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第一章 孤独の果てに
1-44 港は戦場
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とりあえず港に足を踏み入れたが、その膨大な港の労働者達や船乗りなんかも特に俺達に気付いた者はいないようで、港は日常の活気ある喧噪に包まれていた。
食事を販売する売り子が、日本の駅弁かスタジアムの弁当販売員のように大きな声で叫んでいる。
積み荷の商品が大量に並べられ、雑多に置かれているだけに見えるそれらにも荷札が張り付けられ、積み込み作業を静かに待っている。
荷主たる商人達が手に羊皮紙を握り締めて忙しく駆け回り、傷だらけのパイプを咥えた貫禄のある船長らしき人物が怒号を上げ、甲板長がその剛腕を奮い若い水夫見習い達をどやしつけている。
海の男達は皆、日頃から声がでかい。
そうしないと、全ての音を吸い込んでしまうかのような広く開けた海の上では、波の音とも相まって他の奴に声が伝わらないからだ。
そして誰も俺達一行を襲撃してくる者はおらず、俺としては却って拍子抜けするくらいだった。
「おかしいな。
敵の気配がまったくない。
こんなはずはないのだが」
「敵はまだ気づいていないだけかもしれないよ」
だが俺は巨大な魔物頭を振って、メリーベルの子供らしい楽観的な意見を退けた。
「いや、敵はここが俺達のこの国での最終目的地だという事を知っているはずだ。
待ち伏せていないはずがない。
お前達が叔母のところに行きたいのはわかっているのだし、そこへ行けるのは基本的にこの港だけだ。
そして、お前達はなんとしても船に乗りたいのだから、敵も慌てる必要はどこにもない。
ここはアウェー、敵の陣地内なのだ」
そして、あいつが必ずいる。
いや、転移魔法持ちのあいつは別にここにいなくてもいいのだ。
部下に見張らせて、どこかで準備万端で優雅にお茶でも飲みながら、じっくりと牙を研いでいやがるのに違いないのだ。
「そうか、そうだよね。
やっぱりドキドキするう」
「そうね、油断しては駄目だわ。
ここは私達にとって戦場なのだから」
「だが臆するな、子供達。
必ず負けとわかっている戦いなのではない。
一応、あれこれと考えているのだが、情報が足りなさ過ぎてアドリブで行くほかはない」
「うん、わかってる」
俺は情報を補うべく感知のために各種走査線を厳密に搾り込み、レーザーで精査していく検査装置のようにして順番に港中を調べ上げたが特に怪しい動きをする者はいないようだった。
空間転移魔法を持っているあいつ、ロルス・コングが俺達を付け回しているはずなのだから、絶対にこのまま無事に済むとは思えない。
確かにこの港自体は、このサンマルコス王国の所有で、まだこの国が帝国の軍門に下ったわけではなく、そう大っぴらには戦闘はやれないだろう。
とはいうものの、お隣のパルミシア王国は完全な被占領下にあるわけでもないが、自国の軍勢を損耗率一切無視の無謀突撃で蹴散らされ、大軍勢を盟主たる兄弟国まで通してしまった。
そして河口にあるアモス他三つの港を全て占領されてしまっている。
辺境の街ローエングリムでの大立ち回り、あの時から一週間以上は経ってしまっているため、向こうは準備万端のはずなのだ。
現在地はレーダースキルによる測定によると最寄りの帝国海軍拠点であるアモス港から千キロ、帝国国内の最寄りの港から八百キロといったところだろうか。
敵の機動力は読めないのだが、そこからどれくらいかかるものか。
仮に帆船の速度が時速十ノット、時速十八・五キロとしたならば二十四時間で四百四十四キロ。
大軍勢が二日から二日半で来れてしまう距離だった。
帝国は非常識だから二十四時間水夫を働かせるくらい平気でやってのけるだろう。
多分、そういう真似ができる回復魔法があるはずだ。
それを使うと寿命が著しく縮むような代物でも躊躇なく使うのに違いない。
そして魔法や魔導で速度ブーストしていれば、その何倍もの速度でやってくる。
そこの水平線の向こうに大艦隊が待ち構えていたとしても何の不思議もない。
俺は思わず、レーダースキルでその辺を確認してみたが、特にそういう事はなかったようで胸を撫でおろした。
だが、この大海原こそが彼ら帝国の帝国たる由縁といってもいい力の源泉となる大柱の一つであり、この平原を主体とするゴワール大陸の覇者と言ってもいいルーゲンシュタット帝国が誇る大海軍の縄張りそのものなのだ。
「さて何にせよ当面の間、敵が静かにしてくれているのであれば、それはそれで勝手のよくわからない俺達にとってはありがたい事だ。
お前達、あそこにあるカウンターで船の切符を売っているようだ。
あと、船の運航スケジュールなんかも聞ければ更にいいな。
できるか、お前達二人だけで」
「やります。
出来るかとか出来ないとか、もうそういう段階はとっくに過ぎてしまっているのですから」
姫君の、その幼いながらも真剣な双眸が放つ決意は、この魔神の騎士が十分に受け取った。
後は俺達が離れた隙を狙って敵が二人を襲撃してこない事を祈ろう。
「わかった。
俺とシルバーは、この倉庫の蔭にいる。
