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第四章 大精霊を求めて
4-71 おじさん達のえんがわ
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「いよーっ!」
俺はとんでもなく陽気に王都ヨークの王城を襲撃し、その御機嫌な笑顔を振りまいていた。
今現在、日本時間にして十二月二十二日。
クリスマス直前であった。
「お、どうした一穂」
師匠が、おそらくはフォミオに作らせたらしき立派な将棋台で、自分の部屋で魚海さんと一局打っていた。
なんていうか、傍から見ていると縁側でおっさん二人がパチンパチンっとやっているような、そんな不思議な雰囲気があるのだ。
簾や、豚の形をした陶器の線香台で炊かれる蚊取り線香に、お盆に乗ったスイカまで幻視しそうな雰囲気を漂わせていた。
いかにも、この人達らしい渋いゲームだ。
聞いた話だと、魚海さんの方が師匠よりも将棋に関しては棋力が高いらしい。
俺は将棋って、こうやって見ていてもよくわからないんだよね。
個人的にはオセロやトランプの方がいいかな。
「相変わらず渋いな、師匠。
今、あの独裁国家より帰ったよ。
海産物の御土産がてんこもりなんだぜー」
「そいつはよかった、楽しみだな。
ほう、魚海さん。そう来たか」
「じゃあ、これで終いという事にしておきましょうかね。
本日の一穂君の御土産の目録が気になりますなあ」
「え、この手は」
そこから師匠は猫背に腕組みして盤に覆いかぶさり、じっと盤面を睨みつけ、目を皿のようにして見ていたが突然後ろに倒れ込んでプハーっと息を吐いた。
「いやあ、そこに来ましたか。
そこって終わったらもうそこしかないって感じなんだけどなあ。
いやあ、負け負け。参りました」
「はっはっは。
こいつは昔、公開対局の時に係のプロの先生に三面打ちで相手をしていただいた時に教えていただいた手ですなあ。
うちの実家のあたりは有名な棋士さんの一門の出身地でして、市内で毎年対局イベントを開催してくれるのですよ。
こっちへ来てしまったので、もうそういう催しにも参加できなくなったので残念です。
こっちじゃあ将棋の相手も二~三人しかおりませんしねえ」
「それじゃあ、ここの王族にでも仕込んで将棋を流行らせますかなあ。
王様に王手! なんてね。
わっはっは」
そして勝負にキリがついたので、冬向けの紺生地の日本風ワンピースを着たアメリアさんが、師匠の手作りの武骨な陶器の茶碗で温めてくれた日本茶を俺の分まで出してくれた。
部屋の中は気温調節が行き届いている。
相変わらず、日本茶は俺のペットボトルしかないのだが。
紅茶がある以上、どこかに元になった緑茶も必ずあるはずなので、こいつは根気よく探してもらっているところだ。
異世界も広いし、交通は発達しているとは言えないので、あれこれと伝搬されていく速度は遅いのだ。
お茶請けは、勇者女子達が作ってくれたアラレっぽい和風のお菓子だ。
糯米がないので『ばったもん』なのだが、それでも結構美味しい。
主にうちで開発した調味料の勝利である。
「キリがついたのなら、御土産を見てくださいよ。
魚海さん、また一緒に行きましょう。
あなたの分の通行証も貰ってありますから」
「はあ、通行証?」
魚海さんはよくわかっていないようで首を傾げている。
このおじさんは異世界の世事には非常に疎そうだ。
異世界の海産物なら両世界を通じてナンバーワンと言ってもいいくらいの実力者だと思うのだが。
異世界限定ならば、多分将棋の棋力も一番だろう。
魔王って将棋くらいするのかね。
昔からあるゲームだし、案外と強かったりして。
「ああ、国内に移動制限みたいな物があるのです。
特に外国人には監視もつくのですが、これさえあれば、そういう煩わしい者も一切なしで出歩けますので。
ついでに、あの国の独裁者を俺の舎弟にしてきましたので、色々融通は利きますよ。
何故か眷属化できてしまったので絶対に裏切られる事はありません」
「舎弟だと!? 眷属?
