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王立第三魔術学園と不正入学【一】
しおりを挟む今日は伝統と格式ある王立第三魔術学園の入学式。
全校生徒約五百人と非常勤を含めた全教員が、学園中央部の大講堂に集結していた。
(さてさて、私の生徒会にふさわしい新入生はいるかしらね……)
(むむっ、あちらの少女は……魔具師の大家アーノルド家の御息女か! いやぁ、少し見ぬ間に大きくなられたものだ。ぜひうちの研究室に欲しいですな!)
(あら……あらあら!? もしかしてあの子……ローゼスの末裔じゃないかしら!? 噂に聞く、『呪蛇の契り』、ぜひこの手で調べたいわねぇ!)
(『赤道の申し子』ドランバルト、『神明流の麒麟児』ジュラン、『聖王学院の俊傑』ガイウス。ほっほっほっ、この世代は近年まれに見る豊作ですなぁ! あちらこちらと目移りしてしまうわい!)
上級生や教員たちはみな、新入生の『品定め』に躍起となっていた。
ある者は、優れた魔術論文を発表し、教授の座を射止めるため。
ある者は、強い魔術師を部内に引き込み、全国優勝を果たすため。
ある者は、全く新しい魔術理論を提唱し、魔術界にその名を轟かせるため。
それぞれの野望を果たすためには、有望な魔術師の確保が必要不可欠。
この入学式は新入生を祝う場であると同時に、熾烈なヘッドハンティングの舞台でもあるのだ。
大勢の魔術師が、若き新鋭たちを注意深く観察する中――その注目を最も集めているのは、過酷な入学試験を首席で突破した最優秀生徒、すなわち『新入生代表』。
学園中の視線を受けながら、檀上で挨拶を読み上げているのは――。
「こ、こ、こ、これで挨拶を終了させていただきたく思います。し、新入生代表エレン」
がっちがちに緊張したエレンだった。
(うぅ、どうしてこんなことに……っ)
今より遡ること一週間ほど前――。
エレンとヘルメス、その他数名の使用人が、優雅に朝食を囲んでいると、
「た、たたた大変っすー! 来ました来ました! ついに届きましたよ! エレン様の『合否通知』が!」
正門の掃除をしていたティッタが、大慌てで食卓へ飛び込んできた。
その手に握られているのは、王立第三魔術学園の公印が押された分厚い茶封筒。
朗らかな昼食に大きな緊張が走る。
「そ、それじゃ、開けますね……?」
一同が固唾を呑んで見守る中、エレンはそっと封筒を開く。
するとそこには――『合格』と記された通知書が入っていた。
「や、やった……!」
彼が歓喜の声をあげると同時、パチパチと温かい拍手が送られる。
「おめでとう。この短い期間で本当によく頑張ったね、エレン」
「さすがはエレン様、たった一か月で王立に受かるなんて、半端ないっす! そんなこと普通できないっすよ!」
「合格、おめでとうございます」
「この私の教えを受けているんですから、当然の結果と言えるでしょう」
ヘルメス・ティッタ・リン・シャルは、それぞれの言葉で祝意を送り、
「ありがとうございます!」
エレンは万感の思いを噛み締め、満面の笑みで応えた。
(やった、やったぞ……っ)
彼にとっては、人生初とも言える成功。
途轍もない幸福感に包まれていると――合格通知書の入っていた封筒から、質のいい羊皮紙がヒラリと落ちた。
「あり、なんか落ちたっすよ?」
ティッタはそれをヒョイと拾い上げ、そこに記された文章を読み上げる。
「えーっと何々、『エレン殿。貴殿は当学園の第百次入学試験において、大変優秀な成績を修められ、首席合格者となりました。つきましては、新入生代表として、入学式の折に登壇していただきたく存じます』……」
一瞬の沈黙の後、歓喜の渦が巻き起こる。
「て、天才っす……! エレン様は世紀の天才魔術師っす!」
「さすがはエレン様。まさか首席で合格なされるとは……感服いたしました」
「あの王立で首席合格……!? ま、まぁまぁと言ったところですね……っ。別に悔しくなんかないですよ? えぇ、私でもきっと楽勝ですから……多分」
興奮したティッタ、誇らしげなリン、微妙に悔しそうなシャル――三者三様の反応で、エレンの首席合格を喜んだ。
しかし……。
「いやでも、俺なんかが新入生代表だなんて……」
当の本人は非常に困惑していた。
幾分明るくなったものの、長年の物置小屋生活によって、エレンの自己肯定感は未だ非常に低い。
自分の如き矮小な存在が、名門魔術学園の新入生代表を務めるのは、恐れ多いことだと思ったのだ。
「エレン、あまり自分を卑下し過ぎちゃ駄目だよ?」
「で、ですが……っ」
「そんなに重く考えないで、心配しなくても大丈夫だから。王立第三魔術学園はそんなに怖いところじゃないよ。まだ見ぬ温かい友人と優しい先生が、君のことを待っているんだ。それに、新入生代表の挨拶を任されるなんて、一生に一度あるかどうかの機会だし、とても名誉なことだ。ここはちょっと勇気を出して、チャレンジしてみるのもいいんじゃないかな?」
ヘルメスに優しく諭されたエレンは、しばらく考え込み――決断を下す。
「……わかりました……。新入生代表の挨拶、やってみようと思います!」
そして現在――エレンは当時の判断を悔いていた。
(あぁ、やっぱり断ればよかったなぁ……)
それというのも……周囲の視線が、思っていたよりも遥かに厳しかったのだ。
「あんな覇気のねぇ男が、今年の首席ぃ……? おいおい、冗談はよしてくれよ」
「んー……正直、彼からは大した魔力を感じないね。何かの間違いじゃないかな?」
「噂によれば、あの新入生代表は、百回の歴史を誇るうちの入学試験で、唯一の『満点合格者』らしいぞ。なんでも一部の教師からは、不正を疑う声があがっているとか……」
上級生と教師陣の冷ややかな視線を受けながらも、なんとか無事に新入生代表の挨拶をやり切ったエレンは、疲れ切った様子で檀上から降りるのだった。
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