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レイズの未来を変える。
真実を知りたい
しおりを挟むレイズの胸に渦巻く想いは、ただひとつ。
――知りたい。
それだけだった。
憎しみでも、怒りでも、破壊衝動でもない。
ただ、胸の奥で燻り続ける、形にならない「疑問」の正体を知りたかった。
あの魔族の男が叫んだ言葉――
「幼い同胞イェイラを、人間が殺した」
それが事実なのか、それとも捻じ曲げられた嘘なのか。
それを理解しなければ、何も終わらない。
メルェの死にまつわる真実と、アルバードの地に積み重なった憎悪の根源すら分からない。
だからレイズは走った。
魔族たちが敗走していった方角へ、レイズは迷いなく駆け出す。
背後からイザベルが必死に呼び止める声が聞こえたが、振り返ることはなかった。
風が顔を切り裂くように痛い。
血の匂いが鼻に残っているのに、胸の奥はひどく冷えていた。
森を抜け、丘を越え――
やがて、アルバードと魔族の領土を隔てる境界線が見えてくる。
草一本生えていない、荒れた大地。
そこに一歩足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
――まるで、世界そのものが拒絶しているようだった。
空は相変わらず重たく曇り、遠くの森の木々は黒ずみ、枝は骨のように細い。
湿った冷風が体温を奪い、土の匂いは焦げたような苦みを帯びている。
ここが――魔族の領土。
アルバードとは同じ大陸にあるはずなのに、まるで異界の風景。
レイズは無意識に、剣の柄を強く握りしめていた。
――恐怖はある。
だが、それ以上に胸を突き動かすのは「知りたい」という渇望だった。
そのとき、暗い森の奥で影が揺れた。
ひとつ、ふたつ。
やがて十近い影がじりじりと前へにじり出てくる。
魔族。
角を持つ者、獣面の者、細身の者、腕が異常に長い者。
その姿はまさに“魔族”と呼ばれる存在そのもので、全員の瞳が血に染まっていた。
「よくも……人間……!!」
怒りに震える咆哮が大地を震わせる。
次の瞬間、無詠唱の魔法が連続して飛んだ。
炎の矢が無数に生まれ、
氷の槍が鋭く伸び、
闇の刃が空を切り裂く。
殺意の奔流、そのすべてがレイズへと向かう。
しかし――。
レイズは歩みを止めない。
すべての魔法が、彼の身体に触れる前に霧のように消えていった。
炎は掻き消え、
氷は溶け、
闇は粉々に砕ける。
まるで死属性の魔力が目に見えぬ膜となり、レイズを守り続けているかのようだった。
魔族たちが顔を引きつらせる。
「ま、魔法が……効かない……だと……?」
「ありえん……そんな人間……!」
レイズは攻撃しない。
威圧もしない。
ただ真っすぐに歩く。
それが逆に魔族たちの恐怖を煽った。
「ならば――肉を裂いてやる!!」
筋骨隆々とした魔族が怒りのまま突進してくる。
その拳は岩を砕くほどの破壊力を宿していた。
大地を叩き割る衝撃とともに拳が降り下ろされる。
だが――
カァン!!
鋼を叩く鋭い音が響いた。
レイズが剣で受け止めていた。
細い身体のどこにそんな力があるのか、びくともしない。
そして――
レイズは押し返した。
「ぐっ……!?」
たった一太刀で、魔族の怪力が大きく後ろへ弾かれる。
魔族たちは呆然とした。
魔法も通じず、
怪力も通じない。
そして――剣も通じない。
「な、なに者なんだ……貴様……!」
レイズは静かに剣を下ろした。
「俺はレイズ。アルバードの者だ。……メルェの仲間だ。」
その名を口にした瞬間、魔族たちの瞳が大きく揺れた。
「イェイラ……? イェイラの仲間だと……?」
ざわめきが広がる。
怒りだけではない。
驚き、恐怖、迷い、そして――悔しさのような色。
レイズは一歩踏み出し、声を張る。
「御託はいらない! 誰から聞いたんだ!!
“メルェが人間に殺された”なんて話を……」
沈黙。
魔族たちは互いに顔を見合わせ、明らかに困惑している。
やがて、一際大きな気配を放つ魔族が前に出た。
皮膚は灰色で、額には小さな角が二本。
背は高いが、どこか“落ち着いた威厳”をまとっている。
「……貴様が真実を求めているというのなら、我らの知ることを語ろう。」
その声は重く、怒りに満ちているが、同時に“礼節”を感じさせるものだった。
レイズは視線を合わせ、静かに頷く。
「頼む。聞かせてくれ。」
魔族は深く息を吸い、言葉を紡ぐ。
「……我らにこの話を伝えたのは、人間の一人だった。」
レイズの目が細くなる。
魔族は続けた。
「髪は暗く長い。
服装は乱れず、礼儀正しい身のこなし。
だが……口元の笑みは、氷のように冷たかった。」
語る魔族の目には、強い嫌悪が宿っている。
「そやつは、指に指輪をつけていた。
家紋のような印が刻まれていたが……我らには意味は分からぬ。」
その仕草を再現するように、魔族は自分の指を指す。
「そして――こう告げたのだ。
『アルバードに住む者どもが、
メルェ・イェイラを弄び、殺した。
幼い同胞の仇を取れ』と。」
レイズの鼓動が早まった。
「……ふざけるな……誰だそいつは……!?」
思わず声が荒れる。
魔族たちは悲しげに目を伏せた。
「我らは……信じた。
愛しい幼き同胞の死に、理由が欲しかったからだ……」
その魔族は、自分の額に手を当てた。
ゆっくりと、左右に生えた――小さな角を示す。
レイズは息を飲む。
その小さな角は――
“子供の魔族の証”だった。
メルェが、かつて誇らしげに触れていた、あの角と同じ形。
レイズの胸が激しく揺れる。
その衝撃とともに――
レイズの中で、もうひとつの心臓が脈打った気がした。
そう、体の奥で。
もうひとりのレイズが――
今にも叫び出し、暴れだしそうなほどの「怒り」と「悲しみ」を揺らめかせていた。
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