お前、あの国に何しに行ったんだ」
「そんな物、いい魚を仕入れに行ったに決まっているじゃないですか」
「まあいい。見せろ」
師匠の部屋には本格的な厨房がついている。
雰囲気からして最初からついていたようには見えないので、後から部屋を一個潰して丸々厨房に改装したらしい。
どうせ、勇者陽彩に飯を食わせるからという名目で王様に大枚かけて作らせた物に違いない。
まあ実際に食べさせてくれる、お母さん的存在である事には違いないのだが。
そういう物なので、さすがに薪を使う竈はない。
まあ多分試作をしたり自分が食べたいものを作ったりするための設備なので、竈や大火力を必要とする場合は城の厨房を使い、王様などが試食係を務めるのだろう。
日本なら、いわゆるシステムキッチンにあたる物が据えられているが、その長い二つのデュアルアイランド型に配置された珍しいタイプの作業台に挟まれた動きやすい空間で、二人ともエプロンを付けてついてきた。
このタイプは一人で使う時に材料などをかなり広げられるので、材料に乏しい異世界で難しい料理なんかの試作する時などに使い勝手はいいのだろう。
「じゃあん、まずは平目とカレイの白身魚だよん。
なかなか立派なもんだろ。
こいつはいい縁側が取れるぜ。
俺、こいつが大好きなんだよね」
「ほお、こいつはいいな」
二人とも、目を細めてそいつらを検分していた。
そして、俺はそいつを取り出して、その横に並べてみせたのだ。
「おや、つぶ貝じゃないですか。
よく見ると、ちょっと違う気もしますが、多分あのこりこりとした歯ごたえと甘みはありそうですな。
あれもいろんな近似の貝の総称ですから」
プロの手にかかれば、きっと美味しく調理されるよねー。
貝はちょっと自分では扱い切れないと思ったのでやめておいたのである。
「これも大好物なんですよ。
あと、自分はこいつが苦手なんですけど、定番のサザエ。
それと、ほらアンコウです。
お鍋の季節ですからね。
イサキっぽい魚も見つけましたよ。
あと鮑に渡り蟹に、鮪ちゃん。
トコブシとかは見ない気がしたのですが。
この鮪っぽい奴って本鮪っぽくないですか。
なんでこのような物がいるのか知りませんが、ありがたいです。
あと鮑の乾物に魚の干物各種っと。
ちょっと遅い時間に行きましたんで、今度は魚海さんと一緒に早朝に行きたいですねー」
「でかした」
「いい米があるのなら、お寿司にしたいところなんですがね」
「まあ、アルファ寿司でもいってみますか」
だが、そこには大きな問題が立ちはだかっていたのだ。
俺はとんでもなく陽気に王都ヨークの王城を襲撃し、その御機嫌な笑顔を振りまいていた。
今現在、日本時間にして十二月二十二日。
クリスマス直前であった。
「お、どうした一穂」
師匠が、おそらくはフォミオに作らせたらしき立派な将棋台で、自分の部屋で魚海さんと一局打っていた。
なんていうか、傍から見ていると縁側でおっさん二人がパチンパチンっとやっているような、そんな不思議な雰囲気があるのだ。
簾や、豚の形をした陶器の線香台で炊かれる蚊取り線香に、お盆に乗ったスイカまで幻視しそうな雰囲気を漂わせていた。
いかにも、この人達らしい渋いゲームだ。
聞いた話だと、魚海さんの方が師匠よりも将棋に関しては棋力が高いらしい。
俺は将棋って、こうやって見ていてもよくわからないんだよね。
個人的にはオセロやトランプの方がいいかな。
「相変わらず渋いな、師匠。
今、あの独裁国家より帰ったよ。
海産物の御土産がてんこもりなんだぜー」
「そいつはよかった、楽しみだな。
ほう、魚海さん。そう来たか」
「じゃあ、これで終いという事にしておきましょうかね。
本日の一穂君の御土産の目録が気になりますなあ」
「え、この手は」
そこから師匠は猫背に腕組みして盤に覆いかぶさり、じっと盤面を睨みつけ、目を皿のようにして見ていたが突然後ろに倒れ込んでプハーっと息を吐いた。
「いやあ、そこに来ましたか。
そこって終わったらもうそこしかないって感じなんだけどなあ。
いやあ、負け負け。参りました」
「はっはっは。
こいつは昔、公開対局の時に係のプロの先生に三面打ちで相手をしていただいた時に教えていただいた手ですなあ。
うちの実家のあたりは有名な棋士さんの一門の出身地でして、市内で毎年対局イベントを開催してくれるのですよ。
こっちへ来てしまったので、もうそういう催しにも参加できなくなったので残念です。
こっちじゃあ将棋の相手も二~三人しかおりませんしねえ」
