デビルナイツ・ジン

緋色優希

文字の大きさ
39 / 59
第一章 孤独の果てに

1-39 しばしの休息

しおりを挟む
 時折は体を休ませなければいけない子供達に合わせて速度も抑えていたとはいえ、フェンリルの移動速度は十分に速かった。

 およそ、成人の足と比べて四倍の距離、子供の足ならば五倍の距離にも上る、およそ五時間で百キロメートル以上を夜明けまでに休まずに稼ぎ出した。

 アリエスも襲撃された上に十分な睡眠が取れなかったため、疲労からウトウトしていたのだが、俺が落ちないように見張っていたので、シルバーによる背中にいる乗客への気遣いも相まって落ちる心配はなかった。

 いざとなったらルーもポケットから飛び出して捉まえてくれるように打ち合わせておいたのだし。

「ふう、なんとか距離を稼げたな。
 こうしておかないと、至近で罠を張られてしまって居場所をいちいち捕捉されて、その躓く回数も増えてしまうからな」

 俺は電磁波を雲や電離層に反射させて調査し、おおよその地形や距離は把握してある。

 昨日山脈から出た時点では海岸まで約千キロメートルの地点だった。

 ここへ来る途中でアリエスに地政的な情報について確認したが、この平原と呼ばれている部分は、この大陸の三分の二を占めているらしく、そのまた三分の二以上を帝国の奴らが占めている。

 この大陸のおよそ半分を奴らの版図にしてきたわけだ。

 二つの南北に跨る大山脈で区切られた大陸の内、一番真ん中の区域に当たる西の平原と呼ばれる国は次々と奴らに併合され、この今いるサンマルコス王国を含めて残りは三か国のみ。

 そして、それは残したままに正面作戦として、電撃的な側面攻撃として東の平原の本丸アーデルセン王国を落としていったわけだ。

 まあバックとなる東の平原の国々を落とされたら、こちら側の西の平原に残っていた三国も帝国軍から挟み撃ちになる訳で、その方が早いという計算もあるのだろうな。

 連中は蛮族などと呼ばれながら、なかなか頭が切れる。
 国力、特に軍事力に勝る帝国にはそのような作戦すらも余裕でやってのけられたはずだ。

 やはり海を制しているのは強い。

 まあ海を行くには多くの犠牲を生んで激しい損耗があるとの事だが、そんな事を気にする連中ではなさそうだし。

 激しく損耗させる役割の兵士は、主に併合された立場の悪い国の人間なのだろう。

 そのような真似ができるのは強い独裁政権があり、また力で反乱を抑えられるという事なのだ。

 また長らく辺境の蛮族扱いされてきて、従属的で屈辱的な扱いを受けてきた歴史が、また彼らをそのまるで長年に渡る支配への意趣返しのような激しい征服欲に駆り立てるのだそうだから、その妄執も原動力となっているので余計に始末に負えない。

「しばらく、ここで休んでいくか」

「いいの?
 もっと離れた方が安心できそうだけど」

「俺達はよくても、お前達の体がもたぬ。
 しばし休んでから昼中は五刻の間、駆け通す。

 それで海までの直線距離の三割、まあ実際の道程の二割少しの行程を確保できるだろう」

「わかった。
 じゃあありがたくそうさせてもらうわ」

「ああ、食事をしてゆっくりと一刻ほど休め」

 道から少し入った場所に広い平地があったので、そこに敷物を敷いただけの簡易な陣地を設営し、ルーが簡単に食事を用意した。

 あまり匂うと誰かに見つかるといけないので、暖かい食事がよかったのだが出来合いのイモや木の実にサラダなどの食事で済ませ、お茶だけは暖かい物を用意した。

 山岳山羊の毛皮の布団を敷き、暖かい犬を枕に同じく毛皮製の屋外用の掛け布団を被せてやったら、子供達はあっという間に眠りについた。

 シルバーも眠りについたが、こいつは常に聞き耳を立てており、探索の魔法もパッシブに作用しているので、何かあれば瞬時に飛び起きてくれる。

 人間のように寝ぼけている事はない。

 俺の魔神脳に至っては起きている間にイルカのように自動的に半分ずつ随時メンテしてくれるので特に眠る必要がまったく無いし、体も眠らなくても回復させられる無敵の魔神ボディだ。

 寝るのは、まあ趣味みたいなものだな。
 人間の頃の習慣が抜けないのだ。

 そして人間と違い本来ならば必要もないのだが、何故か夢を見る事もある。

 大概は転生前の日本の夢なので、それは記憶や情報を整理するためというよりも、文字通り故郷を夢見る郷愁という奴なのだろう。

「ふう、時間との競争になるのだが、一度は十分な休息を取らせないとこの子達の体が参ってしまうな。

 あの街で、せめて一晩ゆっくり寝られれば、かなり疲労が違ったはずなんだが。
 この先も街に入るのは厳しいしなあ」

「そいつはしょうがないわ。
 ちょっと哨戒も兼ねて食料になりそうな物を採集してきます。

 その子達が買って来た分だけだと長引いた時に、人間用の食糧がこの先心許ないかも」

「ああ、構わないが十分に気を付けてくれ」

「わかってます。
 このポケットサイズのままでも、食材の探索や魔法による掘り出しなんかは可能だし」

 そして、子供のポケットに入るほどのサイズのガルーダは出かけていった。

 パッと見ただけでは魔物だとは気づくまい。多分、鳥かなんかだと思われるはずだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...