【悪役転生 レイズの過去をしる。】

くりょ

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レイズは守る

その頃アルバードでは。

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そのころアルバードでは、日課となっていたはずのレイズの鍛錬がなく、奇妙な静けさに包まれていた。

いつもなら、朝の空気を裂くように木刀が唸り、鍛錬の音が屋敷全体を活気づけていたはずだ。

だが今日は――不自然なほど静かだった。

その静けさのなか、ディアナは歩きながら周囲へ視線を巡らせる。

目に映るのは、想像とはまるで違うアルバードの姿だった。

木陰では、セバスとクリスが並んで行動している。

クリスが木刀を肩に担ぎ、横でセバスが厳しい表情で何かを諭す。

(……まさか、セバスの仕事をウラトスが引き継いでいる?)

その異様な光景にディアナは思わず息を呑む。

屋敷の前では、個性の強すぎる使用人たちが忙しなく動いていた。

明るい声で談笑しながら掃除をするリアナ。

静かに読書に没頭し、誰も寄せつけない気配を纏うイザベル。

「……あの子が、レイバードの……」

ディアナの心の奥に、ざわりと波紋が広がる。

王国の騎士団では、朝な夕な鍛錬に汗を流す騎士たちがいる。

だがアルバードには、そうした“鍛錬の光景”がない。

――それでも彼らは圧倒的に強い。

その矛盾が、ディアナの胸に重くのしかかる。

やがて歩きまわっていると、一つの墓標が目に入った。

風に揺れる草の中に、ひっそりと佇む石碑。

「メルェイェイラ……? 名前からして魔族……?」

思わず呟くと、背後から声がかかった。

「ディアナさん。ここはどうですか?」

振り返ると、そこにはリリアナの穏やかな姿。

その気配は“強者”とはまるで違う。
だが不思議なほどの包容力と、母性を感じさせた。

――この人こそ、アルバードの“答え”の一部なのかもしれない。

そう直感させられた。

ディアナは静かに答える。

「はい……とても、平和な場所だと感じます」

リリアナは柔らかく微笑み、声を落とす。

「えぇ。この光景を支えているもの――それを、私たちは大切に守っているんです」

ディアナは静かに頷く。

「ですが、この場所は人と魔族の渦中にある地。
 大きな戦が起これば、一瞬で巻き込まれてしまうでしょう」

リリアナの瞳が、強い意志の光を宿す。

「だからこそ……この場所はどこよりも平和でなければならない。
 そのために私たちは、努力を惜しみません」

その時、ふと視線の先で木刀を振るうクリスの姿があった。

「……グレサスの弟……」

兄とは違う重心の取り方、構え。

まだ未熟だが、伸びる気配は誰よりも強い。

やがてクリスは二本の木刀を構えると――
片方に“火”、もう片方に“風”を纏わせた。

振り下ろされる火の刀が炎を立ち上らせ、
もう一方の風の刀がそれを膨らませ、燃え広がる。

「二刀流で……属性融合……?」

その発想は、既存の枠を超えている。

クリスの中で、何かが静かに形になりはじめていた。

その姿を見ながら、ディアナの胸に確信が生まれる。

――やはり、このアルバードという家は、常識では測れない。

アルバードが根底にしているのは「守り」だ。

だがそれは王国の“守り”とは本質が違う。

王国の守りは――
「未来の繁栄」を守るための力。

アルバードの守りは――
「今この瞬間の平和」を守るための力。

未来か、今か。

どちらも正しい。
だが、向いている方向がまるで違う。

だからこそ、同じ「守り」でも異質な強さを生むのだろう。

ディアナは胸の奥がざらりと波打つのを感じた。

(私は……未来のために魔族を滅ぼすべきだと教えられてきた。

 そしてアルバードのように魔族と歩もうとする者は、
 いずれ消えなければならないと……)

そのために、自分はここへ送り込まれた。

だが。

アルバードの人々と触れ合えば触れ合うほど――
ディアナの中に迷いが生まれる。

「私は……いったい、何をしなければならないのだろう」

その言葉は風に溶け、
どこへも届かぬまま彼女の胸に深く沈んでいった。
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