「それじゃあ、ここの王族にでも仕込んで将棋を流行らせますかなあ。
王様に王手! なんてね。
わっはっは」
そして勝負にキリがついたので、冬向けの紺生地の日本風ワンピースを着たアメリアさんが、師匠の手作りの武骨な陶器の茶碗で温めてくれた日本茶を俺の分まで出してくれた。
部屋の中は気温調節が行き届いている。
相変わらず、日本茶は俺のペットボトルしかないのだが。
紅茶がある以上、どこかに元になった緑茶も必ずあるはずなので、こいつは根気よく探してもらっているところだ。
異世界も広いし、交通は発達しているとは言えないので、あれこれと伝搬されていく速度は遅いのだ。
お茶請けは、勇者女子達が作ってくれたアラレっぽい和風のお菓子だ。
糯米がないので『ばったもん』なのだが、それでも結構美味しい。
主にうちで開発した調味料の勝利である。
「キリがついたのなら、御土産を見てくださいよ。
魚海さん、また一緒に行きましょう。
あなたの分の通行証も貰ってありますから」
「はあ、通行証?」
魚海さんはよくわかっていないようで首を傾げている。
このおじさんは異世界の世事には非常に疎そうだ。
異世界の海産物なら両世界を通じてナンバーワンと言ってもいいくらいの実力者だと思うのだが。
異世界限定ならば、多分将棋の棋力も一番だろう。
魔王って将棋くらいするのかね。
昔からあるゲームだし、案外と強かったりして。
「ああ、国内に移動制限みたいな物があるのです。
特に外国人には監視もつくのですが、これさえあれば、そういう煩わしい者も一切なしで出歩けますので。
ついでに、あの国の独裁者を俺の舎弟にしてきましたので、色々融通は利きますよ。
何故か眷属化できてしまったので絶対に裏切られる事はありません」
「舎弟だと!? 眷属?
お前、あの国に何しに行ったんだ」
「そんな物、いい魚を仕入れに行ったに決まっているじゃないですか」
「まあいい。見せろ」
師匠の部屋には本格的な厨房がついている。
雰囲気からして最初からついていたようには見えないので、後から部屋を一個潰して丸々厨房に改装したらしい。
どうせ、勇者陽彩に飯を食わせるからという名目で王様に大枚かけて作らせた物に違いない。
まあ実際に食べさせてくれる、お母さん的存在である事には違いないのだが。
そういう物なので、さすがに薪を使う竈はない。
まあ多分試作をしたり自分が食べたいものを作ったりするための設備なので、竈や大火力を必要とする場合は城の厨房を使い、王様などが試食係を務めるのだろう。
日本なら、いわゆるシステムキッチンにあたる物が据えられているが、その長い二つのデュアルアイランド型に配置された珍しいタイプの作業台に挟まれた動きやすい空間で、二人ともエプロンを付けてついてきた。
このタイプは一人で使う時に材料などをかなり広げられるので、材料に乏しい異世界で難しい料理なんかの試作する時などに使い勝手はいいのだろう。
「じゃあん、まずは平目とカレイの白身魚だよん。
なかなか立派なもんだろ。
こいつはいい縁側が取れるぜ。
俺、こいつが大好きなんだよね」
「ほお、こいつはいいな」
二人とも、目を細めてそいつらを検分していた。
そして、俺はそいつを取り出して、その横に並べてみせたのだ。
「おや、つぶ貝じゃないですか。
よく見ると、ちょっと違う気もしますが、多分あのこりこりとした歯ごたえと甘みはありそうですな。
あれもいろんな近似の貝の総称ですから」
プロの手にかかれば、きっと美味しく調理されるよねー。
貝はちょっと自分では扱い切れないと思ったのでやめておいたのである。
「これも大好物なんですよ。
あと、自分はこいつが苦手なんですけど、定番のサザエ。
それと、ほらアンコウです。
お鍋の季節ですからね。
イサキっぽい魚も見つけましたよ。
あと鮑に渡り蟹に、鮪ちゃん。
トコブシとかは見ない気がしたのですが。
この鮪っぽい奴って本鮪っぽくないですか。
なんでこのような物がいるのか知りませんが、ありがたいです。
あと鮑の乾物に魚の干物各種っと。
ちょっと遅い時間に行きましたんで、今度は魚海さんと一緒に早朝に行きたいですねー」
「でかした」
「いい米があるのなら、お寿司にしたいところなんですがね」
「まあ、アルファ寿司でもいってみますか」
だが、そこには大きな問題が立ちはだかっていたのだ。
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