ルー、二人を頼んだぞ」
「了解したわ。
幸運を祈っていてちょうだい」
「ああ、よろしく頼む」
食事を販売する売り子が、日本の駅弁かスタジアムの弁当販売員のように大きな声で叫んでいる。
積み荷の商品が大量に並べられ、雑多に置かれているだけに見えるそれらにも荷札が張り付けられ、積み込み作業を静かに待っている。
荷主たる商人達が手に羊皮紙を握り締めて忙しく駆け回り、傷だらけのパイプを咥えた貫禄のある船長らしき人物が怒号を上げ、甲板長がその剛腕を奮い若い水夫見習い達をどやしつけている。
海の男達は皆、日頃から声がでかい。
そうしないと、全ての音を吸い込んでしまうかのような広く開けた海の上では、波の音とも相まって他の奴に声が伝わらないからだ。
そして誰も俺達一行を襲撃してくる者はおらず、俺としては却って拍子抜けするくらいだった。
「おかしいな。
敵の気配がまったくない。
こんなはずはないのだが」
「敵はまだ気づいていないだけかもしれないよ」
だが俺は巨大な魔物頭を振って、メリーベルの子供らしい楽観的な意見を退けた。
「いや、敵はここが俺達のこの国での最終目的地だという事を知っているはずだ。
待ち伏せていないはずがない。
お前達が叔母のところに行きたいのはわかっているのだし、そこへ行けるのは基本的にこの港だけだ。
そして、お前達はなんとしても船に乗りたいのだから、敵も慌てる必要はどこにもない。
ここはアウェー、敵の陣地内なのだ」
そして、あいつが必ずいる。
いや、転移魔法持ちのあいつは別にここにいなくてもいいのだ。
部下に見張らせて、どこかで準備万端で優雅にお茶でも飲みながら、じっくりと牙を研いでいやがるのに違いないのだ。
「そうか、そうだよね。
やっぱりドキドキするう」
「そうね、油断しては駄目だわ。
ここは私達にとって戦場なのだから」
「だが臆するな、子供達。
必ず負けとわかっている戦いなのではない。
一応、あれこれと考えているのだが、情報が足りなさ過ぎてアドリブで行くほかはない」
「うん、わかってる」
俺は情報を補うべく感知のために各種走査線を厳密に搾り込み、レーザーで精査していく検査装置のようにして順番に港中を調べ上げたが特に怪しい動きをする者はいないようだった。
空間転移魔法を持っているあいつ、ロルス・コングが俺達を付け回しているはずなのだから、絶対にこのまま無事に済むとは思えない。
確かにこの港自体は、このサンマルコス王国の所有で、まだこの国が帝国の軍門に下ったわけではなく、そう大っぴらには戦闘はやれないだろう。
とはいうものの、お隣のパルミシア王国は完全な被占領下にあるわけでもないが、自国の軍勢を損耗率一切無視の無謀突撃で蹴散らされ、大軍勢を盟主たる兄弟国まで通してしまった。
そして河口にあるアモス他三つの港を全て占領されてしまっている。
辺境の街ローエングリムでの大立ち回り、あの時から一週間以上は経ってしまっているため、向こうは準備万端のはずなのだ。
現在地はレーダースキルによる測定によると最寄りの帝国海軍拠点であるアモス港から千キロ、帝国国内の最寄りの港から八百キロといったところだろうか。
敵の機動力は読めないのだが、そこからどれくらいかかるものか。
仮に帆船の速度が時速十ノット、時速十八・五キロとしたならば二十四時間で四百四十四キロ。
大軍勢が二日から二日半で来れてしまう距離だった。
帝国は非常識だから二十四時間水夫を働かせるくらい平気でやってのけるだろう。
多分、そういう真似ができる回復魔法があるはずだ。
それを使うと寿命が著しく縮むような代物でも躊躇なく使うのに違いない。
そして魔法や魔導で速度ブーストしていれば、その何倍もの速度でやってくる。
そこの水平線の向こうに大艦隊が待ち構えていたとしても何の不思議もない。
俺は思わず、レーダースキルでその辺を確認してみたが、特にそういう事はなかったようで胸を撫でおろした。
だが、この大海原こそが彼ら帝国の帝国たる由縁といってもいい力の源泉となる大柱の一つであり、この平原を主体とするゴワール大陸の覇者と言ってもいいルーゲンシュタット帝国が誇る大海軍の縄張りそのものなのだ。
「さて何にせよ当面の間、敵が静かにしてくれているのであれば、それはそれで勝手のよくわからない俺達にとってはありがたい事だ。
お前達、あそこにあるカウンターで船の切符を売っているようだ。
あと、船の運航スケジュールなんかも聞ければ更にいいな。
できるか、お前達二人だけで」
「やります。
出来るかとか出来ないとか、もうそういう段階はとっくに過ぎてしまっているのですから」
姫君の、その幼いながらも真剣な双眸が放つ決意は、この魔神の騎士が十分に受け取った。
後は俺達が離れた隙を狙って敵が二人を襲撃してこない事を祈ろう。
「わかった。
俺とシルバーは、この倉庫の蔭にいる。
ルー、二人を頼んだぞ」
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幸運を祈っていてちょうだい」
「ああ、よろしく頼む」
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