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〜日常編〜

熱気と花火と、ぶどう飴2

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 次に私達が向かったのは、やきそば屋、たこ焼き屋、イカ焼き屋、などなど食べ物ばかりだ。買い込んで車の中で花火を見ながら食べようと言うのが香楓の提案だった。
 祭りの熱気は徐々に盛り上がっていき、大勢の人に囲まれるお神輿みこしは盛大で豪勢だった。
「他に買うものある?」
「んー・・・・」
 どうだったか。大判焼きやチョコバナナなんかの甘い物も買ったし、他に何かあったか。
「あっ・・・・」
 ふと、隣で香楓声を出した。香楓が見つめる先にあったのは、飴屋。
「あれも祭りって感じだよね」
「・・・そう、だな」
 さっき見た夢を、ハッキリと思い出してしまう。あぁ、懐かしいな。
「飴いる?」
「ぶどう飴・・・」
「ぶどう飴ね。僕も好きだったな。」
 へぇ、意外。そもそも香楓って祭りとか無縁そうだ。浴衣はすごく似合ってるけど。
 私たちはその飴屋を最後に、駐車場に向かった。会場から離れるにつれ、遠くなる喧騒と熱気がどこか寂しく、何度も振り返った。
 流石に他の人達は会場で花火を見るらしく、駐車場にいるのは私と香楓の二人きり。
 人混みに居たのはたった数時間だけなのに、香楓と二人きりになったのが、久々な気がする。
 香楓は運転席、私は助手席に座り、各々気になるものから食べ始めた。
 私はずっと気になっていた、苺ホイップの大判焼きにかぶりつく。もう苺ホイップって字面だけで美味しい。
 でも実際に食べなければ。口に入れた瞬間に広がる苺の爽やかさとホイップの甘さが相性抜群で美味しい。
 パクパクとすぐに食べ終わってしまい、次は定番のつぶ餡を食べた。定番ながらも甘過ぎず、小豆本来の味があって美味しい。生地もモチモチしている。
 香楓は瓶ラムネをちびちびと飲んでいる。お酒を飲む時と同じように無駄に色気を出して飲むから、ラムネという飲み物が私の中で概念を変えつつある。
「連れてきてくれて、有難うな・・・」
 何となく、お礼を言った。本当は礼を述べる必要は無い。私はコイツに許可を取らないと祭りに行けない、なんて、人権侵害だからな。
「楽しめたなら良かった。足痛くない?」
「大丈夫だ」
 車のライトの薄い光だけで車内は薄暗いけど、香楓がいつも通り優しげに笑っているのは、雰囲気て分かった。
 本当は、久々に歩いたから少し足が疲れている。けど、これ以上コイツに迷惑は掛けられない。
「私の両親はな・・・・」
 花火が始まる数分前。私はポツリと言葉を零した。香楓が、ん?と返す。
「よく、祭りに連れて行ってくれたんだ・・・・だから、今日は何だか懐かしかった。」
「桜夜ちゃん・・・・」
 私は場を誤魔化すように、ラムネの蓋を開けて、グビグビと炭酸を流し込んだ。喉がヒリヒリして痛い。
「初めて、話してくれたね・・・」
「まぁ、な・・・もう死んだ人達だ。今更、嘆いたって帰ってこない。なら、懐かしむくらいならしてやらないと」
「そうだね・・・・」
 何が、そう、なのかは分からない。私は香楓の事をあまり知らない。けれどそれは香楓も同じで、香楓は私の心内までは分からない、はず、だ。
 ラムネを片手にぶどう飴をかじった。薄い飴の中には、コロコロとしたぶどうが入っていて、美味しい。それに、懐かしい。
「お前は簡単に死ぬなよ・・・人間って簡単に死ぬぞ」
「桜夜ちゃん置いて死ねないよ。と言うか、僕死にたくない。」
「死ぬのが怖いのか?」
「怖いよ、すごく怖い・・・」
 コイツにも怖いものあったんだなぁー、意外だなー、なんて考えていたら、ドンっという音と共に、赤い光が私達を照らした。
 祭りの終わりにして、最大の楽しみ・・・・花火の始まりだ。
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