られては一溜まりもない。
回復力も強いし傷自体はたいした事がないので、この程度で死んでしまうような事はないだろうが、しばらくはシルバーも行動不能だろう。
なんということか。
それにしても帝国の奴らめ、【偵察機】を持ち出してきやがったとは、まったくもって迂闊だった。
この世界には科学文明による武器はないようだったので、航空機がなければ空から見られる事はないだろうと高を括っていた俺の浅はかさが、この痛恨の事態を招いてしまった。
【飛竜】、あるいはドラゴンの類か。
卑しくも、この俺のような厄介な魔物を相手取るのだから、報告を受けて何かの対策を用意していないわけがない。
おそらく、さっきの連中がなんらかの通信手段を用意していて、倒される前に俺達の編成を伝えていたのだろう。
いつの間にか通信で【航空兵力】が呼ばれてしまっていたのだ。
なんという事だろう。
敵は的確に子供達の足を奪ったに止まらず、図体のでかい重傷者を出す事で完全に俺達の足を止めた。
すぐに移動するなら俺がシルバーを担いでいくしかないが、なるべくそれはしたくない。
動くにしても少しでもいいから、体を休めさせてからにしたい。
もう毒弾は抜いたし毒の治癒も行った。
俺の事を【お父さん】と呼ぶ、この可愛い子も絶対に守ってみせる